5月の星空 南中する春の大三角

 5月になるとすっかり気候も良くなり、天体観測をするにはもってこいのシーズンとなります。五月晴れの言葉に代表されるように、よく晴れ上がった青空が似合う季節です。しかしながら天体観測という面からは、意外と薄雲やもやがかかっている場合があり、必ずしも最高の星空というわけにはいかないかもしれません。良く晴れ上がった日にはチャンスを逃さず、星空ウォッチングを楽しみたいものです。

注)このページの星空の様子は5月15日21時を基準としていますが、下の日時でもほぼ同様の空を見ることができます。また、東京以外でも日本国内であれば、見え方にそれほど違いはありません。

   4月15日23時
   5月 1日22時
   5月15日21時
   5月31日20時
   6月15日19時

西の空

 先月までかろうじて見えていたオリオン座やおうし座などの冬の星座は、地平線の下へ沈んで見えなくなってしまいました。

 冬の星座の中でも最も東側に位置するこいぬ座とふたご座だけが、かろうじて西空低くに見えています。北西の低空で黄色もしくはオレンジ色に光っている0等星はぎょしゃ座のカペラです。カペラは天の北極に比較的近い位置にあるので、冬の星座の中では一番最初に昇ってきて、一番最後の方までいつまでも見えています。

 西の空の中ほどにはかに座が見えますが、この中にある大きな星団、プレセペ星団も今月あたりが見納めとなるでしょう。南の空から西の空にかけては、うみへび座の上半身が高度を下げながら移動してきました。西空の高い位置からは、しし座が一目散に駆け下りてきています。ししの大がまも地平線方向を向いてきました。

5月15日21時 西の空

南の空

 5月も先月に引き続き、大きなうみへび座が南西から南の空にかけて大きく陣取っています。この時期のうみへび座は、空で寝そべったような格好をしています。恐ろしいヒドラもお休みで、くつろいでいるように見えるからなんとも愉快です。

 うみへび座のしっぽ付近にはからす座が南中していますが、実は、このはるか南ではちょうど南十字星が南中しています。地平線を透かしてみた下の絵(茶色の横線が地平線)を見ればおわかりいただけるでしょう。からす座の上方では、0等星、1等星、2等星の3つの明るい星でできた春の大三角も南中しており、春も終盤を迎えつつあります。

5月15日21時 南の空

南中する南十字星

北の空

 北の空では北極星が中心であることに変わりはないのですが、今月はおおぐま座の北斗七星が高度60度以上に達しており、ちょうど一番空高く見える時期となっています。

 反対に、カシオペア座は一番低い位置にきており、地平線スレスレに見えます。下の絵で、東京よりもほんの少しだけ南の地方へ南下すると、一番下側に見えているカシオペア座のα星シェダルは地平線下に隠れてしまいます。その反対に、北の地方へ北上すると、カシオペア座はもう少し余裕を持った周極星となります。

 北北東の空からは、りゅう座が高度を上げて見やすくなってきました。広い面積を持った星座の割には、何かしら忘れられがちな星座ですが、ちょっと気にとめてみてください。丁寧に星をたどってみると、りゅうの姿が浮かび上がり、なかなかよくできた星座であることがわかります。

5月15日21時 北の空

りゅう座

 北東から北の空にかけては、北極星を取り囲むようにしてりゅう座の暗い星ががグネグネと連なって見えています。とりたてて明るい星や目ぼしい天体があるわけでもなくて忘れられがちな星座なのですが、全天で8番目という大きなこの星座を見ておいてあげてください。

 ギリシャ神話では、大神ゼウスと妻のヘラ女神から預かった金のリンゴの木を守っていた竜だと伝えられています。しかしながら、竜がちょっと居眠りをしたスキに、リンゴの木は奪われてしまったのだそうです。ちょっとユニークな竜ですね。

東の空

 東の空からは、夏の星座がそろそろ昇り始めてきました。ます、南東の空からはさそり座が顔をチラリとのぞかせてきました。ギリシャ神話では、さそりに刺し殺されたオリオンは、さそりが東の空から昇ってくる頃になると、西の空へ逃げて沈んでいくのだそうですが、実際にそのとおりになっていて面白いと思います。さそり座の上方には、「く」の字を逆さにしたような形をしたてんびん座も見えます。また、北東の空からはベガのあること座も姿を見せてきました。

 へび座の頭の部分やヘルクレス座は高度が30度付近まで昇ってきており、少し見やすくなってきました。先月登場したかんむり座などは見上げるような姿勢をとらないと見えない位置まで昇っています。

 さらに上方を見上げると、春の星座のうしかい座が大きな「のし」のような形をして横たわっていてます。

5月15日21時 東の空

てんびん座

 黄道12星座のひとつとして有名な星座ですが、てんびんの形を想像するのはちょっと難しいかもしれません。ひらがなの「く」の字を逆向きにした3つの星の並びしかわかりません。昔の星座絵では、さそり座のつめの部分として描かれていたそうで、こちらの方が自然なような気がします。このことは、α星のズベン・エルゲニブは南の爪、β星のズベン・エルシェマリは北の爪という意味であることからもわかります。

 ギリシャ神話では、正義の女神アストレアが、人間の罪をはかるために手にしていた天秤だといわれています。

へび座

 へび座はへびつかい座によって頭部と尾部の2つに分断されています。ですからへび座は1日のうちに2度南中することになりますが、こんな変わった星座は他にはありません。分断されたうち、頭部の方から先に上ってきます。同じ時間に尾の部分を見ようと思うと、もう1、2ヶ月ほど待たねばなりません。

 へび座には大きくて見やすい球状星団M5があります。双眼鏡でも丸い星雲状に見えますが、天体望遠鏡をのぞく機会があれば、見逃さないようにしてください。ヘルクレス座のM13と見比べて見るのも楽しいでしょう。

 ギリシャ神話では、へびつかい座の医神アスクレピオスが手にしていた蛇だとされています。

ヘルクレス座

 12の困難な仕事を成し遂げたギリシャ神話の英雄として、ヘルクレス座はあまりにも有名です。そんなヘルクレスも星座として見ると、少し貧弱な感じがします。空が暗い場所でないと、その存在を確認することすら危ぶまれます。Hの字を少し拡げたような形を目印にしてください。へびつかい座のラス・アルハゲの隣で光る3等星がα星のラス・アルゲティで、こちらがヘルクレスの頭になります。

 ヘルクレス座には北天で最大の球状星団M13があります。小さな星々が球状にびっしりと集まって群れている様には感動せずにはおられません。ぜひとも天体望遠鏡でのぞいてみたい天体のひとつです。

 ギリシャ神話では、大神ゼウスがアルクメーネ(ペルセウスとアンドロメダの間にできた娘)に産ませた男の子がヘルクレスです。ヘルクレスは12の困難な仕事を成し遂げた英雄で、まだ幼少の頃、ヘラ女神の放った毒蛇をにぎり潰してヘラを驚かせたり、かに座のお化けがにを踏み潰してしまったり、しし座の人食いライオンを退治したり、うみへび座のヒドラを退治したりと、とにかくあちらこちらで英雄伝説を打ち立てました。

天頂の空

 天頂方向は先月に引き続いて春の星座がいっぱいです。先月はしし座が天高くに上り詰めていましたが、今月は少し高度を下げてきました。かわって今月はかみのけ座が天頂付近にやってきます。かみのけ座はそれ自体が大きな星団として登録されており、4等星以下の小さな星がごちゃごちゃと群れています。かみのけ座からおとめ座付近にかけては宇宙ののぞき窓と呼ばれるように、たくさんの暗い銀河を見ることができます。高度が高くなるこの時期がねらい目といえるでしょう。ぜひとも大きな天体望遠鏡で付近をのぞいてみたいところです。

 北の空からはりょうけん座も天高くに昇ってきました。主星のコル・カロリ以外はいずれも暗い星なので形はよくわかりません。しかし、コル・カロリを含めた春のダイヤモンドはこの時期が一番天高くに見えるので、最も豪華なダイヤモンドの輝きを見せてくれます。

5月15日21時 天頂の空

<恒星の凡例> <星雲・星団の凡例>
大きさにより1等星から6等星までを分類しています。 銀河、散開星団、球状星団、散光星雲、惑星状星雲、超新星残骸などを分類しています。