3年ぶりに皆既月食 2010年12月21日

 2010年12月21日は2007年8月28日以来、3年ぶりとなる皆既月食が起こります。2010年は元旦に月食が起こって幕を開けました。その後6月26日にも半分ほど欠けましたが、いずれも部分月食でした。しかし今回は皆既月食である上に、日本で年内に3度も月食が見られるという非常に珍しいケースとなります。多くの方が見やすい夕方に起こりますし、ほぼ全国的に見られますから、いやがおうにも期待が高まります。

1.皆既月食とは
2.経過の概要
3.地球の影を通る月の経路
4.月出帯食となる前半
5.見やすくなる後半
6.皆既月食を楽しもう
7.写真撮影しよう
8.1年間に3回起こる月食
9.来年は皆既月食が2回

1.皆既月食とは

赤い月

 皆既月食とは、月が地球の影の中に完全に入り込む現象です。皆既月食になると太陽の光が当たらなくなり、月が全く見えなくなるのかというと、そういうわけではありません。月全体がほんのりと赤っぽく染まり、非常に美しい姿が浮かび上がります。
 
 皆既月食中の月の色や明るさは毎回異なります。明るい時はオレンジ色や赤銅色に見えますが、暗い時は赤黒い色、灰色に見えます。さて、今回はどのような色に見えるでしょうか?
 

皆既月食が起こる仕組み
 月が地球のまわりをを公転するうちに、地球の影の中へ入ってしまうことがあります。この時、地球の影に入った部分は太陽の光が当たらなくなり、欠けて見えます。このような天文現象を月食といいます。冒頭で書きましたように、特に、月が影の中にすっぽり入ってしまった場合は皆既月食と呼ばれます。
 
 下の模式図をご覧ください。月が地球の影の中に入るということは、右から太陽、地球、月がこの順番で一直線に並ぶ必要があります。地球から見た月は真正面から光が当たっていますから、満月ということになります。
このことから、月食は満月の時にしか起こりません。
 


2.経過の概要

 前置きはこれぐらいにして、今回の皆既月食がどのように進行していくのか、経過の概略をたどりましょう。
 
2010年12月21日の月食図

始まり 15時32.3分
皆既月食始まり 16時40.4分
最大食 17時17.0分
皆既月食終わり 17時53.6分
終わり 19時01.7分
最大食分  1.261
始まり
 本影食の始まりは15時32分です。日本各地ともこの時点ではまだ月が地平線下にありますので、欠け始めを見ることはできません。その後、東の地域から順番に月が欠けた状態で昇ってきます。日の入りと月の出の時刻があまり違いませんから、空が明るい状態でのスタートとなります。

皆既月食

 皆既の始まりは16時40分です。西の地域では皆既月食の状態で月の出となります。どの地域から見てもまだ高度が低い上に周囲が明るいので、肉眼では見づらいでしょう。その後17時17分に食の最大を迎えます。この時の食分は1.261で、皆既月食としては普通かやや浅いものです。皆既継続時間は1時間13分で、17時54分に終了します。

終わり

 その後は高度が上昇するとともに通常の満月の姿に戻っていきます。食分が0.5となるのは18時30分頃です。そして19時02分に終了します。半影食は20時6分まで続きますが、肉眼でハッキリと確認するのは難しいでしょう。

場所による見え方の違い

 月食の場合は日食と違って、日本全国どこから見ても同じ見え方をします。言い換えると、開始や終了などの時刻や欠ける割合(食分)は、全国どこでも全て同じになります。
 
 とはいえ、観測場所が変わることによって違ってくる点もあります。まず今回に限っていうと、月の出時刻が異なることにより、どこから観測をスタートできるかが違ってきます。これについては後に詳しく解説します。
 
 他には観測場所が変わることによって見える方角や高度が少しだけ異なります。でも、それほど気にするほどのものではありません。また、欠ける方向も少しだけ違いますが、こちらも大した違いではありません。
 
場所による見え方の違いの実際

皆既月食の経過(東京) シミュレーション

天体観測用データ
 主な8地点における天体観測用データを下表へまとめておきますので参考にしてください。
<皆既月食の天体観測用データ>
観測地 日の入り 空が
暗くなる
月の出 高度(度)
時刻 食分 皆既開始
16:40
最大食
17:17
皆既終了
17:54
月食終了
19:02
札幌 16:02 17:45 15:55 0.35 + 6.3 +12.3 +18.5 +30.3
仙台 16:20 17:54 16:13 0.63 + 3.9 +10.2 +16.8 +29.4
東京 16:31 18:03 16:25 0.81 + 1.9 + 8.5 +15.2 +28.2
金沢 16:41 18:14 16:36 0.94 + 0.1 + 6.5 +13.1 +25.8
大阪 16:51 18:21 16:46 1.07 − 1.6 + 4.9 +11.6 +24.5
広島 17:04 18:34 17:00 1.19 − 3.9 + 2.5 + 9.1 +22.0
福岡 17:14 18:43 17:10 1.25 − 5.8 + 0.6 + 7.3 +20.1
那覇 17:42 19:05 17:40 1.15 −11.8 − 5.0 + 2.1 +15.7
※出没時刻関係は「つるちゃんの天体出没時刻表」で計算。誤差は3秒以内。他は多少の誤差があります。
※月出帯食の場合、月の出時刻は月の最下部が地平線に接した時とされることも多いですが、
  上表を含めてこのページでは、月の中心が地平線に接した時としています。

3.地球の影を通る月の経路

 下の図は2010年12月21日に起こる皆既月食の際、月が地球の影を通る移動経路をシミュレーションしたものです。赤い丸は地球の本影で、太陽の光が届かない領域です。この丸の中に入ると月食が見られます。薄い黄色の丸は地球の半影で、太陽の光が一部届いている領域です。この中に入っても肉眼で月が欠けているのはほとんどわかりません。それから普通の地図とは異なり、東西が逆になっていますから注意してください。
 
 地球本影の西側(右側)から月が外接したところで部分月食が始まります。月は次第に東の方(左の方)へ移動していきます。そして月が本影に内接すると皆既月食になります。その後はそれほど本影の奥深くまで入り込むことなく、北寄りの経路をとりながらゆっくり通過していきます。本影の東側(左側)に内接すると皆既月食が終了し、さらに外接した時点で部分月食も終了となります。

地球の影を通過する月の通り道

※表示するためにはFLASHが必要です。


※FLASHが見れない方はこの図をご覧ください。

4.月出帯食となる前半

月出帯食とは
 今回は月出帯食(げつしゅつたいしょく)となるのが特徴です。月出帯食とは月の出時点ですでに月食が始まっており、欠けたままの状態で昇ってくることです。特に西日本エリアでは、皆既月食の状態で月出帯食となる珍しい現象が見られます。
月出帯食の様子
 下の画像は全国主な8地点において、月の出となる時点でどれだけ欠けているかを表したものです。場所によって昇ってくる時刻が違いますから、スタートの状態が各地で異なっています。概ね南西へ行くほどスタート時の食分が大きくなります。例えば札幌では35%ほどですが、仙台では60%強、東京では80%くらいと大きくなっていきます。
 
 さらに大阪まで行くと、皆既月食での月出帯食となります。といっても太陽が沈む5分前に月の出を迎えますから、相当に見づらいことが予想されます。肉眼で観測するのは厳しいかもしれませんから、双眼鏡か天体望遠鏡を準備しておかれた方がよいでしょう。

月の出時刻における各地の欠け方

注:大気差を考慮しているため、月の出時刻の高度は−0.6度となっています。

東日本の見え方
 今まで書きましたように各地とも月出帯食となる関係で、前半は場所によって観測条件が異なりますから注意が必要です。
 
 それでは北から順にみていきましょう。 札幌は表中で最も北に位置するだけに、一番条件良く観測することができます。月が昇ってきた時の食分は0.35と食が浅く、前半の半分以上を観察することができます。また、皆既月食が開始する時の高度は6.3度で、他の地域よりも余裕があります。
 
 札幌よりも南に位置する東京では、すっかり細くなった月が東の空から昇ってきます。どうにか皆既月食を最初から最後まで見ることができますが、皆既開始頃は高度が低いので、あまり良い条件とはいえません。
東京から見た場合の欠け方シミュレーション

※表示するためにはFLASHが必要です。 


皆既月食の始まり頃まで(東京、10分間隔)

※高度がマイナスの場合は実際には見ることができません


最大食となる頃 東京で見える位置
西日本の見え方
 先にも書きましたように、大阪あたりまで西へ行くと皆既月食でのスタートとなります。さらに西に位置する九州の福岡まで行くと、月の出の時刻と最大食となる時刻が7分しか違いません。つまり福岡では、皆既月食の前半をほとんど見ることができません。また、空が完全に暗くなる時刻も遅くなり、大半は薄明状態で観察することになります。最後に、日本で最も南西に位置する石垣島あたりでは、皆既月食が終了してからしか見ることができません。
5.見やすくなる後半
後半も続く薄明状態
 月食の後半は各地ともだいたい似たような状況です。17時17分に食の最大を迎えた頃、各地とも空はまだまだ薄明状態が続いていますから少し見づらいでしょう。皆既月食が終了する17時54分でも大半の地域で空が完全に暗くなりきっていません。しかし、多くの地域でだいぶ見やすくなってきているはずです。これからという時に大変残念なのですが、皆既月食もここまで。ここからは次第に普通の満月の状態へ戻っていきます。
1時間ちょっとで元の満月に
 復帰は左側やや下方向から始まります。その後もひたすら右上方向が欠けた状態を維持しながら、1時間8分の時間をかけて、次第に欠けた部分の割合が少なくなっていきます。これとともに高度も上がってきますから、空が暗くなるのと合わせて一気に見やすくなってきます。しかし、19時を過ぎたところで終了。ちょっと残念な気もします。
皆既月食の終わり頃から終了まで(東京、10分間隔)



終了頃 東京で見える位置

6.皆既月食を楽しもう

 次のような点に注意しながら楽しまれると良いでしょう。
東から北東が開けた場所
 今回は月出帯食ということで、東から北東の方角が地平線付近まで見渡せる場所を探しておいてください。ただ見るだけならこれで十分ですが、風景も入れた写真撮影をお考えの方は、絵になるスポットをあらかじめ探しておきましょう。
頼りない皆既の姿
 今回は高度が低い状態での皆既月食ですから、まずその見え方に注目してください。最初の頃は周りが明るいこともあって、非常に頼りない姿でしょう。双眼鏡や天体望遠鏡を使いながら、うっすらと浮かび上がった皆既月食の姿が見られるかどうか、挑戦してください。
双眼鏡や天体望遠鏡を準備
 そんな頼りない姿をじっくり観測しようと思うと、やはり天体望遠鏡に勝るものはありません。といっても天体望遠鏡は大掛かりになってしまいますから、双眼鏡をお持ちの方はそれでもよいでしょう。周囲が明るい初期の段階では、肉眼で見るのは大変でしょうから何かと役立ちます。しかも肉眼で見た場合よりも詳しく観測できるので感動の度合いが違います。肉眼よりも双眼鏡。双眼鏡よりも天体望遠鏡ですよ。
明るさと色
 皆既中の月の色は毎回異なります。詳しく観測すると、本影の中心に近い側は暗くなり、外側は明るくなります。また、時間の経過とともに刻々と変化します。特に今回は低空で起こる現象ということもあって、地球の大気による影響を強く受けます。
 
 今回は月が地球の影の奥深くまで入り込むわけではありませんから、オレンジ色か赤銅色に見えるのではないかと思われます。しかしその一方で、今年発生したアイスランドでの火山爆発で、大気中に撒き散らされたチリの影響により、暗い月食になる可能性もあります。果たしてどうのような色や明るさに見えるのか注目してください。
欠け際に注目
 日食と違って月の欠け際は少しぼやけていてはっきりしません。これは地球の大気によって地球の影の境界がはっきりしないためです。肉眼でもわかりますから、一度確認してみてください。地球の影が月に映し出されていることが実感できて、何か言い知れない感動があります。
クレータ
 月の欠け際を見てクレーターを観測しようと思ってもハッキリ見ることができず、思ったように観測することはできません。クレーターを観測するなら通常の月の方が良いでしょう。

風景を見渡そう

 今回は日の入り頃に高度が低いところで起こる現象ですから、周りの風景にも目をやりましょう。暮れなずんでいく夕空とともに、周りの景色も刻々と変化していきます。こんな風景を普段じっくりと眺める機会はそんなに多くないでしょう。これに月食中の月を組み合わせれば、非常に美しくて印象的な風景となるのは間違いありません。できれば写真におさめておきたいですね。

7.写真撮影しよう

 3年ぶりの皆既月食である上に、美しい夕暮れ時に起こる現象ということもあって、写真におさめておきたいという方も多いでしょう。専門的な撮影方法は他サイトにおまかせするとして、ここではコンパクトデジカメによる簡単な撮影方法を紹介しましょう。

三脚に固定

 昼間の風景写真と違って暗い皆既月食を撮影するわけですから、どうしても露出時間が長くなってしまいます。最近は手振れ防止機能が付いた機種も増えていますが、そんな程度では追いつきません。普通に手持撮影すると間違いなく手ブレしますから、カメラを固定して撮影する必要があります。コンパクトデジカメは重さが軽いので、千円以内で販売されているような簡易的な三脚でも十分です。

ピント

 被写体の主人公となる月は非常に遠い所にありますから、ピント位置は無限遠になります。数字の「8」を横倒しにしたような形「∞」が無限遠のマークですから、もし設定が可能な場合はこれに固定してください。ピント位置を固定できない場合は、月そのものや、できるだけ遠くの景色にピントが合うようにカメラを調整します。うまくいかずにピンボケする場合は、撮影モードを「遠景モード」や「風景モード」に切り替えてみましょう。

露出時間

 月食撮影で最大のポイントは露出時間です。特に皆既中は影の中心側と外側で明るさが違っていたり、進行具合によって月全体の明るさが変化したりして、適正露出を得るのは結構難しいものです。よくわからない方はとりあえずフルオートで撮ってみてください。デジカメはその場で写り具合が確認できますから、必要に応じて夕暮れモードや夜景モードなどへ変更してみてください。それからたいていの機種で、露出補正機能がついています。これを使ってEVの値を変えながら、何枚か撮影してみるのがよいでしょう。また、シャッターを押した際にカメラがブレないよう、セルフタイマーを使うのも忘れないでください。

8.1年間に3回起こる月食

2010年は当たり年
 2010年は月食の当たり年です。12月21日は、元旦、6月26日に次いで3回目となります。日本で本影食が年に3回も見られるのはかなり珍しいことで、次回は84年も先の2094年になります。
次回は2094年
 ここで、2094年について調べてみましょう。まず最初に起こるのは1月2日です。食分0.887の部分月食で、午前2時前頃に最大食となります。2回目に起こるのは6月28日です。東京では月の出がほぼ最大食になる月出帯食で、食分は1.823という素晴らしい皆既月食です。そして3度目は12月22日の夜明け前で、こちらも皆既月食です。

 さて、お気づきになられたでしょうか。今年2010年に起こる3回の日付と比較してみると、下の表のようになります。ものの見事に1日または2日遅くなっているだけの日付になっていますね。
月食 2010年 2094年
最大食の日付と時刻 食分 最大食の日付と時刻 食分
1回目  1月 1日  4時23分 0.082  1月 2日  1時57分 0.887
2回目  6月26日 20時39分 0.542  6月28日 18時59分 1.823
3回目 12月21日 17時17分 1.261 12月22日  4時54分 1.463
※一部誤差を含みます。
2178年の場合
 それでは、さらに84年後となる2178年はどうでしょうか。まず最初は1月4日に皆既月食が見られます。と、ここまではよかったのですが、次の6月30日は最大食が11時前頃となってしまい、日本からは見ることができません。しかし、世界レベルでは食分0.836という部分月食が見られます。3度目は12月25日で、こちらは食分0.269という小さな部分月食です。月没帯食ながら日本からもどうにか見ることができます。
1926年の場合
 もうちょっとがんばって、今度は過去にさかのぼってみます。2010年から84年前というと1926年になります。まず最初に前年の年末から年始あたりで見られそうに思いますが、残念ながら見られません。次の6月26日には半影食が起こり、西日本でかろうじて見ることができます。次に起こる12月19日は月出帯食となる半影食です。ということで、この年は本影食は一度も見ることができませんでした。

 このように、2010年を基点として月食が1年に3度見られるという84年の周期は、すぐに崩れてしまうようです。

9.来年は皆既月食が2回

 2010年12月21日の次に見られるのは来年6月16日の皆既月食です。こちらは今回とは逆に月没帯食となります。東京あたりでは皆既となったところで月没を迎えて終了します。また12月10日にも、来年2度目となる皆既月食を条件良く見ることができます。

※このページに出てくる画像(FLASH画像を除く)は主に「天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム シェア版」の「つるちゃんの日食ソフト プラグイン機能」を使用しています。

つるちゃんのプラネタリウム 月食の観測ガイド一覧