条件が良い金星食 2012年8月14日早朝

2012年8月14日早朝は全国で金星食

 金星食とは月によって金星が隠される現象で、食現象のひとつです。2012年は食現象のオンパレードですが、大きな食現象として最後を飾るのが、8月14日未明に起こる金星食です。日本では、昼間に起こった2003年5月29日の金星食以来、9年ぶりの現象です。

 この金星食はほぼ日本全国で見られる上に空が暗く、太陽が昇っていない時間帯に見ることができるというオマケがついています。金星が月に潜入したり月から出現する様子を、良い条件で終始観測することができそうです。金星が月に隠されて、しばらく経ってから再び現れる様子は、まるでかくれんぼのよう。みんなでぜひ観察しましょう。

珍しい好条件の金星食

 東京で考えた場合、前回見られた金星食は2003年5月29日ですが、このときは昼間の現象でした。太陽が沈んでいて見やすいものとしては、1989年12日2日までさかのぼります。将来では7年後の2019年8月1日に金星食が起こります。このとき東京では、潜入の頃は地平線下にあるため見ることができません。出現の方は超低空ながら数字上では見ることができますが、実際には条件が厳しくて難しいと思います。このように考えると、2012年の金星食は、暗夜に潜入から出現までをほぼ全国で見ることができるという、非常に良い条件で貴重な天文現象であることがわかります。

金星食が見える位置

 下の星図は8月14日2時40分、東京から見た東天のようすです。星図では月と金星が重なって見えています。東京では金星食が始まる直前ですが、高度が13度もある上に太陽が昇っていない夜間ということで、最高の条件といえます。

東京の場合だと東の方角、高度13度くらいの位置に見える
金星食が始まる頃に見える位置を示した星図

月に対する金星の動き方

 下の図は札幌、仙台、東京、金沢、大阪、広島、福岡、那覇において、月に対する金星の経路を示したものです。上方向が北になっています。月を基準にすると金星は東側(図では左側)から概ね2時40分台に潜入します。その後しばらく西方向(図では右側)へ直線的に動いていきます。この間は月の背後に隠れて見えませんが、3時半ごろになると各地で次々と金星が顔をのぞかせてきて、出現を迎えます。なお、沖縄の那覇では金星の一部を月の縁が通過していく接食となります。予報によるとこの状態が7分程度継続します。

 図は北を基準にしていますので、赤道儀で追尾しながら観測する場合は都合が良いのですが、肉眼や双眼鏡で観測する場合は天頂が基準になります。このため図とは見え方が違いますから注意が必要です。三日月の傾き具合と下の図を照らし合わせ、金星の位置を判断するようにしてください。

 月に対して金星が移動する経路(数値等は3時の値)
主要8地点から見た金星食
※この図では上側が北になっています。肉眼で見た場合は天頂方向が上となりますので見え方が異なります。

金星食が起こる時間

 先にも書きましたように、全国的に金星食が見られます。しかし潜入や出現の時刻は、観察する場所によって異なります。下の表を参考にして、細かい観測計画を立ててください。那覇では後述するように接食となるため、潜入の終了時刻と出現の開始時刻はありません。

観測地 金星の出 潜入 食の最大 出現 薄明開始
開始 終了 継続時間 開始 終了 継続時間
札幌 1:06 2:46:50 2:47:48 0分58秒 3:18:09 3:50:05 3:51:09 1分04秒 2:49
仙台 1:21 2:44:36 2:45:44 1分08秒 3:10:55 3:37:26 3:38:42 1分16秒 3:11
東京 1:31 2:44:30 2:45:49 1分19秒 3:07:06 3:29:19 3:30:45 1分26秒 3:25
新潟 1:29 2:43:38 2:44:44 1分06秒 3:09:57 3:36:27 3:37:40 1分13秒 3:20
名古屋 1:43 2:42:57 2:44:11 1分14秒 3:05:56 3:28:36 3:29:56 1分20秒 3:38
大阪 1:51 2:42:24 2:43:36 1分12秒 3:05:08 3:27:35 3:28:55 1分20秒 3:45
広島 2:03 2:41:14 2:42:21 1分07秒 3:04:39 3:27:54 3:29:07 1分28秒 3:58
福岡 2:13 2:40:48 2:41:55 1分07秒 3:03:45 3:26:34 3:27:46 1分12秒 4:09
那覇 2:39 2:52:41 2:56:28 3:00:20 4:39

潜入

 各地とも潜入は月の南側で起こります。月の明部へ潜入開始となるのは、全国的に概ね2時40分台となっています。名古屋あたりでは、月や金星が昇ってから1時間ほど経っていますが、西に位置する福岡では30分も経っていません。西の地域ほど月の出が遅くなる分、当然月の高度も低くなります。札幌では17度ありますが、東京では14度、福岡では5度しかありません。

 潜入が起こる頃の月の形は、左下側が光る三日月形です。一方の金星はちょうど半月形をしています。金星は面積がありますから、天体望遠鏡をお持ちの方は、月によって少しずつ隠されていくようすを楽しんでください。金星が全部隠れるまでの時間は、札幌で1分、東京で1分20秒、福岡で1分10秒程度となっています。といっても月の表面はデコボコしていますから、多少の違いがあると思われます。

東京で潜入の頃、月の形 東京で金星が潜入するようす
潜入の頃、月は左下側が光っている 月の南側の明部から金星食がスタート

出現

 地域によって多少異なりますが、潜入から概ね1時間が経過した3時半ごろ、金星が月の縁から現れる出現を迎えます。出現は月の暗部で起こります。暗部は肉眼で見えないのかというと、そんなことはありません。暗部に太陽光は当たっていませんが、地球照といって、地球からの反射光を受けてほんのりと淡く光っています。双眼鏡や天体望遠鏡なら、よりハッキリとわかるでしょう。ですから月の縁がどこにあるか、心配する必要はありません。

 出現の場合も潜入と同様、金星が現れるのに時間がかかります。恒星ならパッと星が突然現れて急に光りだすのですが、惑星の場合はジワジワと現れます。少しずつ金星が見えてくる様子を天体望遠鏡で楽しんでいただければと思います。

東京で出現の頃、月の形 東京で金星が出現するようす
出現する頃も引き続き、月の左下側が光っている 月の南側、暗部で金星食が終了

沖縄本島では接食

 この星食では南側の限界線が沖縄を通ります。しかも、金星が外接する限界線が沖縄本島の南端ギリギリ海岸線付近を通り、内接する限界線が本島の北端をかすめるように北東方向に通っています。その関係で、沖縄本島のほぼ全域および慶良間列島では、金星が月縁をかすめて通る接食となります。一方、久米島や与論島では接食とはならず、完全な金星食です。那覇市では2時52分41秒から3時0分20秒の7分39秒の間、金星の一部が月縁に隠されます。

金星の大きさと形

 金星は満ち欠けをする惑星として知られています。また、地球との距離が大きく変化しますから、見かけ上の大きさも大きく変化します。まず金星の形ですが、天体望遠鏡で見た金星は下の絵のように見えます。ちょうど半月のような形をしていますね。しかし残念ながら肉眼はもちろん、双眼鏡でもその形を確認することはできません。

 次に大きさです。当日、金星の直径は24秒ほどです。これを分になおすと0.4分。当日、月の直径は30.2分ありますから、金星は月の75分の1の大きさしかありません。この数字を見ただけでも金星は非常に小さなものであることがおわかりいただけるでしょう。

※ここでいう秒と分は角度の単位。1秒は3600分の1度で、1分は60分の1度。

望遠鏡で見た金星の形
半月状に見える金星

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