2017年のタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星 41P/Tuttle-Giacobini-Kresak

 4月を中心にタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星が、最大で5等台半ばまで明るくなります。もし予報通りに明るくなると、都会でも双眼鏡で観測できそうです。この機会にタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星をぜひご覧ください。

※彗星の明るさは、実際に彗星が来てみないとわかりません。暗い目の予報も存在しますので、その点をご承知おきください。

タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星とは

 タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は、1858年にタットル氏によって発見され、その後1900年代に入ってからジャコビニ氏とクレサーク氏によって発見された彗星です。符号は41Pと「P」がついており、軌道が確定した周期彗星です。

軌道

 彗星というと二度と帰ってこないものや、数千年から数万年という非常に長い公転周期を持つものが数多く存在します。しかし、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は、5.42年という非常に短い公転周期を持つ短周期彗星です。
 
 地球の公転軌道面と彗星の公転軌道面の傾きを示す軌道傾角は9度しかありません。惑星で最も大きい軌道傾角を持つ水星は7度ですから、地球軌道面との傾きは小さい方といえます。
 
 下に示した太陽系の軌道図をご覧ください。地球から見て北側(図では上側)で地球へ接近することから、観測条件が非常に良いことがわかります。

距離

 下の図はタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星の距離変化を表したグラフです。太陽との距離(日心距離という)は4月中旬の前半に最も小さくなり、地球との距離(地心距離という)は4月初旬に最も小さくなります。特に地球へは 0.14AU まで近づく大接近です。太陽へ近づく頃に地球にも近づくことから、条件が非常に良いことがわかります。

太陽との距離

地球との距離

明るさ

 下の図は光度変化を表したグラフです。タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は4月上旬に、5等台半ばでピークを迎えます。双眼鏡を使えば、ぼんやりした天体をハッキリとらえることができるでしょう。もしバーストを起こせば、もっと明るくなる可能性もあります。さてどうなるでしょうか?
 
※近日点通過前後で光度曲線が違っていますのでご注意ください。(近日点通過後の方が緩やかに変化)

光度変化のグラフ(4月13日まで)

光度変化のグラフ(4月13日以降)

移動経路

 下の星図は4月1日を挟んだ前後2ヶ月間に、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星が通る経路を示したものです。彗星は星図上で右から左へ移動します。
 
 彗星は2月ごろ、しし座付近から北上を始めます。3月後半になると北斗七星を横切ってりゅう座に入ります。4月からは南下に転じ、5月にこと座の横を通過します。

見え方

 彗星は恒星と異なり、面積を持った天体です。このためタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星の見え方は全体的にぼんやりしており、光が拡散して見えます。肉眼や双眼鏡で探すときは、モヤモヤしたとらえどころのないボーツと光る天体を探してください。尾はあまり発達していないと思われますが、双眼鏡で見ると少し細長く見えるかもしれません。
 
 明るくなった頃は5等台半ばの明るさです。肉眼で見える最微光星は6等星ですから、空が暗い山間部など観測条件が整った場所では、肉眼で見つけられるかもしれません。しかし、素人の方では難しいでしょう。また、人工の光があると見づらくなりますから、最低でも双眼鏡が必要と思っておかれた方が無難です。

見える位置

 ここからは、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星が見える位置を紹介します。星図はいつもよりも少し拡大し、7等星まで表示したものを載せておきました。

3月18日

 21時ごろ、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は高度が70度にせまる高い位置にあります。明るさは6.8等と、まだそれほど明るくなく、市街地では双眼鏡でようやく確認できる程度です。場所は北斗七星の近くで、おおぐま座β星(2.4等)からたどるのがよさそうです。月が昇る23時ごろまで楽しんでください。
 
 なお、22日から23日にかけて、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は、おおぐま座β星に0.4度まで大接近しますので、お見逃しなく。

3月25日

 1週間が経ちました。彗星は北斗七星が作るマスの水面付近に移動しました。明るさは6.0等と急激に明るくなっています。これは、4月初旬に地球へ最接近するためです。この日は月明りがありませんから、彗星観測に適しています。
 
 それから数日前から、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は周極星となっています。一日中沈むことがありませんから、好きな時間帯に観測することができます。

4月1日

 タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星が地球へ最接近する頃で、地心距離は0.14AUです。明るさは5.6等と、ほぼ最盛期といっていい明るさです。りゅう座α星ツバーン(3.7等)から遠くない位置にありますので、この星を目印にしてください。
 
 この日の月齢は4.4で、東京で月の入りは22時38分です。月が沈んでから観測するのも良いでしょう。

4月8日

 彗星はどんどん高度を下げています。最初の記事(3月18日)の頃は70度にせまる高度でしたが、今日は38度まで下がりました。見るのに首が痛くならなくて助かりますね。彗星は近日点通過を13日に控えており、この日の日心距離は1.05AUです。明るさの方も5.4等とピークに達しています。しかし残念ながら、この日は月齢11.4の月があって、観測の妨げになりそうです。

4月15日

 タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星はますます高度を下げています。21時の高度は30度を切ってきました。日心距離はあまり変わりませんが、地心距離は0.16AUと、少しずつですが地球から遠ざかっています。
 
 明るい星が少ない領域に入ってきて少々探しづらいですが、りゅう座の頭付近に位置するγ星(2.2等)の真上あたりを探すようにしましょう。東京ではこの後21時48分に、月齢18.4の大きめの月が昇ってきます。観測は早い目に行うようにしてください。
 
 それから、しばらく周極星でしたが、東京付近の緯度ではそろそろ終わりが近づきました。

4月22日

 今週に入ってさらに高度が下がり、今日は24度しかありません。星図の方も地平線が見えるようになりました。
 
 りゅう座γ星(2.2等)からの距離が3.5度と近いですから、この星を目印にしましょう。タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星の明るさは5.8等と少しずつ暗くなっています。今日は月明りがありませんから観測に適しています。

4月29日

 ゴールデン・ウィークに入りました。タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星は21時ごろに北東の低い位置に見えます。光度は先週よりもまた少し落ちて6.2等となり、肉眼彗星も終わってしまいました。
 
 こと座α星、1等星のベガが低い位置に見えますが、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星はそこから7度上方にあります。7倍くらいの双眼鏡なら視野1個分ほど上にずらすと、彗星が見つかります。今日は三日月ですから、影響は少なくてすみそうです。

5月6日

 今日のタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星の日心距離は1.09AU、地心距離は0.21AUです。ひところと比べると、太陽からも地球からも遠ざかっていますね。そのせいで明るさは6.7等まで落ちてきました。しかし双眼鏡があれば、まだまだ観測できる明るさです。残念ながらこの日は、月齢10.0の太った月があって、観測の妨げとなりそうです。
 
 位置はこと座α星、1等星ベガの右側からやや上にあります。間隔は5.3度とまあまあ近いですから、ベガからたどれば難なく見つけられるでしょう。

5月13日

 このところ21時に見えるタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星の高度は20度あまりと、ほとんど変化がありません。しかし彗星の光度は7.3等まで落ち込んでおり、双眼鏡を使っても観測できなくなる日はそう遠くありません。
 
 今週もベガからたどりますが、両者の間隔は10度まで開いてきました。

シミュレーション用データ

 これまで紹介した画像は天文ソフト「つるちゃんのプラネタリウム フリー版」を使って簡易的にシミュレーションすることができます。ソフト起動後、次のようにして彗星データの設定を行ってください。プログラムは当サイトトップページの[ダウンロードとご購入]から、無料でダウンロードしてご使用いただけます。(Windows版 PCのみ)

 1.プログラムを起動して表示設定画面を表示する。
 
 2.日時や観測地を適当に入力して[OK]ボタンを押す。
 
 3.プラネタリウムが表示されたらメニューバーより、[ツール]−[オプション]−[彗星データ設定]を選択。
 
 4.彗星データ設定画面の左下にある[次へ]ボタンを何度か押す。
 
 5.空白行へ下の画像のように「タットル・ジャコビニ・クレサーク」のデータを入力する。
   ※左端のチェックボックスへチェックを入れること。
 
 6.[OK]ボタンを押せば設定完了。


※4月13日以降の光度パラメータは、M1=9.0、K1=30 を入力してください。