太陽を減光しよう

 もともと日食はそれほど多く起こるものではありません。しかも、大きく欠ける日食となると、頻度から考えて一生のうちにそう何度も見られるものではありません。そうなると是が非でも日食を楽しみたいところですが、いかんせん、太陽の光はまぶしすぎます。日中の太陽を肉眼で見ようとしても、とても目を開けていられませんし、無理をして太陽を見続けると失明の危険すらあります。
 
 そんなわけで、日食を楽しむためには太陽の光を弱めるための工夫が必要です。ここでは太陽光はなぜ危険なのかを理解したうえで、正しい減光の方法を紹介します。

可視光線

 可視光線とは漢字の通り、目に見える光のことです。目に見えるという表現には個人差がありますのでキッチリ定義すると、波長が380から750ナノメートルの範囲の光を指します。これは紫、青、緑、黄、橙、赤などの各色が該当します。まぶしいと感じる太陽の光はこれらの色の寄せ集めです。日食観測をするためには、まず可視光線を弱めないことには、太陽の光がまぶし過ぎてどうにもなりません。

ブルーライト

 最近、目に損傷を与える主な原因は、可視光線に含まれるブルーライトとよばれる青い光による光化学反応ではないかという考え方が広がってきています。ブルーライトとは、可視光のうち波長が440nmを中心とした紫、藍、青、緑など、400nmから500nmの青系統の光を指します。ブルーライトが網膜細胞に当たると、光を感じる色素が光化学反応を起こします。これによって、網膜としての機能を損傷してしまうというのです。また、ブルーライトをわずか1秒間直視しただけで、目に障害が残るともいわれています。ブルーライトによって引き起こされる目の障害は、ブルーライト障害とよばれています。

紫外線

 太陽の光は肉眼で見ることができる可視光線の他に、紫外線や赤外線といった目に見えない光も放っています。このうち紫外線は波長が短い紫色の光よりも、さらに波長が短い光として知られています。女性の方なら「日に焼けちゃう〜」と言って、紫外線に当たるのを気にされる方も多いのではないでしょうか。
 
 そんな紫外線を肉眼で見続けると、眼球の表面に傷ができて雪目になったり、白内障の原因になったりします。しかし、紫外線が網膜にまで達することは少ないので、網膜がやられてしまうことは少ないと言われています。また、ガラスやプラスチックを通過すると紫外線は弱められますので、こういった素材を通して見ることで、紫外線の影響を緩和することができます。といっても、ずっと見続けていいはずがないことは、言うまでもありません。

赤外線

 太陽光のうち、目に見えない光のひとつに赤外線があります。赤外線は赤色の光よりも波長が長く、熱線と呼ばれることがあるように、人間の肌に当たるとヤケドを引き起こすことがあります。赤外線を肉眼で見続けると、網膜がヤケドのような状態になり、へたをすると失明の恐れすらあります。また、赤外線はガラスやプラスチックを通過しますから、見た感じでは太陽光が弱まって見えても、実は赤外線が素通りしていることも多々あるのです。赤外線は目に見えない光だけに、非常にやっかいです。

こんな減光方法は避けよう

 日食を観測するためには太陽を減光する必要がありますが、目に見える可視光線を減らしただけでは不十分です。先にも書いたように、目に有害な紫外線や赤外線を減らさなければなりません。次のような減光方法では目に損傷を与えてしまう危険をはらんでいますから、このページを読んでいるあなたは、決して行わないようにしてください。

<やってはいけない減光方法>

日食グラスを使おう

 それでは、どのような方法で減光すれば良いのでしょうか。当サイトでは日食観測用に作られた減光フィルターを使用することをおすすめします。これは日食グラス、日食メガネなどの名前で販売されているものです。その名の通り、日食を肉眼で見るために開発された減光フィルターのことです。可視光線はもちろん、紫外線や赤外線をカットしてくれるので、安心して日食観測することができます。

ピンホールを使おう

 日食グラスを準備できれば、それにこしたことはありません。でも、取り寄せに時間がかかったりして準備が間に合わないかもしれませんね。そんな時はピンホールを使いましょう。ピンホールとは針で開けたような小さな穴のことです。小さな穴を通すことによって、カメラのレンズのように像を映し出すことができます。
 
 準備は簡単で、光を通さない薄い板を用意します。ここへ小さな穴を開けるだけです。この穴を通った光を地面などへ映し出すことにより、太陽を安全に観測することができます。
 
 開ける穴の大きさによって最適な焦点距離が変わり、小さな穴ほど地面へ近づける必要があります。穴を大きく開けすぎるとピンホールにならないので注意しましょう。日食当日になってあわてないですむように、事前に穴の大きさを変えながら、いろいろ試しておかれた方が良いと思います。

木漏れ日を使おう

 日食では日食グラスなどの減光フィルターを使って観測する方が多いと思いますが、太陽の欠け方を確認するために木漏れ日を使う方法もあります。
 
 葉が茂った木は、葉と葉の間に隙間ができます。この隙間を通った太陽の光が地面に達すると、太陽の形が映し出されます。原理は先に紹介したピンホールと同じで、天然のピンホールと思ってください。葉と葉の間にできた小さな隙間はいくつもありますから、欠けた太陽がいくつも地面に映し出されることになります。木の葉が風に揺られると、欠けたいくつもの太陽も揺れて、なかなかおもしろいですよ。

天体望遠鏡や双眼鏡の減光

 天体望遠鏡や双眼鏡を使って日食観測をしたいという方もきっとおられることでしょう。その場合は、天文ショップなどで販売される専用の減光フィルターを使用します。たいていの場合は対物側へ設置します。ガラスに金属膜を蒸着させたタイプや薄膜シートを好きな形状に切り取って装着するものなど、何種類かあります。これらを使うことにより、1万分の1から10万分の1程度の減光率を得ることができます。注意していただきたいのは、眼視観測用のもの購入していただきたいということです。撮影用のものは減光率が低かったり、赤外線部分がカットされないものもありますので注意が必要です。またシート状のものは、表面に傷がついたり小さな穴が空くことにより、太陽光が漏れだす恐れがあります。使用する前に必ず確認するようにしてください。

 10cmを超えるような大きな口径の場合は光量が多くなりすぎたりフィルターそのものが販売されていないこともあるので、あらかじめ口径を絞ってからフィルターを装着した方が良いでしょう。また、長時間使用し続けると、機器や接眼レンズに悪影響を与える可能性もありますから、説明書に従って使用するようにしましょう。
 
 天体望遠鏡の場合、以前は接眼レンズにサングラスと呼ばれるフィルターを装着していた時代がありました。しかし、長時間見続けると熱で破損することがあるので、安全面から現在では製造されていません。

カメラ撮影時の減光

 カメラで日食撮影する場合も、皆既中を除いて、やはり減光する必要があります。基本的には天体望遠鏡の場合と同様で、専用のフィルターを購入するのが一番です。