3月は冬と春が同居する季節。春の足音は聞こえるのですが、まだ遠くて小さな足音です。それでも日を追うごとに、少しずつですが大きくなってくるような気がします。夜空の方も同じで、3月は冬の星座と春の星座の入れ替えの季節です。まだまだ気温も低くて寒いのですが、少しだけ春の気配を空の方から感じてみることにしましょう。
注)このページの星空の様子は3月15日21時を基準としていますが、下の日時でもほぼ同様の空を見ることができます。また、東京以外でも日本国内であれば、見え方にそれほど違いはありません。
2月15日23時
3月 1日22時
3月15日21時
3月31日20時
4月15日19時
まず北西の空に目をやると、秋の星座のラストバッターであるカシオペア座やペルセウス座が高度を落としながらも、まだ見えています。しかし、それを除けばほとんど西の空は冬の星座でいっぱいだと言ってもよいでしょう。
真西の方角には高度を下げてきているおうし座が見えます。おうし座のアルデバランのすぐ隣にあり、おうしの顔の部分を形作るのはヒアデス星団ですが、ちょうど今頃にはきれいなV字型に見えていて印象的です。冬の王者オリオン座も見えますが、美しい鼓型も南西の空へと傾いてきました。オリオン座の下側には大きなエリダヌス座があるのですが、その大半は地平線の下へ沈んでしまいました。
先月は天頂付近に見えたふたご座ですが、今月には少し西へ移動してきました。しかし、それでもまだまだ天高くに見えるので、ググッと首を上に向けないと見えません。西空の高い位置で横方向へ明るい星が2つ仲良く並んでいるのが見つかれば、それはふたご座のカストルとポルックスです。
3月の南の空は、右半分が冬の星座で左半分が春の星座で、きれいにふたつに分かれます。
まず西側の右半分ですが、先月2月頃には冬の大三角が南中していたのですが、今月になるとだいぶ西の方へと移動しています。それでもまだ高度が十分に高い位置にあるので、まだまだ華麗な冬の大三角を楽しむことができます。
一方の左半分ですが、高い位置で南中しているのはかに座です。かに座は明るい星がなくて形がつかみにくい星座のひとつです。南から南東にかけては大きなうみへび座が斜めを向いて勢いよく昇ってきているのが目につきます。ギリシャ神話ではヒドラです。ヒドラの心臓部に位置する2等星はアルファードですが、付近には明るい星がないため、かなり目立っていますので、これを目印にするとよいでしょう。
3月になると、北の空では北東方向から北斗七星がグッと高度を上げてきて、すっかりと人目につくようになりました。北極星をはさんで反対側にあるカシオペア座は、北西の空で北斗七星とは逆に、だんだんと高度が下がってきました。こぐま座の小さなひしゃくは横を向いているので、今は水がこぼれ落ちない状態です。
東の空からは、春の星座がどんどんと昇ってきているところです。南東の方角からはうみへび座が昇ってきていますが、大きな星座であるため、頭の先の部分は12月から顔を出し始めているのに、しっぽの部分は3月になってもまだ昇りきっていません。しし座は勢いよく天高くを駆け上っているところです。
北斗七星の右側にはりょうけん座という星座がありますが、主星のコル・カロリ以外はこれといって目だった星はありません。また、コル・カロリとしし座のしっぽの中間付近には、小さな星が集まったかみのけ座も見えます。
東の空低くからはうしかい座やおとめ座といった、春を代表する星座もそろそろ顔を見せ始めました。
りょうけん座
北斗七星の近くにあるマイナーな星座がりょうけん座です。しかし主星のコル・カロリだけは3等星のくせに、辺りに明るい星がほとんどないため以外と目立っています。コル・カロリとはチャールズ王の心臓という意味だそうです。春の大三角にコル・カロリを加えると、春のダイヤモンドとなりますので覚えておいてください。
りょうけん座には天体写真でおなじみの子持ち星雲(M51)があります。天体望遠鏡で見る機会がれば、ぜひ一度見ておきたい天体のひとつです。
星座絵では、2匹の犬が大熊を追い立てている姿が描かれていますが、ギリシャ神話は伝えられていません。
かみのけ座
しし座のしっぽにあるデネボラと、りょうけん座のコル・カロリの中間付近には、何やら小さな星がゴチャゴチャと集まって見えますが、この付近がかみのけ座になります。かみのけ座からおとめ座にかけてはたくさんの小さな銀河が集まっています。大きな天体望遠鏡をのぞく機会があれば、その密集ぶりをこの目で確認しておきたいところです。
「かみのけ座とは変わった星座があるものだ」と思われるかもしれません。星図を見るとかみのけ座は Coma Berenices(ベレニケの髪) と書かれています。これは夫(エジプト国王、エウエルゲテス)が戦場から無事戻ってこられたことに感謝して、妻である王妃ベレニケが自分の髪を切り落とし、女神アフロディアにささげたものが天に上げられたという、美しい神話が伝えられています。
うしかい座
まだまだ高度は低いのですが、東北東の空を見ると、まわりの星と比べてひときわ明るく輝くだいだい色の星が見えますが、これは1等星(正確には1等星よりも明るい0等星)のアークトゥルスです。日本では麦刈りをする頃の宵の空に、頭の真上に輝くことから「麦星」と呼ばれています。うしかい座は地平線に寝そべった形で昇ってきますが、空が暗くないとその形はわかりにくいかもしれません。アークトゥルスとその北側(上の絵では左側)にできた大きな「のし」のような形をした五角形が、うしかい座の中心部分になります。この時期はまだ高度が低いので、来月の4月以降か、もしくはもう少し遅い時間帯に見る方が良いかもしれません。
うしかい座には、はっきりとしたギリシャ神話は伝えられていません。
天頂方向でも西側(右側)半分には冬の星座が輝いています。先月に高度70度から80度付近という天頂近くに見えていたのは五角形をしたぎょしゃ座ですが、今月にはさすがに高度が少し下がってきて見やすくなりました。冬の星座のラストバッターのふたご座はまだ高度が高くて、見るには体勢が苦しい位置にあります。
一方、東側(左側)には春の星座のトップバッターとなるかに座が天高くに上り詰めてきました。かに座は暗い星が多くてとらえどころがないのですが、かに座にはプレセペ星団と呼ばれる大きな星団があります。空の状態が良ければ、肉眼でもボーッと光る姿を確認できるのですが、双眼鏡があればその美しい姿を満喫できます。ぜひ一度ご覧になってみてください。
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