皆既月食中の月が見える理由

意外とよく見える皆既月食

 皆既月食は月全体が地球の影の中へ入ってしまう現象です。そういうと、影の中は太陽の光が届かないので、月が完全に見えなくなるように思います。しかし実際はそうではありません。月食が起こるたびに毎回明るさが違いますが、どんなに暗い月食でも、月はほんのりと見えています。明るい月食の場合は月がオレンジ色や赤銅色に輝いて、その美しさに酔いしれてしまいます。皆既月食中の月は意外と明るいのです。

屈折する光

 皆既月食では月が地球の影の中へ完全に入り込みます。月は太陽の光が届かない影の中にいるはずなのに、どうして肉眼で見ることができるのでしょう。それは地球の大気によるしわざです。

 光は密度の異なる物質を横切ると進路が曲げられ屈折します。お風呂の水の中へ手を入れた時のことを思い出してください。水面を境にして手が曲がっているように見えませんか。空気と水という密度が異なる物質を通過することで光が屈折したのです。これと同じことが地球の大気を通過する光にも起こります。

 しかも、大気を通る距離が長いほど光は強く屈折します。言い換えると地表近くを通過した光ほど濃い大気を通過するので大きく屈折し、地球本影の中心まで届きます。このような理由から、皆既月食中の月は肉眼でもほんのり見えるのです。

大気の状態と光の届き方

 大気中のチリや水蒸気が多いと、それだけ光が遮られてしまいます。当然本影の中に届く光は弱くなるでしょう。例えば大規模な火山の噴火が起こると大気中に浮遊するチリの量が増えて、暗い月食になることが知られています。