2014年の春、最接近した火星を天体観測しよう 2014年3月から5月

 2014年4月14日は火星が地球に最も接近し、天体観測をするには絶好の機会となります。普段は観測する機会が少ない火星だけに、この春はじっくりご覧になられてはいかがでしょうか。

2年2ヶ月ごとに近づく火星

 火星といえば地球のすぐ外側を公転している、太陽系の第4惑星ですね。公転周期は1.88年と比較的地球に近いため、毎年地球に近づくわけではありません。会合周期は779.94日となっており、およそ2年と2ヶ月ごとに近づきます。

 それでは例を調べてみましょう。今回の最接近は2014年4月14日ですが、前回近づいたのは2012年3月6日でした。またその前は、2010年1月28日でした。逆に将来を調べると、次回近づくのは2016年5月31日で、その次は2018年7月31日となっています。このように、火星と地球はおよそ2年と2ヶ月ごとに、接近を繰り返していることがわかります。 

2014年は小接近

 2014年は4月14日21時53分に火星が地球に最も近づきます。このときの距離は0.6176天文単位(AU)です。天文単位(AU)は太陽系での天体間の距離を表すのによく使われる単位です。1AUは地球と太陽の平均距離を表し、ざっと1.5億Kmです。

 下に示した太陽系の図をご覧ください。火星の軌道は円軌道ではなく楕円です。軌道の中心は太陽ではありません。このため、火星がどの位置で地球と接近するかによって、惑星間の距離が違ってきます。今回は火星が太陽から離れた位置で接近が起こりますから、地球との距離も遠く、小接近とよばれる小さな接近となります。

地球と火星の位置関係

 繰り返しになりますが、地球と火星が接近する距離は毎回異なります。最近で最も近づいたのは、超大接近と騒がれた2003年8月27日の0.3727AUでした。以降は0.4640AU、0.5893AU、0.6640AU、0.6737AUと、毎回距離が開いてきていました。しかし、今回は0.6176AUと減少に転じ、今後は接近時の距離が毎回縮まっていきます。

火星の最接近日 地球との距離(AU) 備考
2001年6月22日 0.4502  
2003年8月27日 0.3727 大接近
2005年10月30日 0.4641  
2007年12月19日 0.5893  
2010年1月28日 0.6640  
2012年3月6日 0.6737 小接近
2014年4月14日 0.6176  
2016年5月31日 0.5032  
2018年7月31日 0.3850 大接近
2020年10月6日 0.4149  
2022年12月1日 0.5445  
2025年1月12日 0.6423  
2027年2月20日 0.6779 小接近
2029年3月29日 0.6472  

観望期は3月から5月

 火星はお隣の惑星なので、いつも観測しやすいように思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。むしろ地球から離れている期間が長く、良い条件で観測できる期間はごく限られています。それはもちろん、火星が2年2ヶ月ごとしか地球へ近づかないことによります。

 火星の観測条件はひとえに見かけ上の大きさによって決まります。当然地球へ近づくほど大きく見えます。大接近の場合だと視直径は20秒(1秒=3600分の1度)を超えますが、今回は残念ながら15.2秒止まりです。木星の視直径は40秒台の半ばから後半ですから、今回の火星は最大でも木星の3分の1しかありません。しかしそれでも、火星がもっとも遠ざかったときは2.5秒しかありませんから、それと比べると6倍もの大きさがあります。

 ベテランの観測者でも10秒よりも小さくなると観測が難しくなるといわれます。一般の方なら13秒以上を今回の観望期と定義づけましょう。この場合、3月13日から5月19日までが火星の観望期になります。 

逆戻りする火星の動き

 火星は惑星ですから、星座に対してゆっくり動いています。2014年の場合は星座でいうと、おとめ座に位置しており、1等星スピカの近くを移動します。スピカは青白い色をした美しい星で、下の星図では下の方、やや左側にαの文字が書かれた星です。

 今回に限った話ではありませんが、太陽系で内側を回る地球が外側を回る火星を追い越すタイミングで最接近となります。このとき地球からみた火星は、いったん逆戻りするような動きを見せ、逆行とよばれています。下の星図のように、3月2日から5月21日の間は星図上で左から右へ移動し、逆行しています。(通常は右から左へ移動しています。)
 

2014年に火星が描く経路の拡大図

火星の見つけ方

 火星がおとめ座の中で逆行することはわかりましたが、それでは実際の夜空で、どの方角に見えるのでしょうか。おとめ座は春を代表する星座ですから、この頃は早起きしなくても、良い時間帯に見ることができます。

 天文ソフト「つるちゃんのプラネタリウム(つるプラ)」を使って、東京で21時に見える夜空を再現してみました。3月14日だと東の空の低い位置、4月14日だと南東方向で空の中ほど、5月14日だと南の空で空の中ほどに、それぞれ見ることができるでしょう。火星の明るさは-1等級で、1等星よりも明るく光っていますから、誰でも簡単に見つけることができます。

2014年3月14日21時の位置 −東の空−



2014年4月14日21時の位置 −南東の空−



2014年3月14日21時の位置 −南の空−

火星の色を楽しもう

 火星を他の星と見間違えることはありません。それというのも、独特で不気味なくらいに赤い色をしているからです。以前から火星はその赤さから戦火や血を連想させ、マーズ(軍神アーレス)とよばれてきました。火星は戦いの神だったのです。

 夏の星座のさそり座にある赤い1等星はアンタレスといいますが、これはアンチ・アーレスからきています。アンチは対抗するものという意味で、アーレスは火星を意味します。つまり、アンタレスは火星に対抗する星なのです。全天で赤い星は珍しい上に、火星がアンタレスの近くにやってくると、赤さを競い合っているように見えることから、このようによばれるのです。

 ところで火星は今、おとめ座にいる関係で、近くに1等星のスピカがあります。スピカは清純な女性をイメージさせる青白い色をしていますから、色の対比が楽しめます。また遠くないところには、オレンジ色をした0等星のアークトゥルスがあります。火星はアークトゥルスよりも赤い色をしていますから、こちらも見比べてみましょう。

 今紹介した二つの星の色は対照的です。そこで、スピカを女性に、アークトゥルスを男性に見たてて、「春の夫婦星」とよばれています。そこへ真っ赤な明るい火星がスピカの近くへやってきて、あたかもアークトゥルスからスピカを奪いにきたかのようです。


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(火星)
   スピカちゃんはオレのものだ!
(アークトゥルス)
   なにを言う。急にフラフラやってきやがって。
(火星)
   でもオレの方がスピカちゃんの近くにいる。へへへっ。
(アークトゥルス)
   バカヤロー。オレ達二人は春の夫婦星なんだぞ!
(スピカ)
   お願い。二人ともケンカはやめて・・・。ざめざめ・・・。
(ナレーターのつるちゃん)
   その後のお話です。
   2014年に入ってからスピカのそばを行ったり来たりしていた火星ですが、
   夏になるとあきらめたのか、スピカから次第に離れていきました。
   めでたし、めでたし。
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明るさの変化を楽しもう

 2014年の火星の明るさは緩やかに変化します。衝(惑星が太陽から180度離れた位置にやってくること)となる4月9日頃までは少しずつ明るくなりますが、これを過ぎると逆に少しずつ暗くなります。しかし明るくなるよりも暗くなる方が、変化が緩やかです。

 火星が最も明るくなるのは衝となる4月9日頃で、明るさは-1.5等に達します。また最接近となる4月14日でも-1.4等とほとんど変わりません。3月17日から5月11日までは-1等台で、非常に明るい状態が続きます。また、2月13日から6月26日まではマイナス等級をキープします。2014年の後半は緩やかに光度が落ちていきますが、年末でも1等星並の明るさが続きます。

 このように火星の明るさは、それほど劇的に変化するわけではありません。明るさの変化を楽しむためには、ある程度間隔を開けて観察することが大切です。1ヶ月くらい間隔を開けるとわかりやすいでしょう。また、基準になる星を決めてその星と比較すると、明るさの違いがわかりやすくなります。

火星の光度曲線

天体望遠鏡で模様を楽しもう

 火星の天体観測で一番の楽しみは、やはり天体望遠鏡で見える表面模様でしょう。先に書いたように火星の大きさは小さく、ピーク時でも15.2秒しかありませんので、高倍率にする必要があります。口径ミリ数の2倍を目安にして、大気の安定した夜に思い切って倍率を上げたいところです。

北極冠

 火星の極地方には極冠とよばれる大きな氷の塊があります。これを天体望遠鏡で地球から観測すると、白く輝いて見えます。ある程度の面積がありますから、小型の天体望遠鏡でも良い観測対象となります。2014年の場合は北極地方にある北極冠が観測できます。しかし、最接近の頃は火星上での夏至を過ぎていることから、北極冠は非常に小さくなって見づらいと思います。もう少し早い時期から観測を続けると、次第に小さくなっていく北極冠が楽しめます。
表面模様

 今年は火星の北半球がよく見えます。火星の表面には濃淡があり、模様が見られます。濃い模様にはそれぞれ名前が付けられていますが、最も濃い模様は大シュルティスです。小型の望遠鏡でも黒っぽい暗部として観測することができます。地球最接近となる4月14日の夜ですと、夜中の23時から0時頃に中央付近で見ることができます。なお、火星の模様は、よく見える側とあまり見えない側がありますから注意してください。
火星の自転

 地球と同じように火星も自転をしています。時間をおいて観測すると、自転によって模様が移動していることがわかり、「火星も自転しているんだなあ」と実感できます。ここで注意していただきたいのは、自転周期は1.0260日(=24時間37分)と地球に近いものだということです。このため、ちょうど丸一日たってから同じ時間帯に火星を観測しても、前日とほとんど同じ火星面を見ることになります。1日に37分ぶんだけしか違いませんから、違う面を見たいのであれば、見る時間帯を大きくずらすようにしましょう。
砂嵐

 火星では砂嵐がよく起こります。砂嵐が起こると黄色い雲のように見えることから黄雲とよばれることがあります。火星は大気が薄いため、一度砂嵐が発生するとどんどん規模が大きくなり、時には砂嵐が火星表面全体を覆ってしまうこともあります。はたして今年は砂嵐が発生するでしょうか。
模様の見え方

 火星の模様の見え方を5日間隔で下の図に示します。先に書いたように、自転によって模様の位置が変わりますから、21時、翌日0時、3時の見え方を示しました。最も濃い模様の大シュルティスは、21時だと4月4日と5月14日頃、0時だと4月10日頃、3時だと4月15日頃に火星中央付近に見えることがわかります。
3月5日から5月14日まで5日間隔、21時に見える火星の模様



上図の翌日0時の場合



3時の場合

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