彗星に衝突する探査機の想像図(提供:NASA-JPL)
彗星に衝突する探査機の想像図

ディープ・インパクトとテンペル第1彗星

 デープ・インパクト。どこかで聞いたことのある名前ですね。以前、地球に衝突しそうになった彗星を描いた映画がありましたが、そのタイトルがディープ・インパクトでした。あるいは、皐月賞を勝ち取った馬の名前を思い出した方がおられるかもしれません。
 
 ところで、2005年1月12日にアメリカ航空宇宙局(NASA)から同じ名前を持ったディープ・インパクトという探査機が打ち上げられました。その行き先はテンペル第1彗星。目的はもちろんテンペル第1彗星の調査にあるのですが、この中で面白い計画が予定されています。さて、その計画とはどんなもの?

地球、テンペル第1彗星、探査機の軌道(提供:NASA-JPL)
地球、テンペル第1彗星、探査機の軌道

探査機の概要(提供:NASA-JPL)
探査機の概要

ディープ・インパクト計画

 ディープインパクトは、3.2m×2.3m×1.7mの大きさをした探査機です。2005年1月12日に打ち上げられましたが、それから約半年かけて大きな楕円軌道を描きながら、地球の軌道よりも少し外側に位置したテンペル第1彗星へ到達します。
 
 探査機は、親機となって観測を行うフライバイ機と、インパクターと呼ばれる子機からなります。彗星に近づくと、銅でできた重さ370Kgのインパクターを彗星に向けて発射。そのままインパクターは時速37000Kmで、アメリカ独立記念日である7月4日に、直径4Kmのテンペル第1彗星に衝突します。
 
 衝突の際には氷や岩石のかけらが飛び散って、衝突跡にはクレーターができます。この様子を700Km離れた位置にあるフライバイ機をはじめ、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙赤外線望遠鏡、チャンドラX線観測衛星などからも観測する予定です。
 
 なお、「彗星に名前を届けよう」と題して募った希望者の名前をCDへ書き込み、これがインパクターに積み込まれているそうです。

今後の予定

 ディープ・インパクトの予定は次のようになっています。
 
 ・2005年1月12日午後1時47分(米国東部時間)
     ケープカナベラル空軍基地より打ち上げ成功
 ・7月3日
     テンペル第1彗星に88万Kmまで接近してインパクターを発射
 ・7月4日14時52分(予定)
     インパクターがテンペル第1彗星と衝突
 ・8月上旬
     衝突から30日後に観測を終了

彗星の軌道について

 下の絵はインパクターがテンペル第1彗星と衝突する7月4日の太陽系のようすをつるちゃんの3D太陽系のシェア版で描いたものです。地球とテンペル第1彗星は比較的接近した位置関係にあり、彗星を観測するには良い条件であることがわかります。
 
 また、テンペル第1彗星は軌道の色が水色から青色に変わる境界付近にいますが、これはテンペル第1彗星が地球軌道の平面上に近い位置にあることを意味します。このことは偶然ではないと思います。彗星の位置が地球軌道の平面から離れていると、探査機打ち上げ後に、太陽の引力に逆らって地球軌道から離れた方向へ探査機を加速しなければならず、燃料の無駄遣いになります。なので、テンペル第1彗星が地球軌道の平面と交差する頃に探査機が彗星に接近できるよう、タイミングを合わせて探査機が打ち上げられているのではないかと思います。(つるちゃんの推測で、事実を確認したわけではありません)

7月4日太陽系のようす

テンペル第1彗星を観測しよう

 ところで、衝突される側のテンペル第1彗星ですが、この彗星は少し大きめの天体望遠鏡があればアマチュアでも十分に観測できる明るさで10〜11等級。口径6cm程度の小型の天体望遠鏡の極限等級は10.7等星ですから、このぐらいの口径の天体望遠鏡でもなんとか見ることができるはずなのですが、少しでも街明かりがあったりすると、その姿を捉えるのは難しいでしょう。口径10cmになると極限等級は11.8等星となりますので、空が暗い場所ならどうにかといったところでしょうか。
 
 淡いテンペル第1彗星を確実に観測するのであれば、できれば口径15cm以上の天体望遠鏡が欲しいところです。ただし、インパクターとの衝突によって彗星が突発的に明るく輝くことも予想されます。とりあえずは天体望遠鏡があれば観測してみる、というのが正解ではないでしょうか。
 
 下の絵は星座を背景にしたテンペル第1彗星の動きです。5月上旬頃にはおとめ座の北部ε(イプシロン)星の近くにいますが。その後は徐々に南下を始めます。5月31日におとめ座δ(デルタ)星へ大接近した後、少しずつ南東(左下)方向へと向きを変えていきます。7月2日にはおとめ座の1等星スピカに3.3度まで接近し、その2日後には7月4日のビッグイベントを迎えます。

テンペル第1彗星の経路

観測する際のポイント

 テンペル第1彗星を観測する際のポイントや注意点をいくつか挙げておきましょう。

天体望遠鏡が必要
 先でも紹介しましたが、テンペル第1彗星は暗い天体なので、観測するには天体望遠鏡が必要となります。「天体望遠鏡は持ってないよ」という方は、お近くの天文関係施設で催される観望会などを利用するとよいでしょう。
空が暗い場所へ
 テンペル第1彗星は、暗く淡い天体です。これをハッキリと観測しようと思えば、まずは空が暗い場所へ移動しましょう。街明かりがあると、淡い彗星の光は街明かりに埋もれてしまって詳しく観測できないどころか、彗星の姿を捉えることすらできなくなってしまう恐れもあります。暗い夜空を求めて移動する労力を惜しんではいけません。
南から西の方角が開けた場所
 一般的に観測がしやすい時間帯となる夜21時頃を考えた場合、テンペル第1彗星が見える方角は南から西にかけての方角になります。特に、インパクターが撃ち込まれる7月上旬頃は南西の方角に見えます。したがって、こちらの方角が開けた場所を事前に探しておきましょう。できるだけこの方角に街明かりやネオンがない場所を選ぶようにします。
彗星の見え方
 彗星といえば長い尾っぽを想像する人も多いのではないかと思いますが、テンペル第1彗星の場合は太陽からの距離が離れていることもあって、発達した長い尾は期待できません。薄っすらと短い尾程度なら確認できるかもしれませんが、その程度です。
 
 彗星本体()から放り出されたガスやチリは核を取り巻き、コマが形成されますが、小型の天体望遠鏡でテンペル第1彗星を観測する場合は主にコマを観測することになります。天体望遠鏡を向けると、ぼんやりと丸く、中心核を取り巻く小さな雲のように見えますが、これが彗星の見え方です。テンペル第1彗星の場合、中心核は暗くて小さいので、小望遠鏡では見えないかもしれません。
見つけ方
 テンペル第1彗星は暗い彗星なので、観測するためにはあらかじめ、彗星の位置を確認しておく必要があります。
 見つけ方としては、明るい星を目印にして彗星を探すようにしましょう。明るい星から暗い星へとたどり、次第に彗星がある場所へと近づいていくわけです。下の観測資料の中に、星図へのリンクを用意しましたので、彗星を探す時の参考にしてください。
 また、彗星が明るい星に接近した時は、彗星を見つけるチャンスとなりますので、見逃さないようにしましょう。

観測資料

 テンペル第1彗星を観測する際に必要になると思われる資料をまとめましたので参考にしてください。

テンペル第1彗星の見える方向(東京、21時の空)
  ・おおまかな位置をつかむのに役立ててください。
  ・日周運動により、時間が違うと星の位置は移動することに注意してください。
  ・東京との経度の違い(東西方向の距離)による時間差に注意してください。
   ※例えば東京で21時の星空は、福岡:21時37分、大阪:21時17分、根室:20時37分の星空となります。
   5月14日
   5月28日
   6月4日
   6月11日
   2005年6月18日
   2005年6月25日
   2005年7月2日
   2005年7月4日(解説付き) インパクター撃ち込み後最初の夜
   2005年7月9日
   2005年7月16日
   7月23日
   7月30日
 
   ※一部のページを後日削除しました。
星図へのリンク
  ・だいたいの位置がつかめたら、詳細な位置を下の星図で確認してください。
 
   5月のテンペル第1彗星の動き
   6月前半のテンペル第1彗星の動き
   6月後半のテンペル第1彗星の動き
   7月前半のテンペル第1彗星の動き
   7月後半のテンペル第1彗星の動き
テンペル第1彗星の明るさ
   テンペル第1彗星の光度曲線
月齢カレンダー
   2005年6月の月齢カレンダー
   2005年7月の月齢カレンダー

テンペル第1彗星の動きをシミュレーションしよう

「つるプラ」でシミュレーション
   「つるプラ」でテンペル第1彗星を表示する方法をご覧ください。
Javaアプレットでシミュレーション
   つるちゃんのプラネタリウム for Javaアプレットを使ってテンペル第1彗星の動きを調べましょう。
   ※アナログ電話回線接続の場合は各アプレットの表示に30秒から1分程度かかります。
 
   万能プラネタリウム 彗星がどちらに見えるかを調べます。
       -->観測地と日時を変更
   月齢カレンダー 月明かりによる影響の少ない日を調べます。
       -->観測月を変更して月をクリック
   惑星の経路 彗星の移動経路を調べます。
       -->惑星をテンペル第1彗星へ変更
   3D太陽系 テンペル第1彗星を含めた太陽系の様子を立体表示します。
       -->日時や視点の位置(縦と横のスクロールバー)を変更
   観測情報 テンペル第1彗星をはじめ、太陽や月の出没時刻等を調べます。
       -->観測地と日時を変更

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女: 彗星に銅のかたまりをぶつけたらどうなるのかしら。衝突で彗星が明るく増光するといいのになあ。
男: 僕の場合、つのる想いを君にぶつけて、恋の光を増光させたいな。
女: 何わけのわかんないことを言ってるのよ! (でも、ちょっとうれしい・・)

つる: つるちゃんの場合、たまるストレスをお前らにぶつけて、ストレスを発散させたいな。
男、女: 迷惑なヤツ!
つる: グスン・・・。
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つるちゃんのプラネタリウム 過去に紹介した彗星の記事