皆既日食(日本のトカラ列島) 2009年7月22日

読者のブン太郎さんが北硫黄島東海上で、船から撮影された皆既日食の写真です。
つるちゃんの上海での日食観測結果もお読みください。
 
日本で46年ぶりに見られた2009年皆既日食

皆既日食とは

 日食は太陽が月によって隠されて、太陽の一部または全部が欠けて見える現象です。数年に一度の割合で見ることができますが、太陽が月によって完全に隠される皆既日食となると、なかなかお目にかかることができません。
 
 2009年7月22日に日本のトカラ列島で皆既日食が見られるのですが、日本国内の陸地で見られた前回の皆既日食は、1963年7月21日に北海道東部の一部地域で日の出直後に見られたものですから、実に46年ぶりの天文現象となります。日本の海上で起きたものを含めても、硫黄島東方で1988年3月18日に起こって以来、21年ぶりです。
 
  「一生のうちにどんな天文現象を一番見たい?」と尋ねられると、流星雨、大彗星、皆既日食のいずれかを挙げる人が多いと言われていますが、それくらい珍しい天文現象なのです。

前回、網走で観測された皆既日食のようす。さて、今回は?

1963年に網走で見られた皆既日食。日の出直後に30秒間見られた。黒い太陽の右上に見えるのは金星。
20世紀に日本で見られた皆既日食

日本での皆既帯

 トカラ列島皆既日食では皆既帯が日本の領域を横切りますが、残念ながらそのほとんどが海上です。陸地の部分を横切るのはわずかしかなく、有人島ではトカラ列島の7島、種子島の南部、屋久島、口永良部島、奄美大島の北部、喜界島、そして小笠原諸島の硫黄島だけです。このうち硫黄島については民有地を国が借り上げている上に、海上自衛隊の基地があるなど、一般の民間人は事実上立ち入ることが困難です。また、父島、母島は皆既帯からわずかに外れています。

皆既日食帯

皆既帯のようす
提供:NASA、Google GE:最大食地点

トカラ列島付近の拡大図

トカラ列島を皆既帯の中心線が通る
 そんなこともあって、実質的に陸上で皆既日食を観測できるのは先に書いた硫黄島を除く島だけで、このうち条件が良いのは皆既帯の中心線に近いトカラ列島の7島です。屋久島、種子島、奄美大島のように北限界線や南限界線に近い場所では皆既継続時間が短いですし、短い距離を移動しただけで皆既継続時間が大きく変わりますから、観測地決定の際には注意が必要です。皆既日食継続時間については、下のリンクを参照してください。
 
皆既日食の継続時間地図

トカラ列島について

 今回の皆既日食でメインとなるトカラ列島は鹿児島県十島村(としまむら)にあり、屋久島や種子島と奄美大島の間に位置します。北から順に口之島、中之島、平島、諏訪之瀬島、悪石島、小宝島、宝島の主に7つの島からなります。皆既帯の中心に最も近いのは悪石島で、6分以上も続く長い皆既日食となります。トカラ列島の詳細は、次のリンクを参照してください。
 
トカラ列島とは

世界での皆既帯

 世界レベルで見ると、今回の皆既日食は日本時間9時53分に西インドのカンバート湾から日の出とともに始まります。皆既帯は東北東へ進み、インド中部のジャバルプール、北部のパトナを通ります。さらにネパール南部のビラトナガール、バングラディッシュ北部のサイドプール、ブータンの首都ティンプー、さらにはヒマラヤ山脈の南斜面を月の本影が通過します。その後は中国へ移ります。
NASAの皆既帯のページを開きます
提供:NASA  クリックで拡大
 中国へ入った月の本影は、成都(チョントゥー)、重慶(チョンチン)、武漢(ウーハン)を通り、次第に真東に進路を変えます。その後は上海(シャンハイ)を通って東シナ海へ入ります。上海では日本時間で10時36分頃、皆既が5分間継続する皆既日食となります。中国で最も皆既継続時間が長くなるのは杭州湾北岸で、皆既が5分54秒継続します。
世界地図による皆既日食帯。インドから始まり太平洋で終わる
提供:NASA、Google
 その後、皆既帯は南西諸島へやってきて、種子島の南部、屋久島、口永良部島、奄美大島の北部、喜界島、そしてトカラ列島が皆既日食になります。このあたりから月の本影が進む方向は南寄りになり、東南東、そして南東方向へ変わってきます。
 
 次に皆既帯が通るのは北硫黄島、硫黄島、南硫黄島です。硫黄島の東280Kmで食の最大を迎え、このときの皆既帯の幅は258.4Km、皆既継続時間は6分39秒に達して今世紀最大の皆既日食になります。これほど長い継続時間の皆既日食は、123年後まで起こりません。
 
 ピークに達した月の本影はその後も南東方向へ進み、マーシャル諸島のエニウェトク環礁、ギルバート諸島のブタリタリ環礁を通り、タヒチ島の西1000Kmの太平洋上で日没となって終了します。
 
 なお、日食の全体図、月の影が動く様子は下のリンクをご覧ください。
 
皆既日食の全体図
月の影が動く様子(NASA)

長い皆既継続時間

 今回の皆既日食は皆既継続時間が長いのが特徴です。最も長くなる硫黄島から東の海上では6分39秒も継続します。なんだ、たったの6分じゃないかと思われるかもしれませんが、この継続時間は最近ではケタ外れといってもいいほど長いもので、今世紀中では最大の長さです。
 
 今世紀で次に長いのは1サロス周期後のアフリカ大陸北部で、2027年8月2日に起こる日食ですが、皆既の継続時間は6分23秒で16秒およびません。今回をしのぐものとなると、123年後の2132年6月13日(6分55秒)までありません。ところで今回、継続時間が長いのには理由があります。理由を知りたい方は次のリンクをご覧ください。
 
皆既日食の継続時間が長い理由

皆既日食を見るために

 なんとかして皆既日食を日本で見てみたいものだ。こう考えるのは当たり前ですね。先にも書いたように、日本の陸地で見るためには、トカラ列島か種子島、屋久島、口永良部島、奄美大島、喜界島へ行くくらいしか手がありません。島ということで現地の受け入れ態勢が必要なこともあって厳しい状況ですが、具体的にどうすればよいのかを知りたい方は次のリンクをご覧ください。
 
皆既日食を日本で見るために
 皆既日食を日本で見るのは厳しそう。でもあきらめてはいけません。そんなあなたにオススメな場所があります。今回の皆既帯は上海をはじめとする中国の大都市を通っていることから、中国で観測するというのはいかがでしょうか。詳しく知りたい方は次のリンクをご覧ください。
 
皆既日食を中国で見るために
中国で見る皆既日食

日本各地の見え方

 今回のトカラ列島皆既日食では、皆既帯に入らない地域でも日本列島ほとんどの箇所で食分が0.5を超えるような大きく欠けた部分日食を楽しむことができます。大まかに言うと北の地域よりも南の地域、東の地域よりも西の地域で大きく欠けます。例えば札幌では半分程度欠ける程度ですが、東京では4分の3も欠けますし、鹿児島まで行くと96%も欠けた非常に大きな食分の部分日食を観測することができます。
 
日本各地での太陽の欠け方
 地域によって異なりますが、だいたい11時をはさんで前後15分くらいの間に最大食を迎える箇所が多くなっています。各地の詳しい予報を知りたい方は、次のリンクをご覧ください。
 
皆既日食が見られる地点の日食(日本)
主要8都市の日食
地域別の欠け方
      北海道
      東北
      関東
      中部
      近畿
      中国
      四国
      九州、沖縄

日食中に見える星

 今回は皆既日食にならない観測地でも食分が大きいのが特徴です。それだけに最大食の頃には、普段なら日中には見ることのできない星を観測できる可能性があります。その中で、一番有力なのが金星でしょう。金星は最大光輝の頃には通常の日中でも確認することができるくらいに明るい惑星です。当日も−4.0等という明るさを持つ金星だけに、位置をしっかりと把握しておけば、ほぼ間違いなく確認できることと思います。
 
太陽と金星の位置関係。シリウスは見えるか微妙
 次に有力なのがおおいぬ座のシリウスでしょう。シリウスは全天で最も明るい恒星で、その明るさは−1.4等に達します。食分が0.8を超えるような地点では、シリウスも確認できる可能性があります。その他、日食中に見ることのできる星の候補は、次のリンクを参照してください。
 
日食中に見える星