ボートルの限界

太陽に近づく彗星の運命

 小さな彗星が太陽に近づき過ぎると蒸発してしまい、跡形もなくなってしまいます。一方、大型の彗星は蒸発することなく、生き残って大彗星となるケースもあります。太陽に大きく近づく彗星は生死をかけた過酷な運命が待ち受けています。

3つのケース

 2013年の秋に見られたアイソン彗星は、太陽へ0.01244天文単位まで大きく近づき、100万度もある太陽コロナの中を突き進みました。このような彗星は当然、強烈な熱とプラズマの嵐にさらされますし、太陽の強大な重力も受けます。このため太陽へ大きく近づいた過去の彗星は、悲惨な結末をむかえたケースが少なからずあります。通常は次の3つのいずれかのケースをたどります。

  1. 太陽の強烈な熱と重力によって彗星自体が蒸発、または崩壊するケース。これは観測する私たちにとっては最悪のシナリオで、尾が最も発達する近日点通過直後の彗星を観測することができなくなります。例として2013年のアイソン彗星や、2000年7月のリニア彗星があります。これらは彗星が次第にぼやけて拡散していき、最後には何も見えなくなってしまいました。しかし2011年のラブジョイ彗星の場合は、核が崩壊した後に雄大な尾をなびかせてくれたような例もあります。
     
  2. 核がいくつかに分裂するケース。この場合はしばらく見え続けます。彗星から多くのガスとチリが放出され、尾が発達すると考えられます。例として、1965年の池谷・関彗星があります。このときは核が数個に分裂しましたが、その後、雄大な尾が観測されて歴史に残る大彗星となりました。
     
  3. 完全に生き残るケース。太陽に熱せられて大量のガスやチリが放出され、近日点通過後に尾が発達する可能性が高くなります。

ボートルの限界

 彗星が蒸発しないで生き残るための条件として、次の経験則が成り立ちます。これをボートルの限界とよんでいます。Hは絶対光度で、qは近日点距離を意味します。

H≦7.0+6q

 この式の意味は、絶対光度が明るい彗星(主な要因として彗星が大型)は生き残る可能性が高いということです。過去の例をみてみますと、実際にはボートルの限界よりも大型の彗星が崩壊してしまったことがあります。それとは反対に、とても生き残れないと思われた彗星が生き残って生還を果たし、素晴らしい姿を見せてくれたこともあります。ボートルの限界は、あくまでも経験則なのです。