食分と空の明るさ

 日食の進行状況を表すのには食分が使われます。食分は太陽の直径が欠けた割合を表します。2009年のトカラ列島での皆既日食や、2012年の金環日食では、近年稀に見る大きな食分となります。ここでは食分によって、空の明るさや周りの様子がどのように変わるのかを解説します。イメージしやすいように、食分に応じた太陽の形も載せておきました。(2035年皆既日食を宇都宮市から見た場合を例にしています)

食分0.5

食分0.5の太陽 食分が小さいうちは太陽光量の減少も少ないので、普通に生活をしていて日食に気づく人は少ないでしょう。しかし食分が0.5を超えてくると、なんとなくいつもよりも日差しが和らいできて、日食を肌で感じることができるようになります。それでもずっと屋外に出ている人は、少しずつ光量が変化していることに対して鈍感ですから、まだ日食が起こっていることに気づかないかもしれません。

食分0.6

食分0.6の太陽 空が暗くなってきていることに多くの人が気づくのは、食分が0.6を超えたあたりからです。太陽からの光量は半分に落ちていますから、さすがに皆が気づき始めるというわけです。

食分0.7

食分0.7の太陽 食分が0.7を超えてくると周りは少し暗くなってきて、景色が色褪せてきます。その反面、妙に空だけが青く感じられることがあります。これはプルキニェ現象と呼ばれています。人間の目は、明るい場所では赤が鮮やかに見えて青は黒ずんで見えますが、暗い場所では逆に赤が黒ずんで青が鮮やかに見えるのです。食分が0.7を超えるような深い日食では、プルキニェ現象がみられるかを確認してほしいと思います。
 また、さえずっていた鳥たちが寝所へ帰って行くなど、動物に変化がみられ始めるのもこの頃からです。

食分0.8

食分0.8の太陽 食分が0.8を超えてくると空は夕方っぽく少しずつ暗くなってきます。ですから、金星のような明るい星は慣れた人なら簡単に見つけることができるようになります。下の絵は2009年7月22日に起こった日食の例で、食分0.82の大阪の空です。太陽の右側方向(西側)にある金星は非常に明るいので、日食中なら見えるはずです。深い日食が起こる際には、見える位置をあらかじめ確認しておいて探してみましょう。

2009年、大阪のようす。大きく欠けた太陽から右方向に金星が見える。間隔は41度。

食分0.9

食分0.9の太陽 食分が0.9に達すると、いよいよ周りも夕方のように暗くなってきます。しかし、ずっと屋外にいて日食観察している人にとっては、意外に明るく感じるようです。実際、カメラのオートで普通に風景写真を手持ちで撮影することができるくらいです。
 動物たちは夕方になったと勘違いして虫が泣き止んだり、小さな昆虫が姿を消したりすることがあります。犬の遠吠えが聞こえたりすることもあるようです。日光の減少とともに気温も低下してきて、少し肌寒く感じることがあります。当然、日食が起こる地域、季節、時間帯や人れぞれの感じ方によっても異なりますが、通常よりも気温が低くなることは間違いありません。

食分0.95

食分0.95の太陽 食分が0.95を超えていよいよ皆既日食が目前に近づいてくると、シャドーバンドと呼ばれる現象が見られることがあります(※)。これは、縞模様状に薄い影が地表面を速い速度で流れていく現象です。シャドーバンドは原理的には日食でなくても見られるはずなのですが、普段は太陽の光が強すぎて見ることができません。これが皆既日食の直前・直後になると太陽光が弱まって、見ることができるようになるのです。模様は非常に淡いものなので、白い紙や布を地面へ置いておくと見やすくなります。

 2012年の金環日食の場合、シャドーバンドを確認するのには太陽光量が多いため、観測は難しいかもしれません。それでも観測することができるか注目してみましょう。
 
※シャドーバンドは皆既日食の前後で必ず見られるというわけではありません。