春の大三角が南中 2003年5月

 5月になるとすっかり気候も良くなり、天体観測をするにはもってこいのシーズンとなります。五月晴れの言葉に代表されるように、よく晴れ上がった青空が似合う季節です。しかしながら天体観測という面からは、意外と薄雲やもやがかかっている場合があり、必ずしも最高の星空というわけにはいかない場合もあります。少ないチャンスは逃さず観測するようにして、星空ウォッチングを楽しむようにしましょう。

注)このページの星空の様子は5月15日21時を基準としていますが、下の日時でもほぼ同様の空を見ることができます(月や惑星は除く)。また、明石以外でも日本国内であれば、見え方にさほど違いはありません。

  4月15日23時
  5月 1日22時
  5月15日21時
  6月 1日20時
  6月15日19時

全天のようす

5月15日21時 全天のようす
5月15日21時 全天のようす

 空が明るい時間帯も次第に長くなってきており、5月15日の明石の場合では日の入りは19時前頃ですし、20時半過ぎにならないと、空が完全に暗くなりません。

 それではまず全天を見てみましょう。今月になると、先月までかろうじて西の空で踏みとどまっていた冬の星座はほとんど見えなくなってしまいました。かわって、春の星座が一気に勢力を広げていて、春の大三角が南の空で南中しています。東の空からは少しずつ、夏の星座が勢力を伸ばしてきています。

 上の絵を見ていただくとわかりますが、この時期は天の川は地平線付近をぐるりと取り囲んでいます。高度が低いので、よほどの条件がそろわない限り、天の川を見ることはできません。

西の空

5月15日21時 西の空のようす
5月15日21時 西の空のようす

 先月までかろうじて見えていたオリオン座やおうし座などの冬の星座は、地平線下へと沈んで見えなくなってしまいました。冬の星座の中でも最も東側に位置するこいぬ座とふたご座だけが、かろうじて西空低くに見えています。北西の低空で黄色に光っている0等星はぎょしゃ座のカペラです。カペラは天の北極に比較的近い位置にあるので、冬の星座の中では一番最初に昇ってきて、一番最後の方までいつまでも見えています。

 かに座には木星が見えていますが、こちらも次第に高度を下げてきているので、今月あたりが観測の最終となるでしょう。

南の空

5月15日21時 南の空のようす
5月15日21時 南の空のようす

 今月も先月に引き続き、大きなうみへび座が南西から南の空にかけて大きく陣取っています。この時期のうみへび座は、空で寝そべったような格好をしています。恐ろしいヒドラもお休みで、くつろいでいるように見えるからなんとも愉快です。うみへび座のしっぽ付近にはからす座が南中していますが、このはるか南ではちょうど南十字星が南中しているんですよ。地平線を透かしてみた下の絵(茶色の横線が地平線)を見ればおわかりいただけるでしょう。

南中する南十字星

 からす座の上方では、0等星、1等星、2等星の3つの明るい星でできた春の大三角が南中しています。

天頂の空

5月15日21時 天頂の空のようす
5月15日21時 天頂の空のようす


 天頂方向は先月に引き続いて春の星座がいっぱいです。先月はしし座が天高くに上り詰めていましたが、今月は若干高度を下げてきました。かわって今月はかみのけ座が天頂付近にあります。かみのけ座はそれ自体が大きな星団で、4等星以下の小さな星がごちゃごちゃと群れています。かみのけ座からおとめ座付近にかけては宇宙ののぞき窓と呼ばれるように、たくさんの暗い銀河を見ることができます。高度が高くなるこの時期がねらい目といえるでしょう。ぜひとも大きな天体望遠鏡で付近をのぞいてみたいところです。    

北の空

5月15日21時 北の空のようす
5月15日21時 北の空のようす

 北の空では北極星が中心にあることは変わりないのですが、今月はおおぐま座の北斗七星が高度60度以上に達しており、ちょうど一番空高く見える時期となっています。反対に、カシオペア座は一番低い位置にきており、地平線スレスレに見えています。上の絵の明石よりもほんの少しだけ南の地方へ南下すると、一番下側に見えているカシオペア座のα星シェダルは地平線下に隠れてしまいます。その反対に、北の地方へ北上すると、カシオペア座はもう少し余裕を持った周極星となります。

りゅう座

 北東から北の空にかけては、北極星を取り囲むようにしてりゅう座の暗い星ががグネグネと連なって見えています。とりたてて明るい星や目ぼしい天体があるわけでもなくて忘れられがちな星座なのですが、全天で8番目という大きなこの星座を見ておいてあげてください。

 ギリシャ神話では、大神ゼウスと妻のヘラ女神から預かったリンゴの木を守っていた竜だと伝えられています。しかしながら、竜がちょっと居眠りをしたスキに、リンゴの木は奪われてしまったのだそうです。ちょっとユニークな竜ですね。

東の空

5月15日21時 東の空のようす
5月15日21時 東の空のようす

 今月に入ると、そろそろ夏の星座が東の空から昇りはじめてきました。

てんびん座

 黄道12星座のひとつとして有名な星座ですが、てんびんの形を想像するのはちょっと難しいかもしれません。ひらがなの「く」の字を逆向きにした3つの星の並びしかわかりません。昔の星座絵では、さそり座のつめの部分として描かれていたそうで、こちらの方が自然なような気がします。このことは、α星のズベン・エルゲニブは南の爪、β星のズベン・エルシェマリは北の爪という意味であることからもわかります。

 ギリシャ神話では、正義の女神アストレアが、人間の罪をはかるために手にしていた天秤だということです。

へび座

 へび座はへびつかい座によって頭部と尾部の2つに分断されています。ですからへび座は1日のうちに2度南中することになりますが、こんな変わった星座は他にはありません。分断されたうち、頭の部分から先に上ってきます。同じ時間に尾の部分を見ようと思うと、もう1、2ヶ月ほど待たねばなりません。

 へび座には大きくて見やすい球状星団球状星団M5があります。双眼鏡でも丸い星雲状に見えますが、天体望遠鏡をのぞく機会があれば、見逃さないようにしてください。大型で立派な球状星団であることがわかります。ヘルクレス座のM13と見比べて見るのも楽しいでしょう。

 ギリシャ神話では、へびつかい座の医神アスクレピオスが手にしていた蛇だとされています。

ヘルクレス座

 12の困難な仕事を成し遂げたギリシャ神話の英雄として、ヘルクレス座はあまりにも有名です。そんなヘルクレスも星座として見ると、少し貧弱な感じがします。空が暗い場所でないと、その存在を確認することすら危ぶまれます。Hの字を少し拡げたような形を目印にしてください。へびつかい座のラス・アルハゲの隣で光る3等星がα星のラス・アルゲティで、こちらがヘルクレスの頭になります。

 ヘルクレス座には北天で最大の球状星団球状星団M13があります。小さな星々が球状にびっしりと集まって群れている様には感動せずにはおられません。ぜひとも天体望遠鏡でのぞいてみたい天体のひとつです。

 ギリシャ神話では、大神ゼウスがアルクメーネ(ペルセウスとアンドロメダの間にできた娘)に産ませた男の子がヘルクレスです。ヘルクレスは12の困難な仕事を成し遂げた英雄で、まだ幼少の頃、ヘラ女神の放った毒蛇をにぎり潰してヘラを驚かせたり、かに座のお化けがにを踏み潰してしまったり、しし座の人食いライオンを退治したり、うみへび座のヒドラを退治したりと、とにかくあちらこちらで英雄伝説を打ち立てました。