天体望遠鏡の性能を知ろう

 天体望遠鏡を買いたというあなた。その選び方も大事ですが、その前に天体望遠鏡の性能とはどのようなものかを知っておく必要があります。これがわからないと、果たしてどこまで見えるのか、限界がわからなりませんね。ということで、ここでは性能について説明しましょう。

重要なのは倍率ではない

 「倍率は何倍?」 天体望遠鏡を前にしたあなたは、きっとこう質問をされることでしょう。でもそれは大きな間違い。天体観測を行う場合、惑星などを観測する場合を除けば、倍率はそれほど重要なものではありません。実際に観測をしてみるとわかりますが、一定以上に倍率を高くすると天体の像は暗くなるし、ボケてくるし、視野(見える範囲)は狭くなるしで、三重苦を味わうことになります。重要なのは倍率ではないと、よく心に留めておいてください。 

どのくらい多くの光を集められるか−集光力

 天体望遠鏡を使うと、人間の目よりも多くの光を集めることによって天体を大きく拡大したり、暗い天体を識別することができるようになります。どのくらい多くの光を集めることができるかを集光力とよんでおり、人間の目と比べて何倍の光を集めることができるかで表します。集光力が200倍といえば、人間の目の200倍の光を集めることができることになります。大きな口径ほど多くの光を集められるのは明らかですね。ですから、集光力は口径の大きさによって決まります。

どこまで暗い天体が見えるか−極限等級

 天体望遠鏡の良いところは、人間の目では見ることのできない暗い天体を観測できることです。暗い天体ほどその数は多いので、暗い天体が見えるほど観測対象は広がります。ですから、どこまで暗い天体を観測できるかはとても重要なことです。

 どのくらいまで暗い天体を観測することができるかを表すのには極限等級を用います。読んで字のごとく、見ることのできる最も暗い天体を等級で表したものです。極限等級が11等星といえば、11等星までの天体を観測できることになります。極限等級はどのくらいたくさんの光を集めることができるか(集光力)によって決まりますから、極限等級も口径の大きさによって決まります。

どこまで細かく見分けられるか−分解能

 ふたつの星がピッタリとひっついた二重星を観測することを考えてみましょう。性能の良い天体望遠鏡であれば二つの星に分離することができますが、性能が悪いものは、二つの星に分離することができずに一つの星に見えてしまいます。同じように、月の表面を観測するときに、性能が良ければ非常に小さなクレーターも観測できますが、性能が悪いと非常に小さなクレーターは観測することができません。このように、どのくらい細かいものを見分けられるかが重要で、これを分解能とよんでいます。

 分解能は角度の秒で表し、「分解能は1.16秒」 という具合に記述されます。一般的に分解能は次の計算式で求めることができます。ですから分解能は、口径が大きなものほど有利といえます。

(分解能 秒) = 116 ÷ (口径mm)

有効最高倍率−どこまで倍率を上げられるか

 先にも書きましたように、倍率を上げていくと次第に像が暗くなってボケてきます。天体をハッキリと見ることができる倍率には限界があるのです。天体の像がボケることなくハッキリと観測することができるギリギリの倍率のことを有効最高倍率といいます。

 有効最高倍率は、一般的に口径をミリ数で表した倍率程度だと言われています。つまり、口径が100mmの場合だと、有効最高倍率は100倍となります。しかし、月や惑星など光量の多い天体の場合は、口径の1.5倍から2.5倍くらいまで倍率を上げることができます。そういう意味では有効最高倍率の定義はあいまいです。いずれにしても有効最高倍率は口径によって決まるもので、むやみに倍率を上げてみても天体を詳しく観測できるわけではありません。

有効最低倍率−どこまで倍率を下げられるか

 有効最高倍率とは反対に、口径によってどこまで倍率を下げることができるかを示す有効最低倍率も存在します。口径のミリ数を倍率で割り算すると射出ひとみ径が求まりますが、この値が人間の瞳の直径よりも大きくなると、望遠鏡で集めた光が瞳からあふれてしまい、意味がなくなってしまいます。真っ暗闇で人間の瞳は最大7ミリまで開くといわれていますから、有効最低倍率は次の式で求められます。ですから、口径が大きいほど有効最低倍率は高くなります。

(有効最低倍率) = (口径mm) ÷ 7mm

まとめると

 以上をまとめると下の表のようになりますが、どうでしょうか。天体望遠鏡の性能は口径の大きさで決まることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

口径(mm) 集光力(倍) 分解能(秒) 極限等級(等星) 有効最高倍率(倍) 有効最低倍率(倍)
一般的な倍率 惑星などの場合
(口径の2倍)
30 18 3.87 9.4 30 60 4
50 51 2.32 10.3 50 100 7
60 73 1.93 10.7 60 120 9
80 131 1.45 11.3 80 160 11
100 204 1.16 11.8 100 200 14
150 459 0.77 12.7 150 300 21
200 816 0.58 13.3 200 400 29

他にも重要な要素が

 上で書いた以外にも性能を決める要素はいくつもあります。性能は口径で決まることは間違いありませんが、レンズの材質や表面の凹凸、磨き具合、組み合わせ方によっても見え方は大きく違ってきます。また、架台の微動装置はスムーズに動くか、付属する接眼レンズは良好かといったことも重要です。このあたりは、カタログに掲載されている性能数値だけから判断することはできませんので、ベテランの人の意見を聞いたり他人の評価を参考にするか、もしくは実際に販売店の店頭へ出向いて自分の目で確認するしかありません。

 それから下まわりも重要になってきます。鏡筒を支えているのは三脚や架台であり、これがひ弱だとちょっと風が吹いただけでユラユラと視野が揺れて、天体観測どころでなくなってしまいます。つい鏡筒へ目が向きがちになりますが、どれぐらいの積載重量があるかといったことも重要な性能のひとつです。これらのことを全て合わせて天体望遠鏡の性能が決まるのです。

関連リンク: 天体望遠鏡の性能でよくある質問