パンスターズ彗星を写真撮影しよう

 せっかくパンスターズ彗星が見えるんだったら、カメラで撮影して写真に収めたいという方も多いのではないでしょうか。しかし多くの方が、一生のうちに彗星を撮影する機会なんて、ほとんどないに違いありません。そこで、ここではパンスターズ彗星を撮影するための基本を紹介し、少しでも上手に撮影していただければと思います。

パンスターズ彗星用のカメラを準備

 まず、パンスターズ彗星を写真撮影するためにはどのようなカメラが向いているのか、どのようなポイントでカメラを選べばよいのかを説明します。

カメラの種類

 昨今ではいろいろなカメラが発売されています。パンスターズ彗星を撮影することを考えた場合、大きなくくりで望ましい順に挙げるとすると、デジタル一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ、コンパクトデジタルカメラとなります。
携帯電話やスマホの内臓カメラは?

 携帯電話やスマートフォンに内臓されたカメラは、画素数では市販のデジタルカメラと遜色ないケースが多いのも事実です。しかし何といっても、カメラ自体の性能があまり良くありません。パンスターズ彗星など、暗い被写体を撮影すると違いが顕著に現れますから、おすすめいたしません。また、三脚に固定することができませんので、こちらの面からも好ましくありません。
撮像素子

 カメラに内臓された撮像素子の大きさは、彗星などの天体写真では重要なポイントの一つです。撮像素子とは、光を感知して電気信号に変換する部分のことで、かつてのカメラではフィルムに相当します。

 大きな撮像素子なら一画素あたりの受光量に余裕ができて、写真の画質が良くなります。35mm判フルサイズ、APS-C、フォーサーズ規格、マイクロフォーサーズ規格など何種類かあります。この順に高性能ですが、価格もこの順に高くなります。35mm判フルサイズなら文句はありませんが、価格と性能のパランスが取れたAPS-Cサイズもおすすめです。
感度

 パンスターズ彗星をはじめとした天体写真では、暗くて淡い天体が被写体になります。このため、感度を高く(ISO値を大きく)設定できるカメラの方が有利です。高感度なほど短いシャッタースピードを使用できるので、露出時間が長くなりがちな天体写真に向いています。同じISO感度であっても、カメラの機種によって画像全体のザラザラ感やノイズの出方、発色などに違いがありますから、新しく購入される場合は検討が必要です。
露出

 パンスターズ彗星をはじめ、淡い天体をハッキリ写すためには、ある程度長い露出時間を確保する必要があります。パンスターズ彗星が明るい時期なら数秒から十数秒で写りますが、シャッターを開放にしたままにできるタイムやバルブを設定できるカメラが望ましいでしょう。
マニュアル撮影

 完全オート撮影の場合だと、彗星がハッキリと写ってくれないケースが生じます。したがって、露出時間を自分でコントロールできる必要があります。露出補正(EV値を変更する)機能が最低限必要ですが、コンパクトデジカメの場合は変更できるEVの範囲が狭く、露出の過不足が発生しがちです。できれば絞り値とシャッタースピードの両方を自分で設定できるマニュアル撮影が可能な機種がよいでしょう。

三脚を用意

 パンスターズ彗星を撮影するためには、カメラを固定することが必要です。三脚を使うと手ブレが抑えられ、パンスターズ彗星を確実に撮影することができます。

手ブレ対策

 日中の撮影とは異なり、パンスターズ彗星などの淡い天体を写真撮影する場合は、どうしても露出時間が長くなります。そうなると手ブレが発生するのは必死で、せっかく撮影した写真も台無しになってしまいます。三脚を使うことによって手ブレを解消し、カメラを固定して撮影しましょう。
頑丈な三脚

 カメラのボディやレンズの荷重の全てが三脚にかかりますから、ひ弱な三脚は避けるべきです。がっしりと安定した頑丈なものを使用しましょう。
耐荷重を確認

 三脚に載せて長時間無理なく撮影するには、耐えることができる重さに限界があります。ミラーレスカメラとパンケーキレンズの組み合わせや、コンパクトデジカメの場合、重さが軽いことから三脚の耐荷重をあまり気にする必要はないかもしれません。しかし、重い望遠レンズを使う場合は、自分の三脚がどのくらいの重さまで耐えられるかを確認しておきましょう。三脚に対してカメラが重過ぎると、安定性が損なわれ、なんのために三脚を使用するのかわからなくなってしまいます。

撮影しよう

 パンスターズ彗星のような特殊な被写体を上手に撮影するにはコツがあります。下の説明を読んで、撮影の際の参考にしてください。

高感度に設定

 パンスターズ彗星を撮影する場合、通常よりも感度を高い目に設定します。ISO800以上を目安にしますが、あまり高く設定しすぎると、全体的にザラザラした写真に仕上がってしまいます。このザラザラ感はカメラごとに異なりますから、実際に撮影してみて、ほどよいところで留めておいた方が無難です。
小さなF値

 カメラレンズのF値(絞り)を設定できる場合、小さなF値を設定してください。これはもちろん、絞りを開放に近づけて目いっぱい光を取り入れることにより、露出時間を短くできるからです。しかし、四隅に写った星像の甘さが気になる場合は、開放から1、2段絞ってF値を大きくしてください。すると、星像が点像に近くなり、全体的に引き締まったキレイな写真が得られます。
長い露出時間

 彗星のような淡い天体を撮影する場合、日中の撮影よりもずっと長い、数秒から数十秒の露出時間が必要です。しかし、露出時間は長ければ良いというものでもありません露出時間が長いと、地球の自転(日周運動)によって星像が長く伸びて写ってしまいますし、デジタルカメラ特有のノイズが増えてくるからです。また、パンスターズ彗星の場合は薄明中に撮影しなければならないケースも多いでしょう。このような条件で露出時間を長くすると、背景の空が明るく飛んでしまって、観賞用としての写真価値が損なわれてしまいます。
距離は無限遠

 パンスターズ彗星は非常に遠い所にあります。ですからピント位置は無限遠となります。彗星のようなぼんやりした境界がはっきりしない被写体は、オートフォーカスではピントが合いません。この場合は遠くの景色でピントを合わせてから、マニュアルフォーカスに切り替えるようにします。シーン撮影の場合は、「夜空」「無限遠」「遠景」「風景」など、遠くにある被写体を撮影するときに使うシーンにセットすると良いでしょう。

 なお、レンズに書かれた「8」の字を横に倒したような記号は無限遠を意味します。しかし、気温の違いなどによってズレることがありますから、過信は禁物です。
リモコンを使おう

 コンパクトデジカメでは難しいですが、ミラーレスカメラやデジタル一眼レフカメラでは、リモコンを使ってシャッターを切ることをおすすめします。指でシャッターを切ると、シャッターボタンを押す瞬間に、手ブレが発生するからです。リモコンを使うことによって手ブレ問題は解消します。
セルフタイマーを使う

 リモコンが使えないカメラの場合は、セルフタイマーを使うと良いでしょう。撮影者が集合写真に加わりたい場合に使うアレですね。セルフタイマーを使えば指でシャッターボタンを押さずにすみますから、手ブレが発生しません。
オート撮影

 ISO感度、F値、ピント位置が決まったら、とりあえず絞り優先のオート撮影してみましょう。うまく撮れますか? うまく写っていればそれでOKです。
EVを変更

 パンスターズ彗星は、絞り優先のオート撮影ではうまく写ってくれないかもしれません。こんな時に活躍するのがEVです。EVは通常0に設定されていますが、この値を変更するのです。露出不足の場合はEVをプラス側に変更すれば、オート時よりも露出時間を長くすることができます。反対にマイナス側に変更すると、オート時よりも露出時間が短くなり、露出オーバーを解消できます。この機能はコンパクトデジカメにも普通についていますから、彗星撮影だけでなく、いろいろな撮影シーンで応用が効きます。
ホワイトバランス

 オートでも撮影できますが、太陽光に設定すると、見た目に近い感じに写ってくれます。薄明中の空の雰囲気を出すのによいでしょう。
風景を入れて撮影

 パンスターズ彗星は夕方や明け方に、地平線から近い位置に見えます。したがって、地上の風景を取り入れた構図にすると、文字通り絵になる写真にすることができます。昼間のうちに良さそうな場所をロケハン(ロケートハンティング)しておきましょう。
日周運動による位置ズレ

 いくら素晴らしい構図を決めたとしても、全ての天体は日周運動によって、位置がどんどんズレていきます。これは、広角レンズよりも望遠レンズを使用した時に顕著に現れます。構図の中で彗星の位置を小刻みに確認するようにしてください。また露出時間を長くすると、パンスターズ彗星や星が長く伸びて写ってしまいますから注意してください。
露出を変えて撮影

 パンスターズ彗星の高度や周囲の明るさといった撮影条件の違いによって、適正な露出時間は刻々と変化します。露出時間を変えながら、何枚も撮影しておかれることをおすすめします。

 つるちゃんのプラネタリウム パンスターズ彗星