火星2003年火星大接近徹底解説(その1)

 火星大接近徹底解説の初回として今回は火星の素顔にせまり、火星に関する予備知識を蓄え、8月27日の火星大接近へ向けて気持ちを盛り上げましょう。

火星とさそり座と夏の天の川
(一番明るい星が火星)
火星とさそり座と夏の天の川

赤い惑星、火星

 地球から見た火星は赤く輝いて見えます。特に、地球に接近した頃には1等星よりも明るいマイナス等級にまで明るくなり、じっと見ていると不気味な感じがしないでもありません。火星はギリシャ語ではアーレス、つまり戦(いくさ)の神です。その赤さを見れば、戦争や争いを想像しても不思議ではありません。


地球と良く似た惑星

 火星の半径は3397キロで、地球の6378キロと比べて半分程度の大きさしかありませんし、質量は10分の1ほどしかありません。しかし、火星の自転周期は24時間37分と、地球の1日とあまり変わりません。

 火星の1年は1.88年と長いのですが、火星にはちゃんと季節があります。また、薄いながらも大気もあり、氷でできた極冠も存在します。砂嵐が発生したり霧が立ち込めたりする場合もあります。ですから、太陽系の中では地球に最も似た環境を持った惑星といえるでしょう。

スキャパレリが描いた火星の運河
スキャパレリが描いた火星の運河

火星と火星人

 火星は地球のお隣の惑星である上に、水の存在が確認されています。そのうえ季節とともに模様が変化するなど、太陽系の中で「最も地球に似た惑星」として以前から注目されてきました。

 H.G.ウェルズが「宇宙戦争」のSF小説を発表したのは1898年です。これは、火星には優秀な頭脳を持った火星人がいて地球を侵略するというもので、世界の人々は熱狂し、ある種のパニックが引き起こされました。

 また、スキャパレリは実際に火星を観測し、その表面に幾筋もの線を見つけて、イタリア語でカナリ(水路)と名づけました。英語に訳すとキャナル(canal)となりますが、これは運河を意味します。

 さらにスキャパレリの影響を受けたパーシバル・ローウェルは、自ら天文台を築いて火星を観測し、網の目のように張り巡らされた無数の運河やオアシスを発見し、火星には火星人がいると主張しました。火星の水は少ないので、火星人は運河を造って水不足をまかなおうとしているのではないかと考えたのです。

 このように、想像をたくましくしながら注目されてきた火星ですが、その素顔とはどのようなものでしょうか。NASA提供の写真を見ながら解説していきましょう。

現在わかっている火星

 火星は他の惑星とは違い、生命の存在する可能性を秘めた特別な惑星として注目を集めてきましたが、現在では無数の運河などは存在しないことや、火星人と呼べるほどの高等な生物は存在しないことが確認されています。(細菌のような下等な生物もみつかっていません)

 ここからは現在わかっている火星の様子を探ることにしましょう。

火星の気候

 火星のクリュセ平原に着陸したバイキング1号の報告によれば、最初に観測した気象データは、明け方の最低気温はマイナス86度、最高気温はマイナス30度、気圧は7.7hPa(ヘクト・パスカル)というものでした。また、続いてユートピア平原に着陸したバイキング2号では、最低気温はマイナス81度、最高気温はマイナス30度、気圧は7.8hPaでした。

 地球では、南極でマイナス89.2度という最低気温が記録されたことがありますし、火星がどうにもならないくらいに気温が低いわけではないと言えるのではないでしょうか。


 
火星の霧
火星の霧
薄い大気

 火星には1〜9hPa(ヘクト・パスカル)程度という非常に薄い大気があります。地球の平均気圧が1013hPaであることと比べると、その大気の薄さがわかると思います。火星の大気の成分は二酸化炭素が95%を占めますが、水分と酸素もほんのわずかですが含まれています。大気圧が高まって大気中の水蒸気が増えると、霧が立ち込めたり、朝方に霜が降りる場合があります。
火星の極冠 南極冠の拡大
火星の極冠 缶極冠の拡大
氷の極冠

 火星の極地方には氷でできた極冠があります。地球から見ると赤い火星の中にあって白く光って見えますが、暑い季節を迎えると、蒸発して見えなくなってしまいます。最近の無人火星探査機マーズ・グローバルサーベイヤーによる観測では、北極地方の極冠は氷でできているのに対して、南極地方の極冠はドライアイスでできているのではないかといわれています。どうして北極と南極で組成が違っているのか興味深いところです。
バイキング1号による火星表面写真
バイキング1号による火星表面写真
石ころだらけの表面

 1976年6月に火星の表面へはじめて降り立ったのはバイキング1号です。火星の表面を撮影し、生命の存在を探る3つの実験を行いました。実験のうち2つは生命の存在を肯定し、1つは否定するものでした。現在でも火星の生命の存在は、まだはっきりとわかっていません。

 右の写真はバイキング1号による火星表面の写真ですが、火星の表面は石ころだらけであることがわかります。地平線が傾いているのは探査機自体が傾いているためです。火星の土はやはり赤っぽい色をしていますね。これは酸化鉄によるものと考えられています。また、空の色もピンクがかって見えていますが、地表の小さな砂が巻き上げられてこのような色をしているのだと言われています。

火星の地形

 火星には特徴のある地形が数多くありますが、その中でも有名なものを紹介しましょう。

マリネリス渓谷
マリネリス渓谷
マリネリス渓谷(またはマリナー渓谷)

 もしスキャパレリやローウェルが見たという運河が存在するとすれば、このマリネリス渓谷でしょう。その名は発見した探査機マリナー9号にちなんで付けられています。南緯10度くらいのところを東西に4000キロ以上もつながっており、幅は200キロ、深さは7キロもあります。有名なグランドキャニオンでさえ、支流にすっぽりと収まってしまうというケタはずれな大きさの渓谷です。
オリンパス山(またはオリュンポス山)
オリンパス山(その1 オリンパス山(その2 タルシス台地の3つの火山
オリンパス山(その1) オリンパス山(その2) タルシス台地の3つの火山


 火星には火山らしき大きな山(といっても活火山ではありません)があくさんあります。

 その中でも最も有名なのがオリンパス山でしょう。ふもとの直径が600キロですから、東京−大阪間よりも大きな直径です。高さは2万5千メートルですから素晴らしいとしか言いようがありません。地球からは大きな望遠鏡で見ると明るく輝く斑点に見えるそうです。

 また、タルシス台地には、アルシア山、ポバニス山、アスクレウス山という3つの大きな火山が並んでいて壮観です。
川の流れた後(その1) 川の流れた後(その2)
川の流れた後(その1) 川の流れた後(その2)
川の流れた跡

 現在の火星には水(または氷)は極冠に少しあるだけですが、その昔には大量の水が存在したのではないかと考えられています。その証拠のひとつとして、川が流れたような跡が火星のあちこちで見つかっています。もしかしたら小さな火星人(微生物)が繁殖していた時期があったかもしれませんね。


フォボス ダイモス
フォボス ダイモス

火星の衛星

 地球には月という衛星がありますが、火星にはフォボスとダイモスというふたつの衛星があります。しかし、月の半径が1700キロもあるのに対して、フォボスとダイモスはそれぞれ13キロと7キロほどしかありません。地球から見ると11〜12等級の明るさなので小望遠鏡でも見えるかと思いきや、離角は最大でもフォボスが20秒、ダイモスは70秒くらいしかありません。ですから、すぐ近くに明るい火星が光っていることになり、衛星を見るためには30センチ以上の天体望遠鏡が必要になります。

 フォボスもダイモスも球形ではなく、つぶれたジャガイモのような形をしています。また、他の惑星の衛星と同じように大小さまざまなクレーターがあります。

 これらふたつの衛星の緒元値は天文用語ミニ解説の中にある衛星の諸元表を参照してください。


※このページの火星の写真はNASAより提供されています。