火星大接近の夜に見る星空

 2003年8月27日には紀元前55537年以来の、実に5万7千年ぶりという火星大接近となります。(※別の計算では6万年ぶりという話もあります。) この日、火星がどのように見えるのか、興味津々という方も多いのではないでしょうか。火星大接近に関しては、火星大接近徹底解説の中で解説しているとおりですが、「火星を見るのを機会に、夏の夜空の星座たちもいっしょに見てみたいな」という方もおられるのではないかと思います。

 幸いなことに、火星大接近の日は新月。ですから、月明かりに邪魔されずに星空をじっくりと眺めることができて、いうことはありません。これを機に、夏の夜空を散策してみるというのはいかがでしょうか? それでは、つるちゃんがご案内しましょう。

注)以下の星図は明石を基準として表示していますが、明石以外でも日本国内であれば見え方にさほど違いはありません。また、8月27日の前後数日間は、ほぼ同様な星空を見ることができます。

8月27日21時 南の空

 はじめは南の空から見ていくことにしましょう。下の絵は8月27日、火星大接近の夜21時の南の空を「天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム」で描いたものです。

火星大接近の夜、21時南の空のようす

火星

 南東の空低くには、まさに大接近となった火星が見えています。詳しい計算によると火星大接近は、8月27日18時51分12秒に起こります。ですから、本当の本当に大接近を見たい方は、この星図の21時よりも2時間ほど前に見なければなりません。

 しかし、この時間に火星が見えているのは東海地方より東の地方に限られてしまいます。ちなみに東京の場合でしたら、18時51分の火星の高度は1度あるなしです。まっ、いい加減なつるちゃんなら、そこまでこだわりませんけどもね。だいたいでええんとちゃうかぁー!!

(つるちゃんは、いつもいい加減すぎるぞ。本のあとがきにまで「細かい話はええんとちゃうか」って書いとったやろ。)
つる:−−>まあ、まあ、ええがな。それよりも、つるちゃんの本を買ってくれたんか。(ニッコリ)おおきにぃ。
(買ってるわけないやろ、立ち読みじゃ。)
つる:−−>ガーン!!
さそり座と火星

 南西の空低くで赤く光る1等星はアンタレスです。この時間のさそり座はS字型を横に倒したような形に見えていますが、さそりの心臓部に位置するこの星の名はアンチ・アーレスからきています。アンチは対抗する、アーレスは火星のことですから、その意味はおわかりいただけるでしょう。

 明るさの面では、火星がマイナス2.9等星であるのに対して、アンタレスは1.1等星(少しだけ変光します)なので、火星の方が圧倒的勝利といえるでしょう。しかし、両者の赤さを見比べてみてください。詳しい観測によると、アンタレスの方がわずかに赤いということです。でもこの違い、わかるかな??
いて座と天の川

 ほぼ真南で南中しているのはいて座です。いて座は半人半馬ケイローンの姿を描いたものだといわれていますが、ケイローンの構えた矢じりの先はさそりの心臓へと向けられています。

 いて座の方向には銀河系の中心があります。このため、天の川はいて座付近で最も幅が広くて濃くなっています。明るい都会の空から天の川を見るのは難しいのですが、田舎の澄んだ空の下では、沸き立つ雲のように見えます。「はっ」と息を飲むくらいに美しいですよ。田舎で見る機会があれば、ぜひともご覧になっていただきたいと思います。

8月27日21時 天頂の空

 南の空を見た後は、視線をそのまま頭上へと向けてみましょう。さて、どんな星空が見えるでしょうか。

火星大接近の夜、21時天頂の空のようす

夏の大三角

 天頂付近を見上げると、1等星3つでできた大きな三角形がすぐ目に止まりますが、これが夏の大三角です。一番明るい星は織姫星として有名なこと座のベガで、他の1等星よりもワンランク明るい0等星に分類されます。織姫星といえば彦星(中国では牽牛星)として知られるわし座のアルタイルでしょう。七夕伝説のとおりベガとアルタイルは、天の川を挟んだ両岸に位置しています。

 ベガの北東側に見えている1等星はデネブです。デネブは夏の大三角の3つの星の中では一番暗い1.3等星ですが、実はベガの25光年やアルタイルの17光年よりも2ケタ遠い、3200光年も離れたところにあります。ですから、本当に一番明るい星はデネブということになります。
はくちょうの十字架

 デネブから天頂方向にかけてをよく見てみますと、2等星、3等星の星が大きな十字型に並んでいるのが目につきますが、これははくちょう座です。これらの星の並びから、羽を拡げて優雅に飛んでいる白鳥の姿を思い浮かべるのはたやすいことでしょう。デネブは白鳥の口ばしではなく、尾っぽの方になりますので、この点に注意してください。ちなみに、デネブは「めんどりの尾」という意味だそうです。

 はくちょう座は南半球から見える南十字星に対して、北十字星と呼ばれることがあります。確かに、はくちょう座の明るい5つの星をたどると、十字架のような形にも見えます。あなたなら白鳥の姿か、それとも十字架の形か、どちらを思い浮かべますか。

(おれなら、わら人形を思い浮かべるけどなあ)
つる:−−>あのなあ、お前・・・。
天の川

 北の空から流れてきた天の川は、夏の大三角の中心部を横切っていきますが、実はデネブ付近で大きく2つに分かれて南の方へと流れ落ちていきます。空が暗くて澄んだ田舎へ行くと、このようすがハッキリとわかって、かなり感動的です。夏の大三角が天頂付近までくるこの時期が一番見やすいので、ぜひとも良い条件の下で、じっくり見てみたいものです。 

8月27日21時 北の空

 今度は向きを変えて、北の空を見てみましょう。

火星大接近の夜、21時北の空のようす

北極星

 北の空といえば、いつも真北の方角で光る2等星の北極星でしょう。北極星は地球の自転軸とほとんど同じ方向にあるので、地球の自転によらずいつも真北の方向に見えています。ですから北極星は北の方角の目印となります。

 北極星が見える高度は、自分の観測地の緯度とほぼ同じになります。沖縄の那覇で26度、東京で36度、北海道の札幌で43度くらいです。


カシオペア座と北斗七星

 北の空の代表的な星座といえば、W字型のカシオペア座と、ひしゃく型の北斗七星でしょう。2つの星座は理科の教科書にもでてくるほど有名なのですが、正確には北斗七星は星座ではありませんで、おおぐま座という星座の一部になります。

 今ちょうどこの時期には、カシオペア座と北斗七星の両方が見えていますが、これらを使って北極星を探す方法があるのをご存知ですか。下のリンクから北極星をたどってみましょう。

  北極星の探し方

8月28日0時 南の空

 星空を眺めていたら、夜もすっかり更けてしまいました。下の絵は8月28日0時の南の空の様子です。

火星大接近の夜、0時南の空のようす

南中した火星
太陽、地球、火星の位置関係
 火星大接近の頃の火星はちょうど真夜中に南中します。これは、大接近の頃には太陽、地球、火星の順に、3者が一直線上に並ぶためです。右の図は火星大接近徹底解説(その2)で使った図ですが、8月27日の地球と火星の位置はAの位置にあります。3者が一直線に並んでいますね。火星は太陽と180度反対方向にあるわけですから、真夜中に南中するのは、あたりまえと言えばあたりまえな話です。

(女:あたし、よくわかんなーいっ。)
つる:−−>それじゃあ、つるちゃんがじっくりと個人指導してあげよう・・・。
(女:キャーッ)
つる:−−>なんでこうなるの?グスン。

 正確には一直線に並ぶ日は8月31日となり、衝と呼ばれています。大接近の日と衝の日が一致しないのは、地球と火星の軌道が完全な円軌道でないためですが、ここではこれ以上難しい話はやめておきましょう。大接近の頃の火星は、夕方に東の空から昇ってきて、真夜中に南中して、明け方に西の空へ沈む、と覚えておくだけでも観測には役立ちます。

 火星大接近の頃、天体望遠鏡で火星を観測するには、ちょうどこの時間帯が最適です。それは火星の高度が最も高くなるためです。高度が高いほど大気の影響を受けにくくなるため、火星の像が安定して見えます。火星の南中高度はあなたの観測場所の緯度によりますが、本州付近なら火星の南中高度は40度くらいになります。南の地方へ行くほど火星の南中高度は高くなり、観測条件は良くなります。「南半球へ行って火星を観測しよう」といったツアーが組まれたりしているのはこのためです。

 火星を天体望遠鏡で見たらどのような模様が見えるかは、火星大接近観測ガイド(その3)をご覧ください。

秋のひとつ星

 火星の話題とその輝きが強烈過ぎて、他の星は見忘れてしまいそうですが、火星からちょっと下の方へと目をやってみてください。白い1等星が寂しくポツンと光っているのがわかると思います。これは、みなみのうお座フォーマルハウトです。フォーマルハウトは秋の星座で唯一の1等星となっています。また、まわりにはこれといって目立った星もないので、秋のひとつ星と呼ばれています。

(女 : フォーマルハウトを見ていると、なんだか私まで寂しくなっちゃうな。)
(男 : 寂しくなんかないよ。ほら、僕がそばにいるから。)
(女 : ウットリ・・・)
つる:−−>おふたりさん、イチャイチャするから火星が恥ずかしがって赤くなっちゃたよ。。
みずがめ座

 秋の星座は暗くて小さな星で形作られたものが多く、そこから星座の姿を見出すのは難しい場合もしばしばですが、みずがめ座もその例外ではありません。ギリシア神話では、みずがめ座は大きな水瓶を持った美少年カニメデスの姿を描いたものだといわれています。しかし残念ながら、まばらに配置された3等星以下の暗い星の並びから、その姿を想像するのは容易なことではありません。

 それなのに、なぜみずがめ座を紹介したかというと、つるちゃんの星座だからです。あー、いや、違いました。ガニメデスが持った水瓶からあふれ出した水は、みなみのうお座の口の方、ちょうどフォーマルハウトのあたりへと吸い込まれていくのですが、「流れ落ちる水の付近に今ちょうど火星がいる」ということを紹介したかったからです。

(個人的な話を出すなっちゅうねん。一体何人の人がこのHPを見てると思っとるんや。)
つる:−−>ウジウジ・・・。

8月28日0時 東の空

 再び東の空へと目をやってみましょう。秋の星座がいっぱいです。そして、はやくも冬の星座まで顔をのぞかせてきました。

火星大接近の夜、0時東の空のようす

ペガススの四辺形

 東の空をグーッと見上げてみましょう。2等星3つと3等星1つでできた大きな四角形が目につくと思いますが、これがペガススの四辺形になります。形のつかみにくい星座が多い秋の星座の中にあって、ペガスス座は最も形のつかみやすい星座かもしれません。

 ペガススの四辺形は羽の生えた天馬の胴体部分になります。そして、ペガススの四辺形から西側(右側)へと馬の首が続いているのですが、残念ながら上の星図では途切れてしまいました。ペガスス座は上下が逆さまに描かれているので、馬の首も上下が逆向きになっている点に注意してください。
アンドロメダ大星雲

 ペガススの四辺形の一番左側に見える星は、ペガスス座の星ではありませんで、アンドロメダ座の星になります。この星から左下方向へ2等星が広い間隔で3つつながって見えるのですが、この辺りがアンドロメダ座になります。アンドロメダ姫は、お隣の英雄ペルセウスによって救い出された、古代エチオピアの美しいお姫様です。詳しくは四季の星座の中にあるアンドロメダ座を参照してください。
アンドロメダ大星雲
 アンドロメダ座にはかの有名なアンドロメダ大星雲があります。暗い空の下では肉眼でもぼんやりとした雲の切れ端のように見えます。都会の夜空では肉眼で見るのは難しいのですが、少し郊外へ出れば、0時頃なら街明かりも減ってきていて、少しは見やすいかもしれません。双眼鏡をお持ちでしたらぜひとも一度のぞいてみてほしいと思います。アンドロメダ大星雲の正確な位置は下のリンクから確認してください。

  アンドロメダ大星雲のみつけ方

 アンドロメダ大星雲までの距離は約230万光年といわれています。ですから、あなたが見ているアンドロメダ大星雲の光は、230万年前にアンドロメダ大星雲を出た光ということになります。230万年前といえば、進化の中で最初の人類が東アフリカの台地を踏みしめた頃になりますが、そのように考えると何か宇宙のロマンを感じませんか?

(お前にもロマンがあったんか)
つる:−−>つるちゃんはロマンチストやで。 あっ、今思い出した。この前貸したジュース代の120円、早く返せよな。
(どこがロマンチストや・・・)
すばる
すばる
 東の空の低空からは、早くも冬の星座が顔をのぞかせてきました。そのひとつにおうし座がありますが、その中には有名なすばるが見えます。高度20度くらいにぼんやりとした光のかたまりに見えるので、少し注意して見るとすぐに、すばるだと気が付きます。

 すばるの下の方向、地平線近くにはだいだい色をした1等星アルデバランも見えますので、こちらからたどってみるのもよいと思います。

 すばるは150個から200個ほどの星が集まってできた大きな星団で、肉眼でも普通の視力の人なら6個か7個の星が見えます。生まれたばかりの星団なので、まだガスにつきまとわれて「ぼーっ」と見えるのですが、ギリシャ神話では巨人アトラスの娘達、7姉妹の涙のために「ぼーっ」と見えるのだそうです。


 「火星大接近の夜に見る星空」はいかがでしたか。今までは名前も知らない星ばかりだった夜空も、このページを読んだあなたなら、きっと違って見えてくると思いますよ。