日食予報の精度

日食予報値の違い

 雑誌やインターネットを見ていると、同じ観測地のなずなのに、情報源によって日食の時刻が異なっていることがよくあります。例えば、2009年7月22日にトカラ列島で見られた皆既日食で、最も皆既帯の中心に近いとされる悪石島における皆既日食の開始時刻と終了時刻の例です。

情報源A  開始:10時53分06秒  終了:10時59分31秒  皆既継続時間:6分25秒
情報源B  開始:10時53分21秒  終了:10時59分41秒  皆既継続時間:6分20秒
情報源C  開始:10時53分20秒  終了:10時59分37秒  皆既継続時間:6分17秒
情報源D  開始:10時53分21秒  終了:10時59分41秒  皆既継続時間:6分20秒 ※つるちゃんの日食ソフトの場合

 これら4つの情報源による差の最大をとると、開始時刻が15秒、終了時刻が10秒、皆既継続時間が8秒も差が生じています。これはどの辺に原因があるのでしょうか。

そもそもの計算方法

 天体の位置計算にはさまざまな手法があります。また、計算にあたって考慮すべき事柄がたくさんあり、段階的に一つずつ順番に計算していかなければなりません。精度を高めようとすればするほど、考慮しなければならない事柄も増えていきます。
 
 これらの計算を行う中で、精度不足の計算手法を用いたり、考慮しなければならない事柄を考慮しなかったとすれば、その部分は当然誤差となって表れます。ちゃんとした情報源ならそのあたりはきっちり考慮されているのでしょうが、わずかなことで時刻が数秒単位で狂うことはよくある話です。
 
※つるちゃんの日食ソフトでは多少の誤差を含みますから、秒単位での精度が必要な場合は使用しないでください。

デルタT

 世間一般の話として、1日は24時間と思われていて誰も疑いませんが、厳密にいうと地球の自転速度は一定しておらずにふらつきがあります。これを補正するためにΔT(デルタT)という値を導入して、人工的につじつま合わせを行っています。しかし、残念なことに将来のデルタTを予測することはできません。
 
 実際10年前頃、2009年のデルタTは73.0秒ぐらいだと予想されていました。しかし、最近では65.9秒ぐらいではないかと考えられています。つまり、10年前の予測よりも7.1秒だけ地球の自転がずれていることになります。したがって、以前のデルタTを使って計算すると、実際の地球の自転よりもすれた位置で計算されますから、当然日食の予報時刻もずれてしまいます。
 
 先の情報源の例では、情報源AはデルタTを古い値で計算した結果で、情報源BはデルタTを新しい値で計算した結果です。たとえ計算方法は同じであっても、デルタTのとり方によって、予報時刻が変わってくるということです。

月の大きさ

 日食時刻を計算する際には月を平均月縁で計算します。しかし、皆既日食の場合は平均月縁よりも少し小さい目に計算しておかないと、月の谷間から光が漏れて、皆既日食にならないのに皆既日食だと計算されてしまうことがあります。これを行うか行わないかによって計算結果が違ってきますが、皆既日食では平均月縁よりも少し小さい目に計算するのが慣例化されており、あまり問題になることはありません。
 
 問題になるのはむしろ金環日食の場合でしょう。NASAなどのサイトでは金環日食の場合も平均月縁より小さい目の月縁が使われています。このため、ベイリービーズ状態がきわだって完全につながらない金環状態でも金環日食と判定されてしまいます。このため国立天文台などのWEBサイトでは、金環日食の場合は通常の平均月縁が用いられています。
 
 ※つるちゃんの日食ソフトでは、皆既日食および2012年を除く金環日食の時刻を求める際には平均月縁よりも少し小さめに計算しています。2012年の金環日食に限って平均月縁を使って計算しています。

月の形状中心と質量中心

 通常だと月の位置は質量の中心位置で計算されますが、実際に見た形状中心位置とは若干の差が生じます。これを補正するかしないかによって、日食の予報時刻に誤差が生じます。
 
 ※つるちゃんの日食ソフトでは、バージョン1では質量中心位置から形状中心位置へ簡易的に補正していましたが、バージョン2以降では他の予報値等を鑑み、補正は行わないようにしました。しかし、バージョン2.2以降では、あらためて補正を行うようにしています。

月縁補正

 より詳しい皆既日食の開始時刻と終了時刻を求めようとすると、月の凹凸も考慮しておく必要があります。つまり、月を少し小さめに計算しても、深い谷間があるとそこから光が漏れて、皆既日食にならないことがあるからです。これを行うのが月縁補正です。
 
 先の情報源でいえば情報源Cは月縁補正を行った結果になります。悪石島では月の深い谷間から光が漏れるので皆既終了時刻が早まります。その結果、谷間から光が漏れない諏訪之瀬島の方が、皆既継続時間が長くなるという計算結果になるそうです。
 
 このように、月縁補正をするかしないかによって皆既日食の時刻が違ってきます。月縁補正を行っていない計算結果が掲載されていることも多々ありますから、皆既日食を観測される際には注意が必要です。
 
 ※つるちゃんの日食ソフトでは月縁補正を行っていません。

観測地の違い

 悪石島とひとことで言っても島には面積があります。ですから、どこの地点で観測するかによって時刻が違ってきます。例えば、次の2箇所は日食当日に悪石島での観測予定地とされる地点です。

小中学校校庭: 北緯29°27′00.7″東経129°36′13.6″ 標高179m
湯泊温泉公園: 北緯29°27′30.2″東経129°35′26.5″ 標高 10m

 つるちゃんの日食ソフトを使ってふたつの候補地を比べてみると、開始時刻で2秒、終了時刻で1秒の差が出てしまいました。狭い悪石島の中ですらこんな調子です。緯度と経度をどこまで正確に把握しているか、標高を考慮しているかによって計算結果に差が生じるということです。このように、天文ソフトなどを使われる場合もそうですが、計算した際の緯度と経度、そして標高にも注意を払っていただきたいと思います。

つるちゃんの日食ソフトの計算精度は、つるちゃんの日食ソフト 計算精度のページをご覧ください。