カノープス

 冬の寒さが一番厳しい頃、おおいぬ座のシリウスが南中する20分ほど前に、りゅうこつ座のカノープスが南中します。りゅうこつ座はもともと南天低くに位置しており、日本からはその一部しか見ることのできない星座です。ですからカノープスも低い位置にしか昇ってきません。

星名 学名 星座 バイヤー符号 フラムスティード番号 赤経 赤緯 実視等級 絶対等級 距離 スペクトル型
カノープス Canopus りゅうこつ座 α星   06h23m57s −52゜41’44” −0.74等 −5.62等 309光年 F0

カノープスの位置

見づらい星

 カノープスは南の空で地平線近くにしか昇ってこないため、見つけにくい星として知られています。カノープスの赤緯は−52.7度ですから、単純計算では北緯37.3度よりも南でしか見ることができません。
 
 東北地方の中部より北の地域では地平線より上には上ってきませんし、東京付近の緯度の地域では大気差を考慮しても南中高度は2度くらいしかありません。南の地域ほど南中高度が高くなり、見つけるための条件が良くなります。例えば鹿児島では南中高度が6度弱になりますし、さらに沖縄の那覇では11度まで上がってだいぶ見やすくなります。

全天で2番目の輝星

 全天で一番明るい恒星はシリウスですが、それに次いで明るい恒星は−0.7等星のカノープスです。しかし先に書いたように、カノープスは高度が低いために、大気による減光を大きく受けてしまいます。ですから思ったよりも暗く見えるので、意外と見つけにくい場合があります。大気中の水蒸気やチリが少なくて空気が澄んだ夜に、見つけることができるか挑戦されるとよいでしょう。

南極老人星

 昔の中国ではカノープスは南極老人星(なんきょくろうじんせい)とよばれていました。なかなか見ることができないカノープスですから、お目にかかれると健康で長生きができるとあやかられたわけです。他には老人星(ろうじんせい)や南極寿星(なんきょくじゅせい)ともよばれます。

南のスハイル

 この星はイスラムでは、アラビア語でスハイルとよばれていました。スハイルはサフルという単語に由来し、「輝くもの」「美しいもの」などの意味があります。ところでスハイルという呼び名はカノープス以外にも用いられています。例えばシリウスはアッ・スハイルです。これに対してカノープスは南のスハイルを意味するスハイル・アル・ヤマーニヤと呼ばれることもあります。

日本での名前

 日本ではカノープスの呼び方に布良星(めらぼし)というのが有名です。これは房総半島先端、千葉県館山市にある布良という漁村の名前からきています。カノープスが現れると時化になり、死んだ漁師の魂が仲間を迎えに来るのだと言い伝えられています。他にも幸せ星など、地方によっていろいろな呼び方をされています。
 
 面白い名前として、横着星(おうちゃくぼし)や不精星(ぶしょうぼし)というのがあります。カノープスは地平線近くに顔を見せたかと思ったらすぐに沈んでしまうことから、このような名前でよばれます。

1万1千年後には天の南極星

 現在のカノープスは南天の低い位置にかろうじて見ることができますが、残念なことに毎年ジワジワと高度が下がっています。そして西暦4350年頃になると、東京付近の緯度では地平線上に昇ってこなくなります。これはこちろん、地球自転軸の首振り運動である歳差運動によります。そして今から1万1千年後から1万2千年後にかけて、カノープスは天の南極に近づきます。天の南極星と呼ぶには少し精度が悪いかもしれませんが、明るい星で最も天の南極に近いのがカノープスになります。

南極星になったカノープス