アンタレス

 アンタレスは夏の宵の南天で、天の川が一番太くなっている辺りの西岸にあります。アンタレスは赤く光る1等星ですから、一目ですぐそれとわかります。アンタレスは美しいS字型のカーブを描いたさそり座の中にあり、ちょうどサソリの心臓部に位置する星です。

星名 学名 星座 バイヤー符号 フラムスティード番号 赤経 赤緯 実視等級 絶対等級 距離 スペクトル型
アンタレス Antares さそり座 α星 21番 16h29m24s −26゜25’55” 1.09等 −5.06等 553光年 M1

アンタレスの位置を示した星図

さそりの心臓

 アンタレスはさそり座が作るサソリの心臓部に位置します。中国では青龍の心臓にたとえて心宿(しんしゅく)とよばれますし、ラテン名ではコル・スコルピオ。ずばり、サソリの心臓です。

赤い色からくる名前

 アンタレスは赤い色をした1等星で、周囲の中でも目だった星です。それだけにいろいろな名前がつけられています。赤星(あかぼし)はその名の通りですが、お酒に酔っ払った人の赤い顔にたとえた酒酔い星というユーモア溢れるよび方もあります。良く似た呼び名として、酒買い星というのもあります。
 中国では大火(たいか)といって、アンタレスを火にたとえています。日本でも天明時代(江戸時代)の書物に大火と記されています。

かごかつぎ星

 アンタレスと左右にある二つの3等星(τ星とσ星)は、「へ」の字のような形に並んでいます。中央のアンタレスを農夫や商人とし、左右の2星を籠(かご)や天秤に見立て、各地で、かごかつぎ星、あきんど星、天びん棒星などと言われています。また地方ごと、籠の中身によって、さば売り星、塩売り星、栗いない(荷い)、稲いないなどとも呼ばれます。このようにアンタレスを含めた3つの星は各地でいろいろな名前で呼ばれ、注目されてきたことがわかります。

火星とアンタレス

 アンタレスは天の黄道近くにある星です。ですから近くを惑星が通過する場合があります。特に火星がそばを通る時には興味深いものがあります。アンタレスが赤い星として代表的な1等星なら火星も燃えるように赤く光る惑星。なにか、両者が赤さを競い合っているようにすら思えてきます。
 
 そもそもアンタレスはギリシャ語ではアンチ・アレース。つまり、火星に対抗するものという意味です。地球に大接近した頃の火星は−3等近くまで明るくなるので、明るさの点では火星にはかないません。しかし赤さという点では、火星よりもアンタレスの方が少しだけ赤いそうです。

赤色超巨星

 アンタレスがどうしてそんなに赤い色をしているのかというと、それはもちろん表面温度が低いためです。アンタレスの表面温度は3800度ほどしかありません。また、アンタレスは553光年も離れているのに、明るい1等星として輝いて見えます。仮に太陽をアンタレスの距離まで遠ざけたとすると、10等星にも満たない哀れな姿になってしまいます。
 
 アンタレスは恒星の一生の最終段階を迎えた赤色巨星です。その直径は太陽の700倍にも達します。これを太陽系に置き換えると、火星をすっぽり飲み込んでしまうほどの大きさですから大変なものです。
 
 不思議なことに、アンタレスの表面付近の密度は地球の空気の1万分の1くらいしかないそうです。いってみれば、ほとんど真空状態。これが太陽の8千倍から1万倍もの明るさで輝いているのですから本当に不思議です。タネあかしをすると、アンタレスの中心部付近では極めて超高密度で超高温に達していることから、これほどのエネルギーを放つことができるのです。

変光星

 多くの赤色巨星では星自体が不安定になって、変光を繰り返す脈動変光星となります。アンタレスの場合はそれほど大きな変光はしませんが、それでも4.8年ほどの周期で、0.88等星から1.16等星まで明るさを変える変光星です。しかし変光範囲が小さいため、肉眼で気づくのは難しいでしょう。

2重星

 アンタレスは連星の2重星です。伴星は1819年に起こったアンタレス食の際に発見されました。アンタレスから2.9秒(1秒=3600分の1度)離れたところに、5.5等星の緑色の伴星があります。この伴星は878年の周期で主星の周りを公転していると考えられています。両者の光度差が大きいので、分離するのは案外と難しいようです。大気の安定した夜に、口径150mmくらいの天体望遠鏡で高倍率をかけて、2つの星に分離できるか挑戦してみましょう。

アンタレス食

 アンタレスは天の黄道近くに位置する1等星です。ですから時おり月がこの星の上を通り過ぎていき、アンタレス食とよばれています。月によって食を起こす1等星の中では最も南に位置しています。アンタレスは普通の星と比べて視直径が大きいため、月に隠されるのに10分の1秒ほどかかるようです。

 かつて陰陽道では、アンタレス食は天草の乱と結び付けられるなど、兵乱の兆しと考えられていました。

 それからごく稀にですが、惑星によって隠されることがあります。次回は金星によるアンタレス食が、2400年11月17日に起こるそうです。