天体望遠鏡の鏡筒の形式

 天体望遠鏡にはさまざまな形式があります。鏡筒によって大別すると、反射式、屈折式、カタディオプトリック式(反射屈折式)の3種類に分かれます。それぞれに特徴があって、どれがいいと一概に言うのは難しく、ベテランの方でも好みが分かれます。また、反射式やカタディオプトリック式はそれぞれさらに何種類かに分かれており、購入する際にどれにしようか迷ってしまいます。ここでは天体望遠鏡の形式をよくつかんでいただき、天体望遠鏡を選ぶ際の参考にしていただければと思います。

屈折式天体望遠鏡

 天体望遠鏡と聞けばどのような形を想像しますか? 大半の方がレンズを空へ向けて細長い筒の下側からのぞく屈折式を思い浮かべるのではないでしょうか。屈折式天体望遠鏡はそれほど一般的な形式で、アマチュア天文界では非常にオーソドックスな形式です。また、ガリレオ・ガリレイが人類で初めて天体へ望遠鏡を向けたのも、屈折式天体望遠鏡でした。

 屈折式天体望遠鏡の鏡筒はスリムで細長く、鏡筒の後ろからのぞきます。このタイプは全面に対物レンズと呼ばれる凸レンズを配置していますが、これはガラスを通過する光は進路が曲がるという性質を利用しており、光を1点に集めています。いってみれば、虫めがねで拡大するようなものです。

 良い点は、筒内気流が起こらないことです。このためユラユラしない安定した星像を得ることができ、惑星や二重星の観測などで威力を発揮します。その反面、ガラスを通過する光は色(難しく言うと、光の周波数)によって屈折率が異なるため、プリズムのように光が分散されてしまいます。その結果、星のまわりに色がついて星像がにじんだように見える色収差が発生してしまうという弱点があります。これを克服するために、別の凹面レンズを組み合わせることによって色収差を抑えており、アクロマートレンズアポクロマートレンズなどと呼ばれています。

屈折式の詳細な形式

 屈折式天体望遠鏡は次の2種類があります。屈折式といえばケプラー式といってもよいくらい、現在はケプラー式が普及しています。

ガリレオ式
ケプラー式

反射式天体望遠鏡

 反射式天体望遠鏡は一般の方にはあまりなじみのない形式かもしれません。その名のとおり、鏡で反射させながら光を集めます。最も一般的なのはニュートン式で、主鏡と呼ばれるメインの鏡には放物面を採用しています。これは平行に入射した光が放物面で反射されると、光が1点に集まるという性質を利用しています。しかしこのままでは、光はもと来た方向(星が見える方向)へ帰ってしまいます。そこでもう一枚、副鏡と呼ばれる平面鏡を配置して光の進路を90度曲げ、鏡筒の横からのぞくようにしています。

 製造するという点からいうと、自作するアマチュアもいるくらいに製造が簡単です。このため屈折式に比べて安価であるのが最大のメリットです。天体望遠鏡の性能はほとんど全てが口径の大きさで決まりますから、反射式を選ぶと大口径を安い値段で手に入れることができておトク感があります。

 しかし、反射式では視界の中心からはずれると、星が尾の生えた彗星のように見えてしまうコマ収差と呼ばれる収差が発生します。これは焦点距離が短いものほど顕著に現れます。ですから、焦点距離の長いものを選ぶことにより、発生を抑えることができます。また、鏡筒の前面が開いていますから、鏡筒と外気との温度差によって筒内気流と呼ばれる気流が発生し、星像がユラユラと揺れてしまいます。筒内気流は使用する前にしばらく温度を慣らしておくことによって、低減することができます。

反射式の詳細な形式

 反射式天体望遠鏡は主に次のような種類があります。現在最も普及しているのはニュートン式です。アマチュアの反射式望遠鏡といえばニュートン式と言っても過言ではありません。

ハーシェル式
グレゴリー式
カセグレン式
ニュートン式
ナスミス式
クーデ式

カタディオプトリック式(反射屈折式)

 屈折式と反射式の良いところを取り入れたのがカタディオプトリック式天体望遠鏡(反射屈折式天体望遠鏡)です。カタディオプトリック式は反射式のように凹面の主鏡を配置しますが、副鏡の方は主に凸面鏡です。鏡で2回反射させることによって鏡筒内で光を往復させながら、主鏡の方向へ光を集めるのです。主鏡の真ん中には丸い穴が開いていて、屈折式のように鏡筒の後ろ側からのぞくのが一般的です。また、カタディオプトリック式では補正版や補正レンズを鏡筒の前面へ配置して像の歪みをおさえています。

 カタディオプトリック式の最大のメリットは、鏡筒を非常にコンパクトにできることです。鏡筒の長さが短いため扱いやすく、野外への持ち運びにも便利です。その反面構成が複雑で、高度な設計技術を用いたり高精度な製造品質が要求されます。また、調整不足によって像があまくなることもあります。かといって光軸修正が反射式と比べて難しく、カタディオプトリック式の欠点となってしまいます。

カタディオプトリック式の詳細形式

 カタディオプトリック式天体望遠鏡は主に次のような種類があります。現在、眼視観測用として最も普及しているのはシュミットカセグレン式です。

シュミット式
シュミットカセグレン式
ベーカーシュミット式
マクストフ式

3つの形式による比較

 3つの鏡筒の形式をまとめて比較すると下表のようになります。どれも一長一短がありますので、天体望遠鏡を購入される場合はよく検討してください。

形式 屈折式天体望遠鏡 反射式天体望遠鏡 カタディオプトリック式天体望遠鏡
写真 屈折式望遠鏡の例 反射式望遠鏡の例 カタディオプトリック式天体望遠鏡の例
方式 鏡筒の前面に対物レンズを配置 ・鏡筒の後部に放物面の鏡(主鏡)を配置
・鏡筒の前方には平面鏡(副鏡)を配置
・鏡筒の後部に凹面鏡(主鏡)を配置
・鏡筒の前方には凸面鏡(副鏡)を配置
・鏡筒の最前面や接眼レンズ手前に補正レンズを配置する
光の集め方  対物レンズのガラスを通過する光の屈折を利用 放物面の主鏡と平面鏡で光を反射させる 凹面鏡の主鏡と凹面鏡の副鏡で光を反射させる
のぞく位置 鏡筒の後部から見る 鏡筒の横から見る 鏡筒の後部から見る
特徴 ・視界全体に像が安定。惑星や二重星の観測では威力を発揮
・アクロマートレンズの場合は像のまわりに色がついて多少像がにじむ(色収差)
・アポクロマートレンズの場合は色収差は非常に少ない
・視界の中心像がシャープ
・視界中心からはずれるとコマ収差が出る
・色収差がなく像のまわりに色がつかない
・非常にコンパクトな鏡筒
・補正レンズで補正するため、視界全体的に像のひずみが少ない
・色収差は少ない
・調整不足により像があまいことがある。場合によっては惑星観測に不向きとも・・・?
筒内気流 鏡筒が密閉されているので筒内気流がない 温度差により筒内気流が起きる
→外気温に慣らしてから観測する必要がある
・補正レンズを鏡筒の最前面に配置した場合は密閉されており、筒内気流は起きない
・補正レンズを接眼レンズ手前に配置した場合は筒内気流が起きる
手入れ 手入れや保管が容易 衝撃で鏡の位置がズレる場合があり調整が必要。調整はアマチュアでも可能 衝撃で鏡の位置がズレる場合があり調整が必要。調整は反射式よりも難しい
価格 反射式やカタディオプトリック式に比べて高い 安価で大口径が手に入る 反射式と比べると価格は少し高い目だが、比較的安価で大口径が手に入る

関連リンク: 天体望遠鏡の鏡筒でよくある質問