夏の星座がお目見え 2003年6月

 6月といえば、すぐに思い当たる言葉は梅雨ですが、雨が降っては天体観測はとてもできませんね。でもあきらめるのはまだ早い。意外と梅雨入り前や梅雨入り直後の頃は晴れの日も多くあり、しかもびっくりするくらいに透明度が良くて驚かされる場合があります。こんな時はもう見るしかありませんね。見るのはテレビじゃない、星ですよ、星。

注)このページの星空の様子は6月15日21時を基準としていますが、下の日時でもほぼ同様の空を見ることができます(月や惑星は除く)。また、明石以外でも日本国内であれば、見え方にさほど違いはありません。

  5月15日23時
  6月 1日22時
  6月15日21時
  7月 1日20時
  7月15日19時

全天のようす

6月15日21時 全天のようす
6月15日21時 全天のようす

 例によって、はじめは全天の空の様子から見ていきましょう。5月に空の大部分を占めていたのは春の星座でしたが、6月になると春の星座も西の空へと移動してきました。かわって東の空から進出してきたのは夏の星座たちです。

 梅雨の期間は、北のオホーツク高気圧と南の太平洋高気圧が勢力争いをしているのと同じように、星空の方でも春の星座と夏の星座が勢力争いをしている、そんな感じがします。

西の空

6月15日21時 西の空のようす
6月15日21時 西の空のようす

 次に西の空ですが、さすがに6月となると冬の星座はすっかりと影をひそめてしまいました。ただひとつ、ふたご座のカストルとポルックスだけはしぶとく北西の空低くにかろうじて見えていますが、地平線へ沈んでしまうのも時間の問題です。

 春の星座も西の空へと傾いてきました。春の星座の先頭バッターであったかに座は、もう西の空へと沈みかけています。また、東の空から昇ってくる時には威勢のよかったしし座ですが、今は地平線を目指して一目散に退散しているように見えて、ちょっと愉快な気がします。一時期は南の空を覆いつくしていた大きなうみへび座もすっかりと高度が低くなり、地平線にはいつくばっているように見えます。

 西の空低くには木星が見えていますが、高度が低くて大気の影響を受けやすくなっているので、天体望遠鏡を使って満足のいく観測は難しいと思います。

南の空

6月15日21時 南の空のようす
6月15日21時 南の空のようす

 今月の南の空は、春と夏の星座が同居しています。真南からやや西より(右側)には春の星座のおとめ座があり、青白色をした美しいスピカが輝いています。おとめ座の下にはうみへび座のしっぽの部分やからす座が見えています。先月のこの時間、ちょうど南中していた春の大三角は南西の空へと移動しました。

 一方、真南よりもやや東より(左側)には、「く」の字を裏返しにしたように見える、夏の星座のてんびん座があります。また、南東の空低くからは赤い1等星アンタレスのあるさそり座が昇ってきています。しかしまだ高度が少し低いので、さそり座の美しいS字カーブの全容をはっきりと捉えるのは、もう1ヶ月先になりそうです。さそり座の左上方向には、医神アスクレピオスを描いたへびつかい座が見えています。へびつかい座は比較的明るい星が大きな将棋の駒のような形に並んでいますので、これを目印にするとよいでしょう。

天頂の空

6月15日21時 天頂の空のようす
6月15日21時 天頂の空のようす


 今月、天頂方向に見えるのはうしかい座です。0等星アークトゥルスを頂点とした大きな「のし」のような形がその目印ですが、アークトゥルス以外の星は明るくないので、少しわかりづらいかもしれません。うしかい座の東側からは小さな星が半円形に並んだ可愛らしいかんむり座やギリシャ神話の英雄ヘルクレス座も高度を上げてきました。

 先月は天頂付近にあったりょうけん座のコル・カロリやかみのけ座の小さな星々は、高度が60度から70度付近まで下がってきましたが、それでも見上げるには首が痛くなる高さです。

  

東の空

6月15日21時 東の空のようす
6月15日21時 東の空のようす

 今月に入ると、夏の星座が東の空から本格的に昇りはじめてきました。上の絵では天の川も表示されていますが、実際にはもう少し高度が上がってこないと見るのは難しいと思います。

へびつかい座

 へびつかい座は将棋の駒のような形をした大きな5角形の星の並びが特徴です。この時期の将棋の駒は横になった形で東の空から昇ってきます。へびつかい座は単独で見るよりも、へび座といっしょに捉えた方がわかりやすいかもしれません。将棋の駒の部分はアスクレピオスで、その両側からへびが取り巻いている姿が浮かび上がります。

 実は、黄道12星座に含まれていないへびつかい座にも天の黄道が通っています。しかもさそり座よりも長い距離を通っていますので、本来ならへびつかい座も黄道12星座に加えられていなければいけません。そんなわけで、星占いではへびつかい座も加えた黄道13星座が採用されている場合もあるようです。

 ギリシャ神話ではへびつかい座は医神アスクレピオスが蛇を持った姿だとされています。なぜ蛇なんかを持っているのか、と思われるかもしれませんね。実は昔のギリシャでは、蛇は健康のシンボルとされていたので、医神のアスクレピオスが蛇を持っていたとしても不思議なことではありません。

さそり座

  黄道12星座のひとつとして有名な星座で、歌のタイトルに採用されたりすることもあります。好きな星座をひとつ挙げるとすれば、さそり座を挙げる人も多いのではないでしょうか。大きなS字型のカーブを描きながら、しっぽの毒針までそなえたその均整の取れた形は、非常に印象的です。おまけに、さそりの心臓部には赤い1等星のアンタレスがあり、さそり座をさらに印象深いものにしています。さそりのしっぽの部分はつり針のようにも見えることから「さそりのつり針」と呼ばれたりする場合があります。

 さそり座は南東の空から昇ってきます。ギリシャ神話では勇者オリオンを刺し殺したのが、このさそりです。そのため、さそり座が昇ってくるこの季節になると、オリオン座のオリオンは、こそこそと西の空へ逃げて沈んでいくのだそうです。

 さそり座にはM4、M6、M7(Mはエムまたはメシエと読みます)などの大きな星団があります。双眼鏡などでも見えますので、星図を頼りに一度探してみると楽しいですよ。

こと座

 こと座が東の空から昇ってくると、夏も近づいたなあと思います。こと座の最輝星は0等星のベガですが、ベガは織姫星として有名ですね。織姫星の相手の星である牽牛星(彦星)はわし座の1等星アルタイルですが、高度がまだ少し低いので、こちらは来月に紹介しましょう。

 こと座は小さな星座ですが、ベガと小さな平行四辺形の4つの星が目印です。特に小さな平行四辺形はとても可愛らしくて、印象に残ります。

 こと座には環状星雲(またはドーナツ星雲)として有名なM57という惑星状星雲があります。小さな星雲なので見るのには天体望遠鏡が必要となりますが、いびつな唇のような姿は実に印象的です。つるちゃんが自分の天体望遠鏡で見た初めての星雲は、実はこの環状星雲で、最も印象に残っている天体のひとつです。

 ギリシャ神話では、ギリシャで一番の音楽家であるオルフェウスが奏でた琴だと言われています。オルフェウスが琴を奏でると、岩も柔らかくなり、冥土の番犬ケルベロスもおとなしくなったと伝えられています。