ボートルの限界 −アイソン彗星は生き残るか?

生き残る彗星と消滅する彗星

 アイソン彗星の近日点通過前後は、かなり明るくなると予想されています。しかしこれは、彗星が生き残れたらの話です。小さな彗星が太陽に近づき過ぎると蒸発してしまい、跡形もなくなってしまいます。一方、大型の彗星は蒸発することなく、生き残って大彗星となるケースもあります。アイソン彗星の場合も同じで、太陽に近づき過ぎて蒸発してしまう可能性がありますし、大彗星になる可能性もあるのです。

3つのケース

 アイソン彗星は太陽へ0.01244天文単位まで大きく近づくため、100万度もある太陽コロナの中を突き進みます。当然、強烈な熱とプラズマの嵐にさらされます。また、太陽の強大な重力を受けます。このため太陽へ大きく近づいた過去の彗星は、悲惨な結末をむかえたケースが少なからずあります。アイソン彗星も次の3つのいずれかをたどるでしょう。

  1. 太陽の強烈な熱と重力によって彗星自体が蒸発、または崩壊するケース。これは最悪のシナリオで、尾が最も発達する近日点通過直後の彗星を観測することができなくなる可能性が高くなります。例として2000年7月のリニア彗星があります。このときは彗星が次第にぼやけて拡散していき、最後には何も見えなくなってしまいました。しかし2011年のラブジョイ彗星の場合は、核が崩壊した後に雄大な尾をなびかせてくれたような例もあります。
     
  2. 核がいくつかに分裂するケース。この場合はしばらく見え続けます。彗星から多くのガスとチリが放出され、尾が発達すると考えられます。例として、1965年の池谷・関彗星があります。このときは核が数個に分裂しましたが、その後、雄大な尾が観測されて歴史に残る大彗星となりました。
     
  3. 完全に生き残るケース。太陽に熱せられて大量のガスやチリが放出され、近日点通過後に尾が発達する可能性が高くなります。

ボートルの限界

 彗星が蒸発しないで生き残るための条件として、次の経験則が成り立ちます。これをボートルの限界とよんでいます。Hは絶対光度で、qは近日点距離を意味します。

H≦7.0+6q

生き残りが微妙なアイソン彗星

 それでは、現在想定されているアイソン彗星の数値を、上式に当てはめてみましょう。 H=8.0 程度と考えられており、q=0.01244 です。ですから、上式が成り立つかどうか、微妙なところです。すなわち、アイソン彗星が蒸発してしまい、生き残れない可能性があるのです。

 過去の例をみてみますと、ボートルの限界よりも大型の彗星が崩壊してしまったこともあります。それとは反対に、とても生き残れないと思われた彗星が生き残って生還を果たし、素晴らしい姿を見せてくれたこともあります。ボートルの限界は、あくまでも経験則です。予断を許さない情勢ではありますが、アイソン彗星ががんばってくれることに期待しましょう!

 つるちゃんのプラネタリウム アイソン彗星