日食の周期

長い皆既継続時間の日食の例

 2009年7月22日に起こったトカラ列島皆既日食は、皆既の継続時間が6分を超えていて非常に長いことが特徴でしたが、同じように皆既継続時間が6分を超える日食は、前回は1991年7月11日に起こりました。そして、次回6分を超えるものは、2027年8月2日に起こります。これを見ると18年と11日で規則正しい周期性があるように思えませんか?

サロス周期

 日食の周期で最も有名なものはサロス周期でしょう。サロス周期は223朔望月(=6585.32日)が19食年(=6585.78日)に近いため、6585.32日ごとに日食が起こるというものです。この日数は18年11日と3分の1日で、先に紹介した6分以上継続する日食の周期とよく合致しています。サロス周期には次のような特徴があります。

 サロス周期は周期が短い割には優秀な周期ということができます。ただ、周期に3分の1日がつきますから、1周期後には同じ観測地点では日食を見ることはできず、西へ120度(正確には115.6度)ほど移動した地点で日食が起こることになります。
 
 なお、2009年7月22日に起こる皆既日食はサロス番号136の日食ですが、このシリーズの皆既日食は2027年8月2日、2045年8月12日、2063年8月24日、2081年9月3日と皆既日食が続いていきます。それにしても紀元前3世紀から紀元前2世紀頃、すでにギリシャの天文学者に知られていたというのですから驚きとしか言いようがありません。

メトン周期

 メトン周期は紀元前433年にアテネの数学者メトンが最初に発見したと言われていますが、紀元前6世紀頃から中国でも知られていたそうです。メトン周期は19年(=6939.6日)と235朔望月(=6939.7日)がよく一致しており、しかも20食年(=6932.4日)とも近いことから日食の周期として使用することができます。

 例えば2009年7月22日の日食をあてはめてみると、次回は2028年7月22日で皆既日食が起こり、その次は2047年7月22日ですが、こちらは部分日食です。さらにその次の2061年は日食が再現されなくなってしまいます。他の例として日食ではありませんが、2010年には元旦に月食が起こりますが、以降も19年の周期で2029年、2048年にも元旦に月食が見られて、メトン周期に一致しています。

イネックス周期

 イネックス周期はサロス周期よりも長期間の食予報として使えます。イネックス周期は358朔望月(=10571.9548日)が30.5食年(=10571.91日)とほぼ同じであることから、10571.9548日(=28年345.17日)ごとに日食が起こるものです。イネックス周期には次のような特徴があります。

 そんなわけで、イネックス周期の場合は食の様子が毎回変わってしまうので、扱いにくいという欠点があります。イネックス周期があまり知られていないのはこの辺に原因があるのでしょう。2009年7月22日の日食をあてはめてみると、次回は2038年7月2日になりますが、このときは皆既日食ではなく金環日食になります。

その他の周期

 日食の周期は他にもあります。短いところでは1年マイナス11日というのがあり、短い周期の割には一応実用になる周期です。また、イネックス周期を2倍した716朔望月は61食年との差が−0.0797日で、食年の小数点もないので優秀ですが、間隔が58年弱とだいぶ長くなってしまいます。
 
 周期が長いとろでは3803朔望月と324食年の差が+0.0607日で、先のものより小さくなりますが、周期が長くなった割には精度的にあまり良くなっていません。さらに長いところでは4519朔望月と385食年との差が0.0189日で非常に優秀ですが、周期が365年にもなって数字のお遊びに終わってしまいそうです。

予備知識

 最後に日食の周期性を語るのに必要な用語を簡単に解説しましたのでお読みください。

朔望月

 月の動きを表すのに、朔(さく)、望(ぼう)といった言葉がよく使われます。朔は月と太陽の黄経が一致することで、新月にあたります。望はその逆で、月と太陽の黄経が180度離れることで、満月となります。1朔望月は朔から朔までの日数のことで、平均すると29.5306日です。

食年

 月の公転軌道面は地球の公転軌道面に5度ほど傾いています。月が南から北へ横切る地点を昇交点と呼び、北から南へ横切る地点は降交点と呼びます。実は昇交点や降交点は一定ではなく、毎年19度ずつ西へ移動しています。ですから、月が朔の方向で昇交点を通過してから次に朔の方向で昇交点を通過する周期は1年(365.2422日)よりも18.62日短く、346.62日しかありません。この346.62日のことを1食年と呼びます。

近点月

 月が地球へ最も近づく地点を通過する周期は朔望月とは一致しませんで、少しずれています。この周期は近点月と呼ばれており、27.5546日となります。