6月1日0時、7月1日22時、8月1日20時
さそり座の見え方 |
さそり座付近の星図 |
夏の夜空といえば夏の大三角とともに、さそり座を思い描く人も多いでしょう。それというのも、斜めに倒したような格好で描かれたさそり座のS字カーブは非常に美しく、とても均整が取れているからです。3等星よりも明るい星が12個もあって、形をつかみやすいというのも人気がある秘密です。
さそりのハサミや胴体、シッポはもちろん、毒針まで絶妙に描かれています。さらに、心臓部分には赤い1等星のアンタレスまであって、一度見たら印象に残ること間違いなし。これほど人の胸を打つ星座は、全天88ある星座の中でも指折りと言えるでしょう。
さそり座が描くS字カーブは、空に引っかかった大きな釣り針のようにも見えます。このため「さそりの釣り針」とよばれることがあります。また、魚つり星、たいつり星など、地方によっていろいろな呼び方をされているようです。
さそり座はギリシャ神話で活躍する勇者オリオンを刺し殺した大きなさそりだとされています。ある時オリオンは「オレ様ほど強い者がこの世にいるものか。」と豪語しました。これを聞いた大神ゼウスの妻ヘラは大いに怒り、オリオンのもとへ毒を持ったさそりを放ったのです。
オリオンはさそりに足を刺されたからたまりません。さすがのオリオンも、あっという間に全身に毒が回って死んでしまいました。この功績によって、さそりはヘラによって天に上げられたのだそうです。
さそり座はその美しい形がゆえに、古くから存在する星座です。紀元前3000年頃のシュメール時代からありましたし、もちろんトレミーの48星座に含まれます。
アンタレスは赤色の1等星で、さそりの心臓部に位置しています。アンタレスは天の黄道付近に位置するため、近くを惑星がよく通過しますが、このうち火星が通過する時の両者の競演は見事です。そもそも、アンタレスとはアンチ・アーレス、つまり「火星に対抗するもの」という意味です。しかし、地球へ最接近した頃の火星はマイナス2等級以上にもなりますから、明るさではとても火星にかないません。しかし色の赤さという点では、アンタレスの方が少しだけ勝っているようで、引き分けといったところでしょうか。
アンタレスが赤いのは表面温度が低いためです。その温度は約3000度しかなく、太陽の6000度と比べるとだいぶ低めです。しかもその直径は太陽の230倍もあるのですからとんでもない大きさの星です。このためアンタレスは赤色超巨星に分類されます。
さそり座のβ星はアクラブ(Acrab)の名前がつけられた2.6等星です。これはアラビア語でアル・アクラブからきており、さそり座を意味しています。
さそり座の頭部にある真ん中の星δ星は以前に話題となった星です。上下のβ星、π星とだいたい同じ明るさだったはずのδ星が2000年7月頃から急に増光を始めたのです。その後1.8等星くらいまで増光した後、もとの明るさに戻りました。しかしその後再び増光を始めたのです。どうやら75日くらいの周期で変光する変光星になってしまったようです。突然奇妙なことが起こるものですね。
ところでδ星はジュバとよばれていますが、これはアラビア語で額を意味するジャブハに由来しています。つまり、さそりの額というわけです。
さそり座のしっぽ付近には、2等星のλ星と3等星のυ星が並んでいます。中国地方の各県ではこの2星を兄弟星として、おとどい星、おとでえ星とよんでいます。言い伝えでは、鬼に食べられそうになった兄弟が天道様に頼んで釣り針のついた鎖を垂らしてもらい、天へ上げてもらったのだそうです。山口県周防大島では、仲の悪い兄弟が天に昇っておとどい星となったため、互いに石を投げ合ってまばたきをするため、2つの星がチカチカと瞬いて見えるのだそうです。
M6 | M7 |
さそり座が作るS字カーブの上端には、3等星のβ星と4等星のω星が隣接しています。これが交互にチカチカと光り、相撲を取っているように見えることから、すもうとり星(相撲取り星)とよんでいます。ある地方では、ふんどしを奪い合う姿に見立て、ふんどしばい星と呼ぶそうです。
また、さそり座μ星は3.0等星と3.6等星の二つの星がくっついています。目のいい人なら二つの星に分解でき、チラチラと交互に瞬いて見えることから、こちらの2星を、すもうとり星(相撲取り星)とよぶこともあります。こちらは少々目が悪い人でも、双眼鏡を使うとハッキリと二つの星に分離して見ることができます。
さそりの毒針の少し北側付近にはM6とM7という、肉眼でも見える大型の散開星団があります。双眼鏡で見てみると、天の川をバックに星がいっぱいに見えてその美しさを満喫できます。
M4の写真 |
HSTによるM4 (新しく見つかった多くの白色矮星) |
アンタレスの西側には球状星団のM4がありますが、これは双眼鏡でも楽に見えます。球状星団としてはまばらな方なので、天体望遠鏡で少し倍率を上げると周辺の星が分離して見えます。他の球状星団と違って、色が赤っぽい点にも注目してください。