元旦に部分月食! 2010年元旦

2010年は元旦の月食でスタート

 天文ファンにとって1年間で最初の天体観測は、1月上旬に極大を迎えるしぶんぎ座流星群でをスタートするのが恒例です。しかし、2010年の場合はちょっと違います。それというのも、元旦に部分月食が起こるからです。えっ、元旦に月食が見られるの? そんな声が聞こえてきそうですが、本当の話です。でも食分は小さくて、最も大きく欠けた時刻でも全体の8%ほどが欠けて見えるにすぎない小さなものです。

最も欠けた頃の月のようす

※数値は若干の誤差を含みます。

月食とは

 月は地球のまわりを公転していますが、あるとき地球の影の中に入ってしまうことがあります。このとき、地球の影に入った部分は太陽の光が当たらなくなるので、地球から見た月は欠けて見えて月食になります。
 
 右の絵では太陽の光が右下側から当たっていて、これによって地球の影が左上方向へ伸びています。そして月が地球の影の中に入って月食が起こります。月が地球の影の中にスッポリ入ってしまうと皆既月食になります。今回は月のごく一部しか影の中に入りませんから、小さな部分月食となるのです。
 
※絵はつるちゃんの著書「天体観測の達人」より引用しています。

地球の影を通る月の経路

 下の絵は地球の影を通る月の経路を示したものです。赤い丸の部分は地球の本影です。この円の中に月が入ると月食になります。薄い黄色の部分は地球の半影です。この部分は太陽の光が一部届いているため月は明るく光り、肉眼でちょっと見たくらいでは月が地球の影の中に入っていることを確認するのは難しいでしょう。月は地球の本影の北側(上側)をかすめるように通過していくことがわかります。

地球の影を通る月の経路

※上方向を北とした場合の月の経路です。

全国でほぼ同じ進行

 月食は日食と違って、日本全国どこからでも同じ進行をとります。ですから観測場所が違っても、開始時刻や終了時刻や食分の違いを考えておく必要はありません。違ってくるのは欠ける方向と月の高度です。このうち欠ける方向に関して言えば、日本各地でほんの少しの違いがあるに過ぎず、大きな差があるわけではありません。それから、月の高度については観測地の緯度と経度によって違いが出てきますから、少し注意が必要です。

月の高度変化(東京の場合)

※地球の影の中心位置は、月を示す黄色い丸の大きさに縮尺を合わせていますので実際とは異なります。

月食の経過

始まり 3時51.6分
最大 4時22.7分
終わり 4時53.8分
最大食分  0.082

 月が欠け始めるのは大晦日から日付が変わった元旦の3時51分。満月の左下から欠け始めます。地球の影の縁は地球の大気のために少しぼやけていますから、開始時刻や終了時刻はハッキリしません。目安程度にお考えください。開始時刻における月の高度は東京の場合で35度ですから、まずまずの条件と言えるでしょう。

 その後、4時23分に食の最大をむかえます。開始から30分あまりが経過していますが、食分は0.08までしか進んでいません。つまり、月の直径の8%しか欠けていないことになります。月を実際に見ると、満月の左下側が少しへこんだような形に見えるでしょう。月の高度は欠け始めの頃よりも少し下がって、東京の場合で29度になります。もっと大きく欠けた月を観測したいのですが、今回はここまで。これ以上食が進むことなく、またもとの満月へ戻っていきます。

 月食の終了は4時54分です。この時の月の高度は23度まで下がっています。

月食の全経過(10分ごと)

将来の元旦月食

 元旦に月食だなんて、なんと珍しい。そんな風に思いませんか? でも実は、19年後の2029年元旦にも皆既月食が起こりますし、さらに19年後の2048年にも月の出帯食となる部分月食が起こるんですよ。

2029年1月1日

 下の絵は2010年から19年後に起こる元旦月食で、大晦日から年が変わった直後から始まります。2010年の場合と違って、この年は皆既月食になるのが目玉です。皆既の継続時間も1時間12分もあって申し分ありません。真夜中に起こりますから、全経過を良い条件で観測することができて、大きな話題となることでしょう。

2048年1月1日

 さらに19年後には再び元旦月食が起こります。今回も皆既月食なのですが、前回とは違ってお昼過ぎ以降からの現象となり、月の位置は、はるか地平線下で欠け始めます。月の出が早い東京でも、月が昇ってきた頃には皆既状態が終了しており、後半の部分月食を楽しむことになります。下の絵は東京での月の出時刻におけるデータを掲載したものです。

月食の周期性

 ここまで読まれたみなさんはきっと、「へーっ、19年ごとなんだ・・・。」と思われたことでしょう。実は、月食の起こり方には周期性があります。2010年の元旦月食を例にしながら、ちょっと解説しましょう。

メトン周期

 先に出てきた話の続きです。今後19年ごとに元旦に月食が見られるわけですが、これは決して偶然ではありません。これはメトン周期と呼ばれるもので、19年の周期で日食や月食が再現されます。メトン周期の最大の特徴は、再現される月食の月日が同じところにあります。しかし、食分は毎回大きく異なりますし、2、3周期もすると月食が起こらなくなってしまって、再現性に乏しいのが残念なところです。3メトン周期後となる2066年大晦日から翌日元旦にかけて起こる月食は半影月食にしかなりませんし、今回2010年から1メトン周期前となる1991年は、そもそも月食になりません。

メトン周期 日付 食分
1メトン周期前 1991年 月食とならない
基準 2010年元旦 0.08
1メトン周期後 2029年元旦 1.25(皆既月食)
2メトン周期後 2048年元旦 1.13(皆既月食)
※実際は地平線下で、月の出帯食の部分月食となる
3メトン周期後 2066年大晦日 半影月食
4メトン周期後 2085年 月食とならない

サロス周期

 18年11日と3分の1日ごとに日食が繰り返されるというサロス周期は有名です。このことは月食についても良く当てはまります。毎回同じような月食が再現されるという点では非常に優秀なのですが、周期に3分の1日がついているところがミソです。つまり、観測地を固定した場合、見ることができる時刻が3分の1日ほどずれてしまい、実際には地平線下で見れないケースが発生するのです。そこで3サロス周期単位で考えることにしましょう。例えば2010年元旦の月食を基準にした場合は下の表のようになります。

サロス周期 日付 食分
6サロス周期前 1901年10月28日 0.23
3サロス周期前 1955年11月30日 0.13
基準 2010年元旦 0.08
3サロス周期後 2064年 2月 3日 0.04
6サロス周期後 2118年 3月 8日 半影月食(東京では地平線下)

 3サロス周期後の2064年には食分0.04という、今回と似たような部分月食が起こりますし、さらに3サロス周期後となる2118年3月8日には半影月食となります(東京では地平線下)。逆に、2010年の3サロス周期前は1955年11月30日で食分0.13の部分月食。さらに3サロス周期前となる1901年10月28日には食分0.23の部分月食が起こりました。

2010年は月食が3度見られる年

 今後見られる月食ですが、今年2010年は3回も起こります。1年のうちに3回も起こるのは珍しく、次回は2094年のことになります。2010年では次回の月食は6月26日に半分ちょっと欠ける部分月食が起こります。その次は12月21日の皆既月食で月が欠けた状態で昇ってきます。月の出時刻が遅い西日本では、皆既月食の状態で月の出を迎えます。

 ということで、次回元旦に月食が見られるのは19年後のことになってしまいますから、今回じっくりと味わっておくことにしましょう。紹介したように1時間ちょっとという、短くて小さな部分月食ですが、月食が終わる頃にはもうすぐ夜明け。そのまま2010年 初日の出を迎えるというのはいかがでしょうか。一年最初の日に月食と初日の出を見て、ちょっと得した気分で一年をスタートしませんか。

※このページの画像は「天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム シェア版」に含まれる「つるちゃんの日食ソフト」プラグイン機能を使用しています。数値は若干の誤差を含みます。