カノープスを見つけよう

冬の星座で8個目の1等星

 冬の星座はとてもきらびやかです。冷たく研ぎ澄まされた空気の中、太平洋側では年間を通して最も透明度が高くなる上に、1等星が7個もあるのですから当然でしょう。

 そんな冬の星座の中にあって、実は8個目の1等星があるのをご存知ですか? カノープスと呼ばれるこの星は、日本からは見えづらく、南の地平線スレスレでしか見ることができません。また、日本でも緯度が高くなる東北地方の中部から北の地域では全く見ることができません。そんな見づらい星だけに、一度カノープスを見ると長生きができるというようなお話もあるんですよ。

 そんなカノープスをあなたも一度見てみませんか?

カノープスという星

 そんなカノープスについて、どんな星なのかを紹介しましょう。

全天で2番目に明るい星

 カノープスの明るさは−0.7等。おおいぬ座のシリウスに次いで、全天で2番目に明るい星です。しかし、日本から見た場合は地平線近くに見えるため、地球の大気による減光を受けてしまいます。したがって、見え方としては実際よりも暗くなってしまいます。

りゅうこつ座の星

 カノープスはりゅうこつ座という星座の中にあります。りゅうこつ座は以前、アルゴ座という大きな船の星座の一部だったのですが、とも座、ほ座、らしんばん座、りゅうこつ座の4つの星座に分割されました。りゅうこつ座はアルゴ船の船底にあたる星座です。

明るい光を放つ星

 カノープスまでの距離は310光年もあります。こと座のベガ(0等星)までの距離が25光年であることから考えてもその遠さがわかるというものです。それにもかかわらず全天で2番目の明るい星として輝いて見えるのは、カノープスが非常に明るい光を放っているからです。もしも太陽をカノープスの距離まで遠ざけたとしたら、太陽は9.8等星という哀れな姿になってしまいます。

南極老人星

 史記の天官書には「狼比地有大星、曰南極老人星、老人見、治安、不見、兵起、・・・」とあります。これは、狼星(シリウス)よりも低い位置に南極老人星がある。この星を見ることができれば治安は良いが、見えなければ兵乱が起こる、という意味です。カノープスは中国で南極老人星と呼ばれ、この星を見ると長寿にあやかれるおめでたい星とされています。また、中国では南をめでたい方角としていたこともあり、この星が見えた年は国がよく治まるとされてきたのです。

七福神の寿老人

 日本では七福神という神様がありますが、この中に寿老人という白い鶴に乗った背が低い神様がいます。これは南極老人星、つまりカノープスなのだそうです。

マホメットの星

 回教の教祖マホメットは、カノープスを自分の星だとしていました。今でもアラビア人はこの星をマホメットの星として信仰しています。

水先案内人の名前

 西暦前1183年、トロヤを攻めに行ったギリシャ軍の水先案内人の名をカノープスといいました。しかし、ギリシャへ帰る途中に立ち寄った地でカノープスは死んでしまいました。そこで、彼の功績をたたえて記念碑を建て、この地とこの星をカノープスと名づけたのだと伝えられています。

カノープスを見つけよう

 前置きがちょっと長くなってしまいました・・・。それではこれからカノープスを見つけましょう。

カノープスの南中高度

 カノープスの赤緯は−52.7度くらいですから、カノープスの南中高度は次の計算式で計算することができます。(北半球の場合)

 (90度)−(52.7度)−(観測地の緯度)

東京の場合

 東京の場合を調べてみましょう。東京の北緯を35.7度とすると、カノープスの南中高度は1.6度ということになります。実際には下の絵のようなイメージになり、地平線ギリギリの高さということがおかわりいただけますね。

東京で見るカノープス(2月20日 20時頃の例)

カノープスが南中しており、地平線近くギリギリに見えている

緯度による違い

 次に鹿児島あたりまで南下しましょう。するとカノープスは6.7度の高さで見えることになり、かなり楽に見つけることができます。

 逆に、福島あたりまで北上するとカノープスの南中高度は−0.5度となり、カノープスは地平線下となるはずです。しかし、地球の大気によって地平線付近に見える星は少しだけ浮き上がって見えますので、かろうじて地平線に顔をのぞかせてくれます。

 しかし高い山にでも登らない限り、東北地方中部くらいの緯度がカノープスを見る限界で、これよりも北の地域ではカノープスを見ることはできません。(山形県の月山で写真撮影に成功したような例もありますが)

南中時刻を調べよう

 そんなわけでカノープスを見るためには、カノープスの高度が最も高くなった頃をねらわなくてはなりません。カノープスが南中する時刻がわかるといいですね。カノープスが南中する時刻は日によって異なりますから、次の方法でカノープスの南中時刻を調べましょう。

(1)下のリンクにあるグラフを参考にカノープスの南中時刻を調べてください。(天文ソフト「つるちゃんの天体出没時刻表」を使用しています。)

  南中時刻グラフ:  金沢  東京  大阪  福岡  那覇

(2)「天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム」のフリー版をダウンロードしてご自分の観測地を設定し、日付や時刻を変えることによって、カノープスの見え方を調べてみてください。

観測場所を探そう

 すでにおわかりと思いますが、カノープスを見るための最大のポイントは、南の方角が地平線まで開けた観測場所を探すことです。建物や山などに視界をさえぎられない場所を昼間のうちに探しておいてください。

 また、南の方角に明るいネオンサインなどがあると、カノープスの光が見えなくなってしまいますから、南の方角に人工の光が少ない場所を探しましょう。

透明度が良い日を選ぼう

 地平線付近の空というのは薄い雲やモヤが出たり、大気中のチリや水蒸気によって光の吸収を受けたりして、意外と見づらいものです。少しでも良い条件で見るためには、日中の空がなんとなく白っぽいような日よりも、日中の青空が目にしみるような空の透明度が良い日を選びましょう。

カノープスを見てみよう

 それではカノープスが南中した頃を見計らって、カノープスを見てみましょう。当然のことながら真南の地平線付近をよく見てください。カノープスの上方には全天で最も明るいシリウスがギラギラと輝いていますから、これをたよりにして、だいたいの位置の見当をつけてるとよいでしょう。カノープスの位置は、シリウスの真下からやや右側あたりになります。

 それから、「全天で2番目に明るい星」なんて思って探すのは失敗のもとです。地球の大気による減光やらスモッグやら、街明かりやらで、カノープスの光は弱々しくなってしまいます。また、夕焼けの太陽のように赤っぽい色に見えることもありますから注意しましょう。よくわからなければ、双眼鏡の力を借りてみるのもひとつの手ですよ。

 今まで難しそうなことを書いてきましたから、「なんだか難しそうだなあ」と思われるかもしれませんね。でもそんなことはありません。一度見つけてしまえばカンタンなことで、要は見え方がわからないというに過ぎません。心配しないでカノープス探し、がんばってくださいね!