2021年の5月26日の夕方から皆既月食があります。これは、2018年7月28日の明け方に皆既月食が見られて以来、3年ぶりです。
今回の皆既月食は、大きな特徴が三つあります。一つ目はスーパームーンです。この日は年間を通して月が地球に最も近づいており、普段よりも大きく見えるのです。二つ目は月が地球本影の端ギリギリを通過します。このため皆既が20分も続きません。三つ目は夕方以降に見られることです。多くの方が見やすい時間帯ですから、大人から子供まで、みんなで皆既月食をご覧になってください。
今回の月食がいつ見られるかを時刻表にまとめました。月食の場合は日食と異なり、世界中どの場所から見ても進行状況が同じになります。
地球本影による部分食の始まりは5月26日の18時45分、最大食は20時19分、部分食の終わりは21時53分です。また、皆既食の始まりは20時9分、終わりは20時28分です。皆既継続時間は18.6分しかなく、非常に短くなっています。
半影食の始まり 5月26日 17時46.2分 部分食の始まり 18時44.6分 皆既食の始まり 20時09.4分 食の最大 20時18.7分 皆既食の終わり 20時28.0分 部分食の終わり 21時52.8分 半影食の終わり 22時51.2分 最大食分 1.015
皆既月食のしくみ
太陽と地球と月が一直線に並び、月が地球の影に入ると月食が見られます。ですから月食は必ず満月のときに起こります。
地球の影は本影と半影の2種類あります。このうち本影は太陽の光が届かない領域で、ここへ月がスッポリ入り込むと、皆既月食が見られます。
月が赤く見える理由
皆既月食中の月は赤く見えます。太陽光が地球の大気を通過するとき、青い光は散乱されやすいため通過することができません。一方、赤い光は散乱されにくいため、屈折しながら大気を通過し、影の奥にまで到達します。このため、皆既月食の月は赤く見えるのです。皆既月食中の月が赤くなる理由もご覧ください。
皆既月食はそれ自体がビッグな天文現象ですが、今回はさらにスーパームーンです。つまり、スーパームーンの皆既月食が見られるのです!
スーパームーンとは
月は地球の周りを回っていますが、およそ35万7千km から 40万6千km の間で距離が変化します。また、29日と12時間44分の周期で満ち欠けを繰り返します。
満月になるタイミングと地球へ近づくタイミングがちょうど重なると、スーパームーンになります。地球に最も近い位置にありますので、それだけ月が大きく見えます。最も小さくなった時と比べると、およそ14%も大きく見えるのです。
当サイトの定義
スーパームーンは占いの用語で、天文用語ではありません。このため、何をもってスーパームーンと呼ぶのか、定義がハッキリしません。当サイトでは次の二つの条件を満たした満月を、スーパームーンと定義することにしました。(つるちゃんは、このように考えたということです。)
・地球との平均距離に比べて7%以上近い位置に月があること。
・地球との最接近時刻から前後12時間以内に満月を迎えること。
どれくらい珍しい?
前回スーパームーンの日に東京で皆既月食が見られたのは、1997年9月17日で24年ぶりとなります。また、次回見られるのは12年後の2033年10月8日です。珍しい現象ですので、今回は非常にラッキーと言えるでしょう!
ソフトで調べられる
Windows用の自作天文ソフトつるちゃんのプラネタリウム、つるちゃんの天文カレンダーの最新版では、スーパームーンが表示されるようになりました。この機会にぜひご利用ください。
月食は概ね南東の低い位置で見られます。
東京、札幌、大阪、福岡、那覇の場合
下の絵は5地点から見た場合に、月が見える位置の変化を表したものです。東京の場合だと、開始の頃は東南東の地平線上ギリギリにあります。皆既月食となる最大食の頃は、南東方向で高度15度くらい。終了の頃でも27度と、30度に達しません。
全体的に、札幌など北の地域ほど高度が高くならないことや、西の地域ほど食が進んだ状態で月が昇ることもわかります。観測される際の参考にしてください。
東京で見える位置 ※星座は最大食時
札幌
大阪
福岡
那覇
各地の高度
各地で見られる月の高度を表にまとめました。これを見ると始まりの頃は、地平線下にあるか地平線上ギリギリです。終わりの頃でも高度は20度台にとどまります。総じて言うと「南東の低い位置に見える」と言えるでしょう。
そんなわけで、南東方向に高い木やビルなど、視界を妨げるものがない場所で観測しましょう。当日慌てなくてすむよう、前もって探しておかれることをオススメします。
観測地 月の高度(※) 始まり
18:45最大食
20:19終わり
21:53帯広 -0.6度 12.3度 21.4度 札幌 -1.9度 11.3度 20.7度 仙台 0.0度 14.3度 24.9度 新潟 -1.1度 13.5度 24.5度 東京 0.4度 15.4度 26.8度 金沢 -2.3度 12.9度 24.7度 大阪 -2.3度 13.4度 25.8度 広島 -4.5度 11.6度 24.6度 松江 -4.5度 11.3度 24.0度 高松 -3.3度 12.6度 25.4度 福岡 -5.8度 10.6度 24.2度 鹿児島 -5.0度 11.9度 25.9度 那覇 -5.4度 12.7度 28.3度 石垣島 -7.7度 10.9度 27.4度
※月の高度は物理高度です。大気による浮き上がり現象は考慮していません。
今回の月食は多くの地域で、月が欠けた状態で昇ってくる月出帯食となります。
月出帯食とは
部分月食が始まるのは18時45分です。このとき日本の多くの地点で、月はまだ地平線下にあります。このため、月の出を迎えた時に月食がすでに始まっており、月が欠けたまま昇ります。これを月出帯食といいます。
各地のデータ
下の表をご覧ください。日本各地の月の出時刻と食分および、日の入り時刻を示したものです。月の出の食分を見ると、多くの地点で数値が書かれており、月が欠けたまま昇ってくることがわかります。また、月の出の時点では日の入りを迎えておらず、太陽が沈もうとしているところです。非常に観測しづらいでしょう。
観測地 月の出 日の入り 時刻 食分 帯広 18:45 0.01 18:54 札幌 18:53 0.14 19:02 仙台 18:41 − 18:50 新潟 18:48 0.05 18:56 東京 18:39 − 18:47 金沢 18:54 0.15 19:02 大阪 18:55 0.16 19:02 広島 19:07 0.34 19:13 松江 19:07 0.34 19:14 高松 19:00 0.24 19:07 福岡 19:13 0.43 19:20 鹿児島 19:08 0.36 19:14 那覇 19:09 0.37 19:14 石垣島 19:20 0.53 19:25
月の出時刻の欠け方
下の図をご覧ください。札幌、仙台、東京、金沢、大阪、広島、福岡、那覇の8地点で、月の出となるタイミングで、どのくらい欠けているかを描いたものです。仙台と東京は、まだ部分食が始まっていませんが、他の地点では月出帯食となることがわかります。特に月の出が遅い福岡では44%も欠けた状態で昇ってきますから、月出帯食であることを実感できるでしょう。
月の出時刻における8地点の欠け方
最大食は暗夜で見られる?
今回、2021年5月26日に見られる月食の最大食は20時19分です。ここで、下の表をご覧ください。暗夜を迎える時刻(空が完全に暗くなる時刻)は、いずれの地点も20時19分以降となっています。残念ながら日本各地、暗夜で最大食を見ることはできません。
観測地 暗夜となる時刻 帯広 21:02 札幌 21:10 仙台 20:41 新潟 20:46 東京 20:32 金沢 20:48 大阪 20:44 広島 20:55 松江 20:57 高松 20:48 福岡 20:59 鹿児島 20:50 那覇 20:43 石垣島 20:51
月食といえば、月がどんどん欠けていく様子を観察するのが楽しみの一つです。
各地同じ割合で欠ける
日食と違って月食では、時刻が同じなら地球上のどこから見ても、欠ける割合が同じです。欠ける方向は異なりますが、日本国内ではそれほど大きな違いはありません。
前半の欠け方
下の図は、右下の皆既月食の始まりを基準に13分間隔でさかのぼり、欠け方の変化を描いたものです。
最初は18時45分ごろ、月の下側から欠け始めます。次第に地球の影が月面に深く入り込みながら、右下側が大きく欠けるようになります。最後は月の左上部分だけが残り、20時09分に皆既月食となります。しかし、皆既になってからも本影の端に近い部分が、まだ光っているように見えるのが普通です。
前半の欠け方(13分間隔)
後半の欠け方
下の図は、左上の皆既終了を基準に、13分間隔で欠け方の変化を描いたものです。
皆既食が始まってから20分もたたず、20時28分になると、月の左側が光り始めて皆既月食が終了します。その後は少しずつ左側が光る面積が増え、満月の状態を取り戻していきます。
21時53分になると地球の本影から抜けて、3時間8分におよんだ月食が終了します。半影食はまだ続いていますが、肉眼で観察するのは難しいでしょう。
後半の欠け方(13分間隔)
下の図は地球の影に対する月の経路を描いたものです。赤い部分が地球の本影で、ここに月が入ると欠けて見えます。黄色い部分は半影で、太陽の光が一部届いています。
図を見ると、地球の本影に月がスッポリ入り込みますが、端の方をギリギリをかすめるように通過します。このため食分が1に近く、皆既継続時間も18分台しかありません。普通なら1時間以上継続しますから、今回は異例の短さといえるでしょう。
地球の影を通る月の経路
次のような点に注意して楽しみましょう。
色の変化
皆既月食中に見られる月の色が普段と違います。食分が小さいうちは気づきませんが、食分が0.5を超えたあたりから何となく色あせてきて、次第に赤味を帯びてきます。そして、皆既となる頃はオレンジ色や赤銅色、または赤黒い色などに変化し、なんとも言えない美しさです。皆既中の色は毎回異なりますし、時間によっても変化します。色の違いを楽しみましょう。
皆既中の明るさ
通常は本影の中心に近い側は暗くなり、反対側は明るくなります。また時間の経過とともに変化します。
それから皆既中の明るさは、毎回異なります。火山の爆発によって大気中に火山灰が大量にまき散らされたり、月が地球の影の中心に近い所を通ると、暗い月食になる傾向があります。果たして今回の皆既月食の明るさはどうなるでしょうか?
暗かった2018年1月の皆既月食
(読者のブン太郎さん撮影)
ぼやけた欠け際
日食とは違い、月の欠け際はぼやけてはっきりしません。これは地球の大気によって太陽光が分散し、地球の影の境界がはっきりしなくなるからです。「大気を持った地球の影が月に映し出されているんだ」と思いながら欠け際を観察すると、大自然のドラマを感じます。
月食中、欠け際の写真
月食の欠け際はぼやけてハッキリしない
ターコイズフリンジ
皆既月食中や皆既となる直前・直後に、狭い幅で青色や青緑色の部分が見られることがあります。これをターコイズフリンジ(またはブルーバンド、ブルーフリンジ)と言います。ターコイズフリンジは2011年の皆既月食の頃から注目され始めましたので、話題としては比較的新しいものです。
地球大気上空にあるオゾン層を通過した光は青味がかった色をしており、これが月面上に投影されたのがターコイズフリンジです。地球本影の端のあたりに青味がかった帯が見られるか、確認しましょう。写真撮影するとわかりやすくなりますよ。
ターコイズフリンジの写真
下側が帯状に青みがかっている
双眼鏡や天体望遠鏡で観察
皆既中の美しい月をじっくり観察しようと思ったら、やはり天体望遠鏡に勝るものはありません。といっても天体望遠鏡は大掛かりになってしまいますから、双眼鏡をお持ちの方はそれでもよいでしょう。
肉眼で見た場合よりも大きく拡大されて細かい部分が見えますから、感動の度合いが違います。特に天体望遠鏡を通して見た皆既中の月は、同じ月面上でも場所によって色合いや明るさが違っているのがハッキリとわかり、格別なものがあります。肉眼よりも双眼鏡。双眼鏡よりも天体望遠鏡がオススメです。
見えないクレーター
天体望遠鏡を使って欠け際を観測してください。いつものようにクレーターが見えるかと思いきや、ほとんど見ることができません。これは、月食中の月はあくまでも満月だからです。太陽光が月の正面から当たって影ができないため、クレーターが立体的に見えないのです。
下に示したNASAが提供する月食図(月食が見られる地域)をご覧ください。これを見ると、世界的に月食が見られる地域(白い部分)は、大半が海上であることがわかります。
次に日本付近をご覧ください。月の出とともに月食が始まるU1のラインが日本列島を横切っています。この線よりも左側では、月の出の時点で既に月食が始まっており、月が欠けた状態で昇ってきます。逆に右側では欠け始めを見ることができます。世界的に見ると日本は、比較的条件が良いと言えるでしょう。
月食が見られる地域(NASA提供)
次回は2021年11月19日にあと一歩で皆既月食という、大きな部分月食が見られます。今回はかろうじて皆既月食となりましたが、次回は逆に食分0.978と、ギリギリ皆既に届きません。
その次は2022年11月8日に好条件の皆既月食が見られます。夕方以降に食分が大きな皆既月食となりますので、今回のように多くの方が楽しめそうです。
※このページのシミュレーション画像は、自作ソフト「つるちゃんのプラネタリウム シェア版」に含まれる「つるちゃんの日食ソフト」プラグイン機能を使って ΔT=69.2秒を入力し、独自に計算したものです。画像は正確な予報と比較して、皆既食の始まりと終わりは時間換算で30秒以内、それ以外は10秒以内の誤差を含みます。 |