パンスターズ彗星 C/2012 K1 (PanSTARRS)

 ジャック彗星に続いてパンスターズ彗星が、2014年9月から10月にかけて、双眼鏡で観測できるくらいまで明るくなると予想されています。尾を観測するのは難しいかもしれませんが、双眼鏡を使えば、ぼんやりと星雲状に見えるのではないでしょうか。早起きして、あなたもぜひ観測してくださいね。

パンスターズ彗星とは

 パンスターズ彗星といえば、春先に最大0等級まで明るくなった2013年のパンスターズ彗星(C/2011 L4 PanSTARRS)を思い出します。しかし、これとは別物です。
 
 2014年の秋に明るくなるのは、2012年5月19日にPan-STARRSの第1望遠鏡で発見されたものです。Pan-STARRSとは、ハワイにあるパンスターズ (Pan-STARRS, Panoramic Survey Telescope And Rapid Response System) という4台の望遠鏡を用いた全天サーベイのことです。発見当初は19.7等という非常に暗いものでしたが、その後太陽や地球へ近づいてくることから、明るくなるのです。

軌道

 下の図は10月20日におけるパンスターズ彗星を含めた太陽系の軌道図です。パンスターズ彗星は8月27日に太陽へ最も近づき、すでに近日点通過を果たした状態です。
 
 現在のパンスターズ彗星は、軌道図上では下方向へ公転しており、地球軌道面よりも南側であることを意味する濃い青色部分に位置します。今後も下側へ移動することから、地球から見ると南の方へ南下していくことがわかります。
 
 軌道図では地球からかなり離れているように見えますが、それでも間もなく地球最接近といったところです。最も近づいた頃でも、距離は0.95AUということで、地球−太陽間ほど離れていることになります。
 
 また、パンスターズ彗星が最も太陽へ近づいたときの距離を示す近日点距離は1.05AUで、こちらもだいぶ離れています。そんなことから彗星としての活発な活動は、あまり期待できないかもしれません。

明るさ

 下のグラフはパンスターズ彗星の光度変化を表した光度曲線です。9月1日は7.1等ですが、その後ジワジワと明るくなります。明るさのピークは10月中旬の後半で、6.7等の明るさです。大ざっぱに言うと、ここまでは概ね7等級といえば間違いないでしょう。しかし、その後は一気に暗くなり、11月下旬になると8等まで落ち込んでしまいます。

移動経路

 それではパンスターズ彗星が星座間をどのように移動していくのか見てみましょう。まず9月上旬は、かに座とうみへび座の境界付近にいます。これまでも南下していましたが、以降は加速しながら一気に南下していきます。
 
 9月上旬にパンスターズ彗星は、うみへび座の頭部をかすめた後10月になると、とも座に入ります。10月20日頃におおいぬ座をかすめるような経路をとり、とも座を大きく横切ります。ちょうどこの頃に地球へ近づくことから、1日あたりの移動量が大きくなります。11月に入ると、がか座に入ります。しかし、赤緯が-50度を超えてきて、日本からは観測しづらくなってしまいます。

9月から10月の経路図

見え方

 パンスターズ彗星に限った話ではありませんが、彗星は恒星と異なり面積を持った天体です。このため全体的にぼんやりしており、光が拡散しています。肉眼で見た場合、天体写真のようにハッキリとは見えません。モヤモヤしたとらえどころのない、丸くてボーツと光る天体を探してください。尾はあまり発達していないと思われますので、期待しない方がよいでしょう。このことは、双眼鏡で見ても天体望遠鏡で見ても、状況は変わりません。

肉眼で見える?

 先に書きましたように、パンスターズ彗星は7等級の明るさです。肉眼で見える最微光星は6等星ですから、どれほど観測条件が整っても、肉眼で見つけることはできません。少なくとも双眼鏡が必要になり、双眼鏡や天体望遠鏡を準備しましょう。双眼鏡があれば、比較的光害の少ない郊外からなら、見つけることができるでしょう。しかし、市街地からだと、観測できない恐れもあります。次に書くように、人工の光が少ない場所へ移動して観測するのが大切です。

いつ、どの方角に見える?

 下の図は東京で日の出から1時間半前に見た場合、パンスターズ彗星がどの方角、高度に見えるかを示したものです。日の出から1時間半前というと、ちょうど空が明るくなり始めるかどうかといったところです。
 
 図を見ると、9月上旬は東、10月上旬は南東、10月下旬は南にあり、左から右へ移動していくことがわかります。また、高度は10月10日前後に最も高くなり、25度くらいに達することもわかります。
 

どんな場所から見るのが良い?

 彗星をどこで観測するか、あらかじめ観測場所を探しておきましょう。観測地選びのポイントは大きく二つあります。
 
 一つ目のポイントは、東から南の方角が地平線近くまで見渡せることです。パンスターズ彗星は夜明け前に、東から南の方角に見えます。しかも低い位置に見えますから、山や建物があると、見えるものも見えなくなってしまいます。
 
 二つ目のポイントは、人工の光が少なくて空が暗いことです。一般に天体観測では、人工の光は大敵です。明るい照明があると、淡くてぼんやりした彗星は、あっけないほど簡単に見えなくなってしまいます。逆に空が暗い場所から見ると、暗くて小さな星でも明るく見え、淡い彗星のような天体もハッキリと確認することができます。空が暗い場所から見ることは、非常に重要なのです。
 
 他にも、安全な場所か、地面は安定しているか、近くにトイレがあるかなどもチェックしておきましょう。

パンスータズ彗星が見える位置

 前置きが長くなりましたが、パンスターズ彗星はいつ、どの方角に見えるのかを紹介します。簡単な見つけ方の解説も加えましたので参考にしてください。

9月10日

 パンスターズ彗星は夜明け前に見えます。下の星図は9月10日の4時ごろ、東京から東の方角の低い位置を見た場合の星図です。ほぼ真東の低い位置で、うみへび座の頭部を形作る特徴的な星の配列を探しましょう。うみへびの頭のすぐ下あたりに双眼鏡を向けると、ボーッと淡い光の塊が見つかります。これがパンスターズ彗星です。
 
 しかし、前日が満月ですから、相当に月明りの影響を受けてしまいす。というのも、月明りによって空全体が、照明に照らされているようなものです。当然、淡い彗星のような天体は見えづらくなってしまいます。
 
 4時というと空は真っ暗なように思いますが、実は東京の場合だと、3時52分から薄明が始まっています。のんびり構えていると、どんどん夜が明けていきますから注意しましょう。
 

9月20日

 今日は9月20日です。パンスターズ彗星の動きは小さく、10日前から大きく移動していることはありません。ただ、10日前よりも少し右の方へ移動しています。また、彗星の高度が少し上がって見やすくなっています。しかし、月齢25.2という三日月程度の月明りがあって、多少観測に影響があります。
 
 この日もうみへび座の頭部からたどるのがわかりやすいですが、別の方法もあります。まず、地平線近くに見える2等星のうみへび座α星(アルファード)を見つけましょう。この星を双眼鏡の視野に入れて10度ちょっと上方へ移動させてください。10倍で視界が5度くらいの双眼鏡なら、視野2個分といったところでしょうか。小さな雲の切れ端のような天体が見つかれば、それがパンスターズ彗星です。
 

9月30日

 引き続き彗星は南の方(星図では右の方)へ少しずつ移動しており、明るい星が少ない領域にきました。こうなると、星をたどって探すのが難しくなりますが、明るさの方はちょっぴり明るくなって、6.8等です。月明りもなくて彗星観望には好都合です。
 
 東京で4時ごろなら、空の中ほどに見えるこいぬ座の1等星プロキオンから、大きく真下方向にあります。プロキオンと地平線の、ちょうど中間あたりでしょうか。10日前に目印に使ったアルファードからなら、これまた大きく右上方向になります。下の星図を頼りに大ざっぱに見当をつけて、だいたいの位置へ双眼鏡を振り向けてください。付近でグルグル視野を移動させると、小さくモヤッとした天体が視野に飛び込んでくるでしょう。これがパンスターズ彗星です。
 

10月10日

 パンスターズ彗星は次第に夜明け前の空で高度を上げてきていましたが、この頃、日の出時刻における高度が最大になります。東京くらいの緯度ですと35度ほどの高さですが、空が暗くて観測が可能な日の出から1時間半前ですと、25度を少し切る程度の高さです。彗星としては申し分ない高度といえるでしょう。
 
 しかしこの日は月齢が15.5ということで、満月を過ぎたばかりの大きな月明りがあります。彗星の見え方に大きく影響するでしょう。また、位置的には、シリウスからもアルファードからも遠い位置にあって、少し探しづらいかもしれません。4時に見える方角は、東から南東に変わってきましたので注意しましょう。
 

10月20日

 このところパンスターズ彗星の動きが大きくなっています。それというのも10月末から11月初旬にかけて、パンスターズ彗星と地球が最接近するからです。明るさもほんの少しだけ明るくなって6.7等です。東の方角には月齢25.5という三日月程度の月明りがありますが、大きな妨げにはなりません。
 
 位置は10日前と比べて大きく移動し、おおいぬ座が作る犬の足元までやってきました。おおいぬ座η星(2.5等)から4.0度と近い位置にありますから、探しやすいでしょう。10倍で視野が5度くらいの双眼鏡なら、η星とパンスターズ彗星を同一視野で見ることができます。まずη星を視野に入れ、下方向やや左側へずらせばよいのです。
 
 見つけやすい位置にきていますし、今後は彗星の高度が下がってきます。η星へ最接近する19日をはさんだ前後数日間を、逃さないようにしましょう。
 

10月30日

 10月下旬に入ってから、パンスターズ彗星の高度が一気に下がってきました。同じ4時で10日前と比べると、19.0度あった高度は7.4度まで下がっています。また、見える方角も真南に変わっています。こうなると、地平線近くに見えるカノープスの上方というのが適切かもしれません。明るさの方も6.8等と暗くなってきて、いろいろな意味で観測終了間近といった感じがします。
 

シミュレーション用データ

 「つるちゃんのプラネタリウム」など、つるちゃんシリーズの各プログラムを使って、パンスターズ彗星のシミュレーションをされる場合は、次のようにデータ登録を行ってください。プログラムは当サイトトップページの[ダウンロードとご購入]より、ダウンロードしてご使用いただけます。
 
 1.プログラムを起動して表示設定画面を表示する。
 2.日時や観測地を適当に入力して[OK]ボタンを押す。
 3.プラネタリウムが表示されたらメニューバーより、[ツール]−[オプション]−[彗星データ設定]を選択。
 4.プラネタリウム用彗星設定画面の左下にある[次へ]ボタンを何度か押す。
 5.空白行へ下の画像のようにデータを入力する。左端のチェックボックスへチェックを入れること。

近日点通過 2014年8月27.65265日
近日点距離 1.0545193AU
離心率 1.0002146
近日点黄経 203.10795度
昇交点黄経 317.73829度
軌道傾角 142.42837度
0AU
標準光度 5.5等
光度係数 8.5

 6.[OK]ボタンを押せば設定完了。

※このページのシミュレーション画像は、「つるちゃんのプラネタリウム シェア版」を使用しています。