月没帯食となる皆既月食 2011年6月16日

 2011年6月16日には皆既月食が起こります。前回2010年12月21日の場合は月出帯食となりましたが、今回は月が欠けたまま沈んでいく月没帯食となるのが特徴です。月が欠け始める頃、東京の場合で高度は10度を切っています。その後皆既を迎えますが、直後に地平線下へ沈んでしまいます。関東地方よりも北の地域では皆既となるる前に月が沈んでしまいますから、部分月食しか見ることができません。前回は悪天候で見られなかった地域が多く、再チャレンジしたいという方も多いのではないでしょうか。6月16日ということで本州付近は梅雨に突入する頃ですが、好天に期待したいところです。

1.皆既月食とは

赤くなる月

 皆既月食とは、月が地球の影の中に完全に入り込む現象です。皆既月食になると太陽の光が当たらなくなり、月が全く見えなくなるのかというと、そういうわけではありません。月全体がほんのりと赤っぽく染まり、非常に美しい姿が浮かび上がります。
 
 皆既月食中の月の色や明るさは毎回異なります。明るい時はオレンジ色や赤銅色に見えますが、暗い時はレンガ色、赤黒い色、時によっては灰色に見えたりします。前回2010年の皆既月食ではアイスランドで起こった大規模な火山爆発によって、赤黒くみえる暗い目の皆既月食となりました。さて今回はどのような色に見えるのでしょうか?

皆既月食が起こる仕組み
 月が地球のまわりをを公転するうちに、地球の影の中へ入ってしまうことがあります。この時、地球の影に入った部分は太陽の光が当たらなくなって欠けて見えます。このような天文現象を月食といいます。冒頭で書きましたように、特に、月が影の中にすっぽり入ってしまった場合は皆既月食と呼ばれます。
 
 下の模式図をご覧ください。月が地球の影の中に入るということは、右から太陽、地球、月がこの順番で一直線に並ぶ必要があります。地球から見た月は真正面から光が当たっていますから、満月ということになります。
このことから、月食は満月の時にしか起こりません。


2.月食の経過

 今回の皆既月食がどのように進行していくのか、経過の概略をたどりましょう。

2011年6月16日の月食図
半影食の始まり 2時23.1分
部分食の始まり 3時22.6分
皆既の始まり 4時22.1分
食の最大 5時12.6分
皆既の終わり 6時03.0分
部分食の終わり 7時02.6分
半影食の終わり 8時02.2分
最大食分 1.705
半影食
 半影食の始まりは2時23分です。半影食は月から見ると部分日食が起こったような状態ですから、月の表面には太陽の光が当たっています。このため肉眼で見ても月は明るくて、月食が起こっていることに気づかないでしょう。肉眼でハッキリわかるためには、本影食を待たなければなりません。
月食の始まり
 本影食の始まり、いわゆる月食の始まりは、日本全国どこから見ても同じ3時23分です。このときの高度は日本列島の北東に位置する場所ほど低く、南西に位置する場所ほど高くなります。例えば札幌では高度が4度しかありませんが、東京では10度、大阪では13度、福岡では17度といった具合に少し開きがあります。このことが後に、月食をどこまで見ることができるかに影響してきます。

月食の終わり

 ここでいきなり終わりの説明になってしまいます。「えっ。まだこれからが本番じゃないの?」 そう思われた方がおられるかもしれません。実は今回の場合、月没によって月食が終了してしまうのです。このため皆既月食が見られる地域と見られない地域がでてきます。これについては「3.場所による見え方の違い」の中で説明します。

3.場所による見え方の違い

 月食の場合は日食と違って、日本全国どこから見ても同じ見え方をします。言い換えると開始や終了といった時刻や欠ける割合(食分)は、全国どこでも全て同じになります。といっても観測場所が変わることによって違ってくる点もありますから以下で説明します。主な8地点(札幌、仙台、東京、金沢、大阪、広島、福岡、那覇)における天体観測用データを下表へまとめましたので、参照しながらお読みください。

観測地 薄明
開始
日の出 月の入り 月の高度(度)
時刻 食分 欠け始め
3:23
皆既開始
4:22
最大食
5:13
皆既終了
6:03
札幌 1:36 3:55 3:55 0.54 + 4.0 − 4.7 −12.7 −21.1
仙台 2:16 4:13 4:13 0.85 + 7.3 − 2.1 −10.6 −19.6
東京 2:36 4:25 4:26 1.06 + 9.6 + 0.0 − 8.8 −18.0
金沢 2:43 4:34 4:36 1.23 +10.9 + 1.7 − 6.9 −15.9
大阪 2:58 4:44 4:46 1.39 +12.9 + 3.5 − 5.2 −14.4
広島 3:12 4:57 5:00 1.60 +14.9 + 5.8 − 2.8 −12.0
福岡 3:24 5:08 5:10 1.70 +16.7 + 7.6 − 1.0 −10.1
那覇 4:06 5:37 5:40 1.38 +23.7 +13.8 + 4.7 − 5.1
※出没時刻関係は「つるちゃんの天体出没時刻表」で計算。誤差は3秒以内。他は多少の誤差があります。
※月出帯食の場合、月の入り時刻は月の最下部が地平線に接した時とされることも多いですが、
  上表を含めてこのページでは、月の中心が地平線に接した時としています。
月没による時間制限と欠け方の違い
 2011年6月16日の月食では全国的に月没帯食となります。観測場所が違うと月の入り時刻も違いますから、どこまで欠けた状態の月を観測できるかが違ってきます。つまり、月没が遅い地域ほど大きく欠けた月を観測できるということです。下の図は日本の主な8地点で月の入り時刻において、月がどのくらい欠けているかを描いたものです。
 札幌では半分ちょっと欠けたところまでしか観測できませんが、東京以西では皆既月食まで観測できることがわかります。
 東京ではちょうど皆既月食になったところで月没となりますが、あまりにも低空なため、実際には皆既中の月を観測するのは難しいでしょう。
 西の方へ行くと月没時刻が遅くなりますから、それだけ観測条件が良くなります。皆既月食が始まる頃、大阪では月の高度が3.5度ありますから、どうにか皆既月食を観測できそうです。
 福岡では高度が7.6度あるので少し余裕があります。最大食となる2分前に月没となりますので、食分が1.7を超えたところまで観測することができます。
 さらに那覇まで行くと、最大食となる5時13分頃でも4.7度ですから、最大食を過ぎてからも観測できます。最大食まで観測できる場所は九州の一部や南西諸島に限られます。
月の入り時刻における月の欠け方の違い
2011年6月16日 地球の影を通る月
見える位置と欠ける方向が違う
 観測場所が変わることによって、月が見える方角や高度が少しだけ異なります。といっても月没付近を除けばそれほど気にするほどのものではありません。
 
 また欠ける方向も少しだけ違います。下に示した札幌と福岡の違いの例をご覧ください。福岡よりも札幌の方が少しだけ天頂に近い側から欠け始めることがわかります。といっても大した違いではないことがおわかりいただけるでしょう。
欠ける方向が違う例(月食開始から3分後、札幌と福岡)
夜明けの時刻差にも注意
 月食開始における月の高度もさることながら、今回の皆既月食では、空が明るくなり始める時刻も重要です。というのも6月16日頃は夏至に近く、年間を通して最も夜が明けるのが早い季節だからです。
 
 例えば札幌で空が明るくなり始める薄明開始時刻は、ナント1時36分です。月が欠け始める3時22分頃にはだいぶ空が明るくなっていることでしょう。そして月食開始から30分ほどで日の出を迎えてしまいます。ですから月食を観測できるといっても、かなりな悪条件を強いられることがわかります。札幌ほどではないにせよ、他の地域でも大半もしくは全ての時間を薄明の中で観測することになります。

4.地球の影を通る月の経路

 下の図は2011年6月16日に起こる皆既月食の際、月が地球の影を通る移動経路です。赤い丸は地球の本影で、太陽の光が届かない領域です。この丸の中に入ると月食が見られます。薄い黄色の丸は地球の半影で、太陽の光が一部届いている領域です。この中に入っても肉眼で月が欠けているのはほとんどわかりません。それから普通の地図とは異なり、東西が逆になっていますから注意してください。
 
 地球本影の西側(右側)から月が外接したところで部分月食が始まります。月は次第に東の方(左の方)へ移動していき、本影に内接すると皆既月食になります。また本影の東側(左側)に内接すると皆既月食が終了し、さらに外接した時点で部分月食も終了となります。
 
 今回の皆既月食は最大食分が1.705と大きな値です。下の図を見ると、月が地球本影の中心近くを通過することがわかります。ですから、色や明るさがどのように変化するのか興味深いところです。しかし実際には大半の地域で、地平線下での出来事となってしまいます。例えば東京では、下の図のように濃い黄色の丸印の位置で月没となります。

地球の影に対する月の経路
2011年6月16日 地球の影を通る月

5.皆既月食を楽しもう

 次のような点に注意しながら楽しまれると良いでしょう。
西から南西が開けた場所
 今回は月没帯食ということで、西から南西の方角が地平線付近まで見渡せる場所を探しておいてください。ただ見るだけならこれで十分ですが、風景も入れた写真撮影をお考えの方は、絵になるスポットをあらかじめ探しておきましょう。
頼りない皆既の姿
 今回は高度が低い状態での皆既月食ですから、その見え方に注目してください。月の欠け方が大きくなるとともに背景の空が明るくなり、コントラストが弱くなって次第に頼りない姿になっていきます。肉眼で皆既月食の姿がどこまで見られるか試してみてください。
双眼鏡や天体望遠鏡を準備
 そんな頼りない姿をじっくり観測しようと思うと、やはり天体望遠鏡に勝るものはありません。といっても天体望遠鏡は大掛かりになってしまいますから、双眼鏡をお持ちの方はそれでもよいでしょう。周囲が明るくなる最終段階では、肉眼で見るのは大変でしょうから何かと役立ちます。しかも肉眼で見た場合よりも詳しく観測できるので、感動の度合いが違います。肉眼よりも双眼鏡。双眼鏡よりも天体望遠鏡ですよ。
明るさと色
 皆既中の月の色は毎回異なります。詳しく観測すると、本影の中心に近い側は暗くなり、外側は明るくなります。また、時間の経過とともに刻々と変化します。今回は低空で起こる現象ということもあって、地球の大気による影響を強く受けます。さらに月が地球の影の奥深くまで入り込みますから、最大食頃は通常の皆既月食よりも暗い目のレンガ色や赤黒い色に見えるのではないかと思われます。

 昨年2010年12月の皆既月食では、同年4月に起きたアイスランドでの火山爆発によって大気中に撒き散らされたチリの影響を受けて、暗い目の月食となりました。今回の皆既月食ではどうのような色や明るさに見えるのかが注目されます。
欠け際に注目
 日食と違って月の欠け際は少しぼやけていてはっきりしません。これは地球の大気によって地球の影の境界がはっきりしないためです。肉眼でもわかりますから、一度確認してみてください。地球の影が月に映し出されていることが実感できて、何か言い知れない感動があります。
クレーター
 月の欠け際を見てクレーターを観測しようと思ってもハッキリ見ることができず、思ったように観測することはできません。クレーターを観測するなら通常の月の方が良いでしょう。

風景を見渡そう

 今回の月食は日の出前頃に高度が低いところで起こりますから、周りの風景にも目をやりましょう。暮れなずんでいく夕空とともに、景色も刻々と変化していきます。こんな風景を普段じっくりと眺める機会はそんなに多くないでしょう。これに月食中の月を組み合わせれば、非常に美しくて印象的な風景となるのは間違いありません。できれば写真におさめておきたいですね。

6.写真撮影しよう

 今回は空の色合いが美しい夜明け頃に起こる現象ということもあって、写真におさめておきたい方も多いことでしょう。専門的な撮影方法は他サイトにおまかせするとして、ここではコンパクトデジカメによる簡単な撮影方法を紹介しましょう。

三脚に固定

 昼間の風景写真と違って暗い皆既月食を撮影するわけですから、どうしても露出時間が長くなってしまいます。最近は手振れ防止機能が付いた機種も増えていますが、そんな程度では追いつきません。普通に手持ちで撮影すると間違いなく手ブレしますから、カメラを固定して撮影する必要があります。コンパクトデジカメは重さが軽いので、千円以内で販売されているような簡易的な三脚でも十分です。

ピント

 被写体の主人公となる月は非常に遠い所にありますから、ピント位置は無限遠になります。数字の「8」を横倒しにしたような形「∞」が無限遠のマークですから、もし設定が可能な場合はこれに固定してください。ピント位置を固定できない場合は、月そのものや、できるだけ遠くの景色にピントが合うようにカメラを調整します。うまくいかずにピンボケする場合は、撮影モードを「遠景モード」や「風景モード」に切り替えてみましょう。

露出時間

 月食撮影で最大のポイントは露出時間です。特に皆既中は影の中心側と外側で明るさが違っていたり、進行具合によって月全体の明るさが変化したりして、適正露出を得るのは結構難しいものです。よくわからない方はとりあえずフルオートで撮ってみてください。デジカメはその場で写り具合が確認できますから、必要に応じて夕暮れモードや夜景モードなどへ変更してみてください。

 それからたいていの機種で、露出補正機能がついています。これを使ってEVの値を変えながら、何枚か撮影してみるのがよいでしょう。また、シャッターを押した際にカメラがブレないよう、セルフタイマーを使うのも忘れないでください。

7.次回の皆既月食は12月

 次に見られる月食は、2011年12月10日に起こる皆既月食です。こちらは全国で最初から最後まで完全に見ることができるという、非常に条件が良いものです。こちらにも期待したいですね。

月食一覧表

前回の皆既月食 2010年12月21日 3年ぶりに皆既月食
次回の皆既月食 2011年12月10日 全国で好条件の皆既月食

※このページに出てくる画像は主に「天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム シェア版」の「つるちゃんの日食ソフト プラグイン機能」を使用しています。

つるちゃんのプラネタリウム 月食の観測ガイド一覧