中接近する火星を見よう 2016年5月から6月

 2016年5月31日に火星が地球へ最接近します。今回は中接近で 2005年10月以来、11年ぶりに地球へ近づく接近となります。この機会にぜひ、あなたも火星観測に挑戦してください。

火星接近はなぜ起こる


 ご存知のように、地球は1年かけて太陽のまわりを回っています。火星も同じように太陽のまわりを回っていますが、地球よりも 1.52倍大きな軌道です。その分だけ太陽の重力が弱まって公転する速度が遅くなりますし、大きな軌道を描く分だけ1周する移動距離も長くなります。そんなこともあって、火星が太陽のまわりを回るのに1.88年かかります。

 地球の方が火星よりも早い周期で太陽のまわりを回るため、地球は火星に追いついて追い越すことを繰り返しています。地球が火星に追いついた時に火星接近となることはおわかりいただけますね。平均すると、およそ 2年2ヶ月の周期で火星接近が起こっています。

火星中接近とは

 地球は太陽を中心とした円に近い軌道を回っていますが、火星は中心のずれた、少しひしゃげた楕円軌道を回っています。ひしゃげた度合を表す離心率は、地球が0.01670であるのに対して火星は0.09342と、やや大きくなっています。下の軌道図をみても火星の軌道はゆるい楕円を描いており、中心が太陽からずれていることがわかります。

 地球と火星の接近は、火星がどの位置で接近するかによって 5600万Kmから 1億Kmまで、距離が大きく異なります。例えば軌道図で、Aの位置で接近を迎えた時は、地球と火星の距離は最短となり、大接近となります。逆にBの位置で接近を迎えると、地球と火星の距離は開いており、小接近となります。

 今回の接近は「地球」「火星」と書かれた位置で接近しますので、まずまずの条件となる中接近であることがわかります。

最接近した地球と火星の位置関係

距離

 火星が最も接近したときの距離は毎回違っていますが、2016年5月31日の場合は0.50321AUで、キロに換算すると 7528万Km。AUは太陽系内での距離を表す時によく使われる単位で、1AUは地球−太陽間の距離に相当します。ずいぶん遠いように思いますが、火星としてはかなり地球に近づいていますから、この機会に観測しない手はありません。

見え方

 火星が地球へ最も近づいたときの明るさは -2.0等に達し、明るい1等星と比べて3ランクも明るく、1等星の16倍の明るさです。火星は肉眼で見ても独特の赤い色をしていることから、戦いの星(MARS)とされています。火星は不気味なくらいにまっ赤に輝く星ですから、一目見ただけですぐにそれとわかるでしょう。

見える位置

 地球最接近となる5月31日の21時ごろ、南南東の空を見てみましょう。低い位置に異様に赤く光る明るい星がすぐに見つかります。これが火星です。

 下の星図は、5月15日22時、6月15日20時ごろでも同じような夜空を見ることができますが、火星の位置が多少異なります。火星が見える位置(2016年5月1日から6月30日)を別ページで解説しましたので、そちらも参考にしてください。

東京で5月31日22時ごろ 南東から南の空に見える火星

赤いアンタレスとの共演

 さそり座にはアンタレスという 1等星があります。アンタレスの意味は「火星に対抗するもの」ですが、それというのもアンタレスは赤い星で、火星と競い合っているように思えるからです。アンタレスは 0.88等 から 1.16等まで変化する変光星ですから、明るさでは-2.0等の火星が圧勝です。しかし赤さの方は、少しだけアンタレスの方が赤いそうですよ。先の星図では火星の左下にアンタレスがありますから、ぜひ見比べてください。

火星の動き

 火星は惑星ですから、恒星に対して日々動いています。一気に大きく動くわけではありませんが、何日か間隔を開けて見比べると、確かに動いていることがわかります。下に、さそり座からてんびん座にかけて、火星の動きを拡大した星図を載せておきました。あなたも火星の動きを観測して、火星が惑星であることを実感してください。

 ところで星図を見ると、2月から3月にかけては右から左に動いています(順行という)。しかし、4月になるといったん左から右に動く向きを変えて、6月までは逆方向に動いています(逆行という)。そして7月になると、再び右から左へ向きを変えて、順行に戻ります。このように火星がいったん逆戻りする動きをみせるのは、地球が火星を追い越すときに見られる一時的な現象です。自分の車が隣の車を追い越す時に、隣の車が後ろに動いているように見えるのと似ています。

恒星に対する火星の動き(拡大図)

季節と南極冠

 地球の自転軸は公転軌道面に対して23.4度傾いています。これによって太陽の南中高度が変動し、日本などの中緯度では季節が生まれます。火星も同じように、自転軸が公転軌道面に対して25.2度傾いています。したがって、火星にも季節が存在します。

 火星が地球に最も近づく頃は 9月初旬に相当し、南半球では冬が終わるころです。氷やドライアイスでできた南極冠が大きくなっており、天体望遠鏡を使うと白く光る南極冠を観測できるでしょう。ただし、この頃は南半球で白い雲が出やすく、区別がつきにくいかもしれません。

表面模様

 火星には淡い表面模様があり、天体望遠鏡を使うと観測することができます。表面模様がよく見える側と見えない側がありますから、観測するタイミングが重要になります。火星の表面模様(2016年5月から6月)で紹介していますので参考にしてください。

次回は15年ぶりの火星大接近

 下の表は、最近の火星接近時における地球との距離を表したものです。これを見ると 2012年がターニングポイントで、最近は毎回接近の距離が縮まっています。今回は中接近でしたが、次回の2018年はいよいよ火星大接近! 2年後も楽しみですね。
接近日 距離(AU)
2001年06月22日 0.45017
2003年08月27日 0.37272
2005年10月30日 0.46406
2007年12月19日 0.58935
2010年01月28日 0.66398
2012年03月06日 0.67368
2014年04月14日 0.61756
2016年05月31日 0.50321
2018年07月31日 0.38496
2020年10月06日 0.41492
2022年12月01日 0.54447
2025年01月12日 0.64228
2027年02月20日 0.67792
2029年03月29日 0.64722
2031年05月12日 0.55336
2033年07月05日 0.42302
2035年09月11日 0.38041
2037年11月11日 0.49358

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※前回の火星接近

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※5万7千年ぶりだった超がつく大接近
外部リンク集
  火星が地球に最接近 国立天文台
  2016年の火星接近をみんなで楽しもう! 日本火星協会