夜空も春の足音 2003年3月
3月は冬と春が同居する季節。春の足音は聞こえるのですが、まだ遠くて小さな足音です。それでも日を追うごとに、少しずつですが大きくなってくるような気がします。夜空の方も同じで、3月は冬の星座と春の星座の入れ替えの季節。まだまだ気温も低くて寒いのですが、少しだけ春の気配を空の方から感じてみることにしましょう。
注)このページの星空の様子は3月15日21時を基準としていますが、下の日時でもほぼ同様の空を見ることができます(月や惑星は除く)。また、明石以外でも日本国内であれば、見え方にさほど違いはありません。
2月15日23時
3月 1日22時
3月15日21時
4月 1日20時
4月15日19時
3月15日21時 全天のようす
大雑把に言えば3月の空は西半分(右半分)が冬の星座、東半分(左半分)が春の星座となっています。冬の大三角は先月にはほぼ真南に見えていたのが、今月になると南西の方(右側)へと移動しました。その一方で、まだまだ高度は低いのですが、春の大三角がちょうど東の空から昇ってきたところです。
北の空に目を移しますと、先月はまだ北東の空から昇ってきたところだった北斗七星は、今月になるとグッと高度を上げてきており、空の中ほどでひと目につきやすくなってきました。
それでは西半分の冬の星座から見てみましょう。
3月15日21時 西の空のようす
まず北西の空に目をやると、秋の星座のラストバッターであるカシオペア座やペルセウス座が高度を落としながらも、まだ見えていますが、それを除けばほとんど西の空は冬の星座でいっぱいだと言ってもよいでしょう。
真西の方角には高度を下げてきているおうし座が見えます。おうし座のアルデバランのすぐ隣にあり、おうしの顔の部分を形作るのはヒアデス星団ですが、ちょうど今頃にはきれいなV字型に見えていて印象的です。ヒアデス星団のV字型の上方には土星が0等星で光っています。土星の左側には冬の王者オリオン座も見えていますが、こちらも南西の空へと傾いてきました。オリオン座の足元にあるうさぎ座などは、西の地平線目指して一目散に駆けているように見えて、とても愉快です。
南西の空低くには、1月末に近日点を通過した工藤・藤川彗星が表示されていますが、1日:6.7等→15日:7.8等→31日:8.8等と、どんどんと明るさが落ちていますので、彗星を見るためには少なくとも双眼鏡が必要となります。
次は視線を真上に上げて天頂方向を見てみましょう。
3月15日21時 天頂の空のようす
天頂方向でも西側(右側)半分には冬の星座が輝いています。先月に高度70度から80度付近という天頂近くに見えていたのは五角形をしたぎょしゃ座ですが、今月にはさすがに高度が少し下がってきて見やすくなってきました。冬の星座のラストバッターのふたご座はまだ高度が高くて、見るには体勢が苦しい位置にあります。
一方、東側(左側)には春の星座のトップバッターとなるかに座が天高くに上り詰めてきました。かに座は暗い星が多くてとらえどころがないのですが、今は明るい木星がいるので、その位置だけはすぐにわかると思います。木星の近くにはプレセペ星団と呼ばれる大きな星団があります。空の状態が良ければ、肉眼でもボーッと光るその姿を確認できるのですが、双眼鏡があればその美しい姿を満喫できます。さらに、3月から5月にかけては、木星とプレセペ星団が接近していますので、両者を同時に双眼鏡で眺めて見るのも一興でしょう。
最後に東の空をのぞいてみましょう。春の星座が昇ってきていますよ。
3月15日21時 東の空のようす
東の空からは、春の星座がどんどんと昇ってきているところです。南東の方角からはうみへび座が昇ってきていますが、大きな星座であるため、頭の先の部分は12月から顔を出し始めているのに、しっぽの部分は今月になってもまだ昇りきっていません。しし座は天高くを駆け上っているところです。東の空低くからはうしかい座やおとめ座といった、春を代表する星座もそろそろ顔を見せ始めました。
りょうけん座
りょうけん座は北斗七星の近くにあるマイナーな星座です。しかし主星のコル・カロリーだけは3等星のくせに、辺りに明るい星がほとんどないため以外と目立っています。コル・カロリーとはチャールズ王の心臓という意味だそうです。春の大三角(来月に登場予定)にコル・カロリーを加えると、春のダイヤモンドとなりますので覚えておいてください。
りょうけん座には天体写真でおなじみの子持ち星雲(M51)があります。天体望遠鏡で見る機会がれば、ぜひ一度見ておきたい天体のひとつです。
星座絵では、2匹の犬が大熊を追い立てている姿が描かれていますが、ギリシャ神話は伝えられていません。
かみのけ座
しし座のしっぽと、りょうけん座のコル・カロリーの中間付近には、何やら小さな星がゴチャゴチャと集まって見えますが、この付近がかみのけ座になります。かみのけ座からおとめ座にかけてはたくさんの小さな銀河が集まって見えます。大きな天体望遠鏡をのぞく機会があれば、その密集ぶりをこの目で確認したいものです。
「かみのけ座とは変わった星座があるものだ」と思われるかもしれません。星図を見るとかみのけ座は Coma
Berenices(ベレニケの髪) と書かれています。これは夫(エジプト国王、エウエルゲテス)が戦場から無事戻ってこられたことに感謝して、妻である王妃ベレニケが自分の髪を切り落とし、女神アフロディアにささげたものが天に上げられたという、美しい神話が伝えられています。
うしかい座
まだまだ高度は低いのですが、東北東の空を見ると、まわりの星と比べてひときわ明るく輝くだいだい色の星が見えますが、これは1等星(正確には1等星よりも明るい0等星)のアークトゥルスです。日本では麦刈りをする頃の宵の空に、頭の真上に輝くことから「麦星」と呼ばれています。うしかい座は地平線に寝そべった形で昇ってきますが、空が暗くないとその形はわかりにくいかもしれません。アークトゥルスとその北側(上の絵では左側)にできた大きな「のし」のような形をした5角形が、うしかい座の中心部分になります。この時期はまだ高度が低いので、来月の4月以降か、もう少し遅い時間帯に見る方が良いかもしれません。
うしかい座には、はっきりとしたギリシャ神話は伝えられていません。