ルーリン彗星(鹿林彗星)を観測しよう

ルーリン彗星とは

 ルーリン彗星(鹿林彗星)(C/2007 N3 Lulin)は、2007年に台湾の鹿林(ルーリン)天文台で41cm望遠鏡によって行われるルーリン・スカイ・サーベイにより発見された彗星です。発見された当初は特異小惑星と思われていましたが、その後小さなコマがあることが確認されたため、ルーリン彗星として登録されました。
 
 彗星は2009年1月10日に最も太陽へ近づいて近日点を通過し、その後急速に地球へ近づいてきます。そして2月24日には0.41AU(約6千万キロ)まで接近し、この頃、ルーリン彗星は4等台まで明るくなるのではないかと期待されていました。
 
 しかし、その後の彗星の明るさ推移から考えて、1等ほど暗い5等台まで明るくなると考えられています。5等台といえば街中から肉眼で見ることは難しいかもしれませんが、双眼鏡を使うと楽に見ることのできる明るさです。また、理想的な観測条件下では肉眼でも確認することができるでしょう。以降では、ルーリン彗星を観測するための解説をしていきます。

西はりま天文台提供
西はりま天文台の飯塚研究員、前野研究員 が2月7日に撮影したルーリン彗星
 彗星らしい緑色っぽい色をしています。
 右側に見える輝星は、てんびん座のα星(2.8等)。
 写真をクリックすると西はりま天文台のページを開きます。(高解像度の画像あり)
 3月1日にはルーリン彗星と土星の観望会が行われるので、西はりま天文台へ行かれてみては?
 提供:西はりま天文台
 
ルーリン彗星が移動していく様子を見ることができます
読者のブン太郎さんが2月22日未明に撮影したルーリン彗星の動き
 クリックすると、地球へ接近して動きが速くなったルーリン彗星が移動していく様子を見ることができます。
 提供:ブン太郎さん

一般的な彗星の見え方、マメ知識

星雲状にぼんやり見える

 彗星は恒星のように点ではなく、広がりのある面積を持った天体です。ですから、肉眼で見ても双眼鏡や天体望遠鏡で見ても、星雲状にぼんやりと広がって見え、小さくて丸い雲の切れ端のように見えます。
 
 一般に「彗星が5等星の明るさで見える」などと表現しますが、これは「彗星全体の光を1箇所に集めたとしたら5等星の明るさに見える」という意味です。ですから、部分的に見れば彗星は5等星よりもかなり暗くなってしまい、想像した以上に見づらいものですから注意しましょう。

核とコマ

 天体望遠鏡で彗星を拡大してみるとわかるのですが、彗星の中心部分には小さくてひときわ明るく輝く部分が見えます。これはと呼ばれており、彗星の本体になります。そして核を取り巻くようにぼんやりとした光の塊はコマと呼ばれます。コマは核から放出されたガスやチリによってできたもので、太陽の光を反射して輝いて見えます。
 
 肉眼や双眼鏡だと難しいのですが、天体望遠鏡で見る機会があれば、核が見えるかどうか注目してみてください。また、コマの部分も小さな筋や細かい模様のようなものが見えることがあります。例えばヘール・ボップ彗星の場合には、コマの部分に核を取り巻くように貝殻状のいく筋もの模様が見えた時期がありました。この辺も気をつけて見られるとおもしろいと思います。

 大きな彗星にはが見られますが、長い尾が見られるケースは多くありませんで、むしろ少数派です。ルーリン彗星本体は小型の彗星ですから、短いものしか観測できないものと考えられます。尾もコマと同様、核から放出されたガスやチリによってできています。彗星の尾はダストテイルイオンテイルの2つのタイプが存在します。ダストテイルは彗星からはき出されたチリが太陽の光を反射して白く光って見えますが、イオンテイルはプラズマ状態が光って見えるため青っぽくみえます。いずれにしても、尾が肉眼で見えるほどの大彗星はそんなに多くはないでしょう。しかし、空が十分に暗い場所で観測すると、2本の尾が伸びている様子がわかることもあります。
 
 尾の生えた彗星らしい姿を見たいと思うのでしたら、倍率の高い天体望遠鏡よりも、むしろ6倍から10倍くらいの倍率が低い双眼鏡がおすすめです。倍率が高くなるとそれだけ視野(見える範囲)が狭くなり、彗星全体の姿を見渡すことができなくなるからです。天体望遠鏡で彗星全体をご覧になりたい場合は、できるだけ倍率を低くして観測するようにしてください。

天体望遠鏡での見え方

 彗星はボーッとしていて一定の広がりを持つ天体ですから、天体望遠鏡で見ると意外に大きなものです。ですから、彗星の全体を見たい場合はあまり倍率を上げない方が良く、できる限り低倍率で観測するようにしましょう。一方、彗星の核を観測したい場合は少し倍率を高い目にした方がよいでしょう。大型の彗星では核が点像ではなく細長く伸びていたりすることもあります。それから、空気の澄んだ空では彗星は緑色っぽい色に見えることがありますから、この点にも注意して観測してください。
 
 天体望遠鏡で見た彗星の尾は、コマが少し細長く伸びたように見える程度で、多くの方が想像するようなカッコいい尾はあまり期待しない方がよいでしょう。

ルーリン彗星の軌道

長楕円軌道

 ルーリン彗星の軌道の離心率は1に非常に近い値です。このため放物線軌道で代用できるくらい、非常に細長い楕円軌道を描きます。この彗星はオールトの雲からやってきたと考えられ、公転周期も非常に長くて1500万年くらいと推定されます。また、彗星の軌道面と地球軌道面との傾きが小さいため、地球から見ると、太陽の通り道である天の黄道に沿って移動します。ただ、公転方向が地球と逆向きですから、地球と最接近する頃はすれ違うような格好になります。この様子は、下のリンクをご覧ください。

  アニメーションへのリンク

     ルーリン彗星(鹿林彗星)のアニメーション

近日点通過

 ルーリン彗星は1月10日に太陽へ最も近づいて近日点を通過します。このとき太陽との距離は1.21AUですから、地球−太陽間の平均距離である1AUよりも遠い位置にあることになります。彗星は太陽へ近づくほど活発に活動すると言われていますから、その意味では少し太陽から離れているだけに、活動はひかえめかもしれません。

地球最接近

 一方、地球との距離をみてみると、1月10日の時点では1.6AUと、まだ少し離れています。その後彗星は地球へ次第に近づいてきます。最接近となるのは2月24日で、このとき地球とルーリン彗星の距離は0.41AU(約6千万キロメートル)で、彗星としては接近する方です。この頃に最も明るく見えて、5等台で観測できるのではないかと期待されています。

軌道図

ほとんど放物線のように見えるルーリン彗星の軌道

地球へ最も接近した頃の太陽系

地球へ最も接近した頃の太陽系のようす

明るさの変化

難しい光度予報

 気になるルーリン彗星の明るさですが、実際に来てみないことにはわからないというのが正直なところです。非常に期待されていても明るくなってくれなかったり、それとは逆に突発的に急激に明るくなったりして、彗星によってさまざまだからです。そんな中、ルーリン彗星の予想される光度曲線が下の絵です。当初お知らせしたよりも1等級ほど暗い予報となっていますが、今のところ5等台にはなってくれそうです。

最接近まで

 ルーリン彗星の明るさは1月上旬は7等台後半ですが、その後は少しずつ明るくなって、1月後半に6等台になります。この頃なら双眼鏡があればどうにか観測が可能になります。その後も順調に明るくなれば、2月上旬に6等を突破して5等台になります。暗い場所からだと、肉眼で確認できるかもしれない明るさです。そして、地球へ最接近となる2月下旬には5等台前半に達します。

最接近後

 地球への最接近後は一気に暗くなります。3月1日に5等台半ばであったのが、3月5日頃に早くも6等を割り込んで、肉眼では完全に見えなくなってしまいます。そして、3月下旬になると8等級まで落ち込みますから、双眼鏡でも観測が難しくなってきます。

軌道図

ほとんど放物線のように見えるルーリン彗星の軌道

光度変化

前半緩やかに明るくなるが、後半は一気に暗くなる。
※最近の実態に合わせて2月7日に見直しました。

移動する経路

変化する彗星の位置

 地球もルーリン彗星も太陽をひとつの焦点とする楕円軌道上を動いています。したがって、彗星が見える位置も日を追うにつれてドンドンと変化していきます。下の絵は星座間を移動する経路を示したもので、5日間隔で日付を記しています。彗星は左下から右上へと移動します。

最初はてんびん座からおとめ座

 最初、1月頃はさそり座の頭の付近にいます。地球から離れているため動きも小さいですが、2月に入ってルーリン彗星が地球へ近づいてくるにしたがって、動きもだんだんと大きくなります。それにつれて、てんびん座、おとめ座へと進みます。2月16日から17日にかけては、おとめ座のスピカへ2.6度まで接近します。

最接近は土星の近く

 最接近となる2月24日頃にはしし座の後ろ足付近へやってきます。近くには土星が接近していますから、位置をつかみやすいことと思います。この頃のルーリン彗星の動きは非常に大きくて、1日に5度くらいも移動します。彗星はあっという間にしし座を駆け抜けていき、3月上旬には早くもかに座へと移動します。この間、2月27日から28日にかけてレグルスへ0.7度まで接近します。3月6日にはプレセペ星団へ近づいて、双眼鏡では興味深い眺めとなることでしょう。その後はふたご座へ移動していきますが、地球からの距離が離れてくるので、動きは次第にゆっくりになります。

詳細な経路

詳細な経路は下のリンクを参照してください。

  彗星の動きのリンク

    2月前半のルーリン彗星(鹿林彗星)の動き
    2月後半から3月上旬のルーリン彗星(鹿林彗星)の動き
    3月のルーリン彗星(鹿林彗星)の動き

星座間を移動する経路

彗星は2月から3月にかけて大きく位置を変える

ルーリン彗星の尾

尾の見え方

 彗星といえば尾。そんなイメージがあるだけに、ルーリン彗星の尾の見え方が気になる方も多いのではないでしょうか。下の絵は3日間隔で尾の見え方を示したものです。尾の長さは最大0.03AUで計算しています。
 
 ルーリン彗星の場合、近日点通過時の太陽からの距離が少し離れている関係で、ダストテイル(ダストの尾)はそれほど発達せずに、イオンテイル(イオンの尾)の方が発達することが考えられます。しかし、彗星が実際に来てみないことには何ともいえませんので、実際に観測して確かめてみるしかありません。いずれにしても、回帰した回数が少ない新しい彗星と考えられるだけに、はそれほど発達しないと思われますから、ずんぐりむっくりな姿を想像してください。尾が伸びた立派な彗星を思い浮かべて観測すると、期待外れになるかもしれません。

串刺しのお団子

 1月下旬から2月上旬頃にかけて、ダストテイルが見かけ上太陽と反対方向に伸びて見えるアンチテイルと呼ばれる状態が観測されました。これにイオンの尾を加えると、ルーリン彗星は串刺しされたお団子のような格好に見えます。この状態は地球最接近前後まで続くものと思われます。

反転する尾

 下の絵では彗星が衝になる25日から26日にかけてをはさんで、尾の向きは前半は右方向、後半は左方向に見えます。特に25日から26日にかけてはイオンテイルの向きが180度変わりますから、天体望遠鏡を使って確認したいところです。このとき、ダストテイルとイオンテイルが180度異なる方向へ伸びているという、珍しい姿を見ることができるでしよう。

尾は2月中旬がベスト

 尾の長さという点では、彗星が最も近づく2月24日頃よりも、少し前の2月中旬頃に最も長くなります。彗星が最も近づく頃は衝の直前で、彗星を正面から見るような形になります。したがって、尾は彗星本体に重なって見えるので、尾を観測するためには適さないのです。3月に入ってからでも観測できますが、地球からドンドンと彗星が離れていくこともあって、尾の長さも短く暗くなっていきます。そんなわけで、尾を観測するには2月の中旬頃をターゲットに観測するのがよいでしょう。 

尾が変化する様子

彗星の尾は衝をはさんで向きが変わる。

ルーリン彗星が見える位置

最良の条件

 彗星は一般的に日の入り後や夜明け前、太陽の近くで低い位置に見えて観測条件があまり良くないことが多いのですが、ルーリン彗星の場合は2月から3月にかけて、ほとんど最良といってもいいような条件で観測することができます。

地球最接近の日の場合

 下の絵は地球最接近となる2月24日22時、東京で見た場合の位置です。ルーリン彗星は南東の空でしし座の後ろ足付近に見えます。近くに0等級の土星が見えますから、これを目印にしましょう。彗星が5等級で見えるとすれば、双眼鏡やファインダーの視野へ土星を入れてから少し右上方向へずらせば、ボンヤリとしたつかみどころのない、小さな雲のように見える天体が視野に入ってきます。これがルーリン彗星です。
 
 この頃は尾の長さが短いので確認することは難しいかもしれませんが、尾が伸びている方向へ彗星が少しいびつに長く伸びて見えるかもしれません。天体望遠鏡を使うと、それをよりハッキリと観測することができます。また、彗星の核とそれを取り巻くコマも簡単に確認することができるでしょう。

彗星が見える位置

 彗星が見える位置は日付や時刻よって異なりますから、下のリンクから確認してみてください。

  見える位置のリンク(1週間ごと)

    2009年1月27日
    2009年2月3日
    2009年2月10日
    2009年2月17日
    2009年2月24日
    2009年3月3日
    2009年3月10日
    2009年3月17日

 一番の見ごろとなる頃、ルーリン彗星は見かけ上、土星と最も接近した状態にあります。土星は0等級で普通の1等星よりも明るいですから、これを目印にしない手はありません。2月23日と24日の夜は彗星を見つける最大のチャンスですから、下の絵を参考にして絶対に見逃さないようにしてくださいね。

2月23日〜24日が特に見つけやすい!!  23日22時ならルーリン彗星は土星のすぐ右下

2月23日に見えるルーリン彗星の位置

2月24日22時なら土星のすぐ右上

2月24日に見えるルーリン彗星の位置
※2日間隔で彗星の位置変化も表示しています。

彗星を見つけるコツ

 次に、実際に彗星を見つける際のコツを紹介しましょう。

観測場所

 できるだけ昼間のうちに、彗星が見える方角を見渡すことができる場所を探しておきましょう。また、遠くの街明かりや水銀灯などが少ない場所を選ぶようにします。明るい光があると、淡い彗星の光が見えなくなってしまうからです。

双眼鏡を準備

 条件が整えばルーリン彗星を肉眼で観測することができるかもしれませんが、なかなかそう簡単にはいきません。それは、光害や月明かり、薄モヤなど、見えにくくする要因がたくさんあるからです。それらを乗り越えて肉眼で見ることができたとしても、やはり双眼鏡の威力にはかなわないでしょう。もし双眼鏡をお持ちでしたら、ぜひとも用意しておきましょう。倍率が6倍から10倍程度のもので十分ですが、口径が大きいほど威力が増します。 

目印となる星からたどろう

 淡い彗星をいきなり双眼鏡や天体望遠鏡に導入するのは至難の業です。ですから、明るい星を目印にして彗星を探しましょう。明るい星から暗い星へとたどり、次第に彗星の見える場所へ近づいていくのです。星座がおわかりの方なら、何々座のこの辺りといえば、だいたいの位置を予想することができます。先に星図を使って解説していますから、これらを参考にしながらルーリン彗星探しにチャレンジしてください。

彗星をシミュレーションしてみよう

つるプラを使おう

 このページの画像は一部を除いて「天文ソフト・つるちゃんのプラネタリウム シェア版」で作成しています。同様な画像をフリー版(無料)でも表示させることができます。ダウンロードがお済みでない方はダウンロードしてお楽しみください。それから、ルーリン彗星のデータを設定しておく必要がありますから、下のリンクから設定内容を確認し追加してください。
 
   ルーリン彗星のデータ設定(シェア版、フリー版 共通)

Javaアプレットを使おう

 また、このサイト上でもつるちゃんのプラネタリウム for Javaアプレットによりシミュレーションを行うことができます。
 
   万能プラネタリウム 見える位置を調べる
   惑星の経路  移動する経路を調べる
   3D太陽系  軌道図を眺める

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それでは彗星の天体観測、がんばってくださいね!