ジャック彗星 C/2014 E2 (Jacques)

 ジャック彗星が2014年7月後半から9月前半にかけて、双眼鏡で観測できる程度まで明るくなると予想されています。尾の生えた立派な姿は難しいですが、双眼鏡を使ってぼんやり見えるジャック彗星を、あなたもぜひ観測していただきたいと思います。

ジャック彗星とは

 ジャック彗星は、2014年3月13日に、ブラジルのSONAR天文台のジャックさん(Cristovao Jacques)が発見した新しい彗星です。発見当初は14.7等という暗いものでしたが、7月2日の近日点通過の前後にかけて増光します。特に近日点通過後は、地球との距離を縮めながら北上することから、北半球からの観測条件が良くなります。

軌道

 下の図は7月15日におけるジャック彗星を含めた太陽系の軌道図です。ジャック彗星は7月2日に太陽に最も近づく近日点通過を果たしています。下の図で現在ジャック彗星は、左下の方向へ公転しており、地球軌道面よりも北側にあることを意味する水色部分にやってきたところです。一方、図中の地球は軌道上の左側にあって、今後は右下方向へ公転していきます。8月下旬には地球とジャック彗星がすれ違う格好になり、両天体は最も接近するでしょう。

明るさ

 下のグラフはジャック彗星の光度変化を表したものです。7月上旬に最も明るくなって6等を超えますが、これはもちろん太陽に近づくためです。7月中旬に入って徐々に暗くなりますが、8月になると6.4等前後でいったん踏みとどまります。これは、太陽から遠ざかることにより減光するのと、地球へ近づくことにより増光するのが、ちょうど釣り合うためです。しかしその後は地球からも遠ざかっていくため、一気に暗くなることがわかります。
 
 明るさの目安は、7月の後半が6等台前半、8月中旬までが6等台半ば、8月下旬は6等台後半です。いずれにしても、6等台であることに違いありません。6等台といえば、郊外から双眼鏡を使うと、楽に存在を確認できる明るさです。ぜひ双眼鏡を使って、ぼんやりしたジャック彗星の姿を楽しんでください。

移動経路

 下の星図は7月から9月にかけて、ジャック彗星が移動する経路を示したものです。太陽から離れて観測しやすくなってくる7月後半はぎょしゃ座にあります。しかしその後は北上し、8月に入るとペルセウス座へ移動します。8月後半にカシオペア座へ入った後は、北上から南下に転じます。8月下旬にケフェウス座へ移り、9月になるとはくちょう座へ移動します。
 
 このように、ジャック彗星は短い期間に星座間を大きく移動します。言い換えると、あなたが観測する日によって位置が違うということです。どの位置に見えるかが重要になりますので、事前によく確認しておきましょう。

7月前半から8月前半の経路図

8月後半から9月上旬の経路図

見え方

 ジャック彗星に限った話ではありませんが、彗星は恒星と異なり、面積を持った天体です。このため全体的にぼんやりしており、光が拡散しています。肉眼や双眼鏡で探すときは、モヤモヤしたとらえどころのない、丸くボーツと光る天体を探してください。尾はあまり発達していないと思われますので、期待しない方がよいでしょう。

肉眼で見える?

 先に書きましたように、明るさは6等台です。肉眼で見える最微光星は6等星ですから、どれほど観測条件が整っても、肉眼で見つけることはできません。少なくとも双眼鏡が必要になりますから、双眼鏡や天体望遠鏡を準備しましょう。双眼鏡があれば、多少の光害がある程度なら見つけることができるでしょう。しかし、市街地で街明かりが激しい場所からだと、観測できないかもしれません。

見える位置

 前置きが長くなりましたが、ジャック彗星はいつ、どの方角に見えるのかを紹介します。簡単な見つけ方の解説も加えましたので参考にしてください。

7月15日

 下の星図は7月15日3時ごろ、東京から東北東の方角を見た場合の星図です。低空には非常に明るい金星がありますから、これを目印にして探します。7月15日の場合でしたら、1.7等星で光る おうし座のβ星(星図では「20」の文字と重なって見えづらい)との中間付近にありますから、およその位置は見当がつくでしょう。
 
 ジャック彗星の明るさは6.0等ですから、双眼鏡を使えば小さな雲のようなジャック彗星を簡単に見つけられるはずです。しかしながら、この日の月齢が18ということで、満月を過ぎた大きな月明りがあります。彗星のような淡い天体は見づらいかもしれません。
 
 この時期の夜明けは早く、3時ですと、東京では早くも薄明が始まったところです。この後、どんどんと空が明るくなっていきますから、時間との戦いになります。少し早いうちから観測を始めて、星の位置関係を確かめておかれた方がよいと思います。
 
 なお、日がたつにつれてジャック彗星は次第に高度を上げていきます。20日の早朝は、おうし座のβ星に0.3度まで大接近しますから、見つける絶好のチャンスです。見逃さないようにしてくださいね。
 

7月25日

 10日が経過しました。下の星図は7月25日、東京から見た3時ごろの東北東のようすです。10日の間にだいぶ上の方へ移動しました。今後もジャック彗星が北上することから、次第に観測条件が良くなってきます。また、地球へ次第に近づいてくることから、彗星の動きが速くなります。
 
 この日は、北東の空で明るく輝く黄色い星、カペラを見つけましょう。カぺラは0等星ですから、とても明るくて目立っています。この星を一つの頂点とした大きな五角形がぎょしゃ座になりますが、その右端の2等星はおうし座のβ星です。ジャック彗星はこのβ星から左上方向へ3.5度離れたところにあります。7倍くらいの双眼鏡なら、視野の半分ほどの間隔ですね。
 
 明るさは6.2等であまり変わっていませんから、10日前と同じような見え方をします。月明りもなくて、彗星観望には最適な時期となっています。
 
 彗星の左側にはM36、M38といった散開星団があります。ジャック彗星と同じような明るさですから、双眼鏡で見比べると面白いでしょう。また天体写真でも、良い被写体になりそうです。
 

8月5日

 下の星図は8月5日、東京から見た1時ごろの北東の空のようすです。以前よりも早い時間帯に見えるようになってきましたので、今回の時間は1時としました。また、ジャック彗星が北の方へ移動していることから、見える方角も北東としています。
 
 ジャック彗星は、ぎょしゃ座の0等星カペラから遠くない位置に見えます。7.1度離れていますから、7倍くらいの双眼鏡だと、同一視野に入るか入らないかといったところです。高度がカペラとほとんど同じですから、これを利用して探します。まずカペラを双眼鏡の視野に入れてください。次に、そのまま視野を右の方へ動かしていくと、自然とジャック彗星が視野に入ります。どう、簡単でしょう?
 
 明るさは6.4等まで落ちてきましたが、見え方は10日前と比べて、それほど違いません。日が変わる少し前に月が沈みますから、暗夜で観測できて好条件です。
 

8月15日

 また10日が経過しました。ジャックス彗星はさらに北上してペルセウス座からきりん座に入りました。この頃から周極星となり、一晩中沈むことがなくなります。早い時間帯でもそこそこの高度がありますので、今回の時間は23時としました。23時だと高度が20度以上あって、彗星としては文句ありません。明るさは6.4等で10日前と変化はなく、6等台半ばをキープしています。
 
 ジャック彗星を見つけるには、ペルセウス座の星を使います。地平線から昇ってきた0等星カペラから、大きく右上方向へ視線を移すと、ペルセウス座のα星(ミルファク、1.8等)が見つかります。ジャック彗星はこの星の左側へ5.8度離れたところにあります。7倍くらいの双眼鏡なら同一視野で見られますし、10倍くらいの双眼鏡でも視野を少し外れたところで、とらえることができるくらいの間隔です。ペルセウス座のα星を視野に入れて、左の方へ少しずつずらしていくと、星雲状をしたジャック彗星が見つかるでしょう。
 
 7月上旬頃と比べると、地球との距離が半分ほどに縮まっています。彗星本体が以前よりも大きく広がっていると考えられますから、拡散して少し見づらいかもしれません。さらに、21時23分になると月齢19.6の大きな月が昇ってきて、観測の妨げになるのが残念です。
 
 7月20日頃にはh−χ星団に、8月23日頃にはM103へそれぞれ近づきます。天体写真の良い対象になりそうです。
 

8月25日

 今日は8月25日です。ジャック彗星はさらに北上しており、この頃、最も北寄りに位置します。周極星となっていることから、1日中地平線下へ沈むことがありません。また、地球へも最も接近している時期で、この日は0.57AUまで近づいています。
 
 この日のジャック彗星は、みなさんおなじみのカシオペア座にあります。北東の空で斜めを向いたWの字型を見つけましょう。言わずと知れたカシオペア座ですね。β星とγ星の中点へ向けて、α星から延長すると、ジャック彗星が見つかります。β星から6.5度、γ星から6.6度離れていますから、およその見当をつけておきましょう。
 
 明るさは相変わらず6.4等をキープしています。太陽からの距離がどんどん離れていくため暗くなるはずなのですが、地球へ急速に接近することからそれを補い、明るさが保たれているのです。
 
 ジャック彗星が地球へ近づくことから、1日あたりの移動量も大きくなっています。天体望遠鏡で数時間を置いて観測すると、移動を簡単に確認することができるでしょう。
 
 8月27日に散開星団M52へ3度あまりまで近づきます。双眼鏡なら同一視野で見られて楽しいでしょう。
 

9月4日から5日

 ジャック彗星がはくちょう座のデネブに近づくの記事をご覧ください。

シミュレーション用データ

 「つるちゃんのプラネタリウム」など、つるちゃんシリーズの各プログラムを使って、ジャック彗星のデータ登録をしてシミュレーションをされる場合は、次のようにデータ登録を行ってください。プログラムは当サイトトップページの[ダウンロードとご購入]より、ダウンロードしてご使用いただけます。
 
 1.プログラムを起動して表示設定画面を表示する。
 2.日時や観測地を適当に入力して[OK]ボタンを押す。
 3.プラネタリウムが表示されたらメニューバーより、[ツール]−[オプション]−[彗星データ設定]を選択。
 4.プラネタリウム用彗星設定画面の左下にある[次へ]ボタンを何度か押す。
 5.空白行へ下の画像のようにデータを入力する。左端のチェックボックスへチェックを入れること。
 6.[OK]ボタンを押せば設定完了。